376列車 梓萌2
「ああ。雨降ってきちゃったね。」
黒崎は上を覗き込んで曇り空を見た。
「ホント。よりによってこういう時に傘持ってないのよね。」
ちょうど傘を持っていないのは私も変わらない。
「ああ。大希迎えに来てくれるかなぁ・・・。」
「ナガシィ来てくれないよなぁ・・・。」
「えっ、自分の旦那呼ぶとかしないの。」
黒崎は驚いたように言った。
「ナガシィはねぇ、こういう所に傘持って迎えにくるような人じゃないから。そういうことする柄じゃないのよ。」
「柄じゃないってねぇ。もうちょっと自分の旦那さんを信用したら。こうやって話してるところ、話しかけづらいなぁとか思いながら、この近くで見てるんじゃないの。」
(ナガシィならあり得るか・・・。)
そう思った。ナガシィって人にはまず自分から話しかけるなんてことしないからなぁ・・・。まぁ、話しかける条件って言ったら自分から話しかけざるを得ない状況と私ぐらいしかないか・・・。えっ、ちょっと、私なら普通に話しかけてくるんだから、この近くにいるなら早く話しかけてよ。
「まっ、大希なら私に後ろから飛びついてきそうな感じがするけど。」
「なんでそんなに俺の行動が分かるのかな・・・。」
後ろから声がした。それに黒崎はやっぱりという顔を浮かべる。
「昼間から私の胸揉むの禁止。そんなにやりたかったら夜付き合うから。」
「積極的だねぇ、梓。」
「やめろ、大希の前・・・。」
「萌ちゃんもそう思う。梓って結構積極的・・・。」
「だから、昼間っから何の話をしてるのよ。」
顔を真っ赤にして否定する黒崎。絶対大希君心の中で「可愛い」って思ってるんだろうか・・・。周りの視線が集まるのがちょっとわかる。
「大希、と・・・とにかく早く帰ろう。卑猥な話は家に帰ってから。ここでは駄目。後卑猥な行動も家でね。じゃ、じゃあね萌ちゃん。またお茶会とかしましょ。」
「じゃあね。萌ちゃん。」
そう言うと鳥峨家は傘をさした。さした傘が一つなところを見ると、黒崎を迎えに来た目的はどうやら相合傘をしたかっただけなのだろうか。だから、あんな話しなくても・・・。
って、それはいいよ。ナガシィ早く迎えに来て。周りを見てもナガシィらしい人影はいない。ホントに迎えに来てくれないのかな・・・。
「萌。」
ナガシィの声だ。
「レヴォちゃん近くにおいてるから。」
そう言って駅前ロータリーの出迎え用レーンにおいてあるス○ルレヴォー○を指差した。確かに、ナンバーはナガシィの持ってるレヴォちゃんだ。カラーは「ちゃん」付けできるようなピンクじゃないブルーなんだけどね。
「迎えに来てくれたの。」
「別に。萌が傘持ってなかったなぁと思っただけだよ。」
「今日って夜から仕事だよね。」
「そうだよ。」
「今なら寝てる時間だよね。」
「だから、別にいいでしょ。寝てても起きてても。」
「はいはい。ナガシィ、ありがとう。」
「・・・ほら、早く乗って。帰るよ。」
ナガシィは目をそらして、すたすたとレヴォちゃんのところまで歩いていく。運転席に乗る前にちゃっかり私が乗れるように助手席のドアを開きっぱなしにしている。
私が乗るのを待って、すぐに車を動かす。早く寝たいんだね。そうこうしていると家に着いた。玄関を開けて、靴を脱ぐ。
「ナガシィ。」
そう呼びかけた。ナガシィがふと顔を上げるところを狙って、
「チュ。」
「えっ・・・。」
顔を真っ赤にしてビックリしている。
(可愛い・・・。)
「ちょっと、萌。これから寝たいんだけど。」
「頑張って寝てね。寝れなかったらちょっと付き合おうか。」
「寝れそうにないから、ちょっと話し相手になってよ。」




