372列車 解決策?
「あれ、これ前有ったっけ・・・。」
そう言い、梓は一枚の写真を手に取った。
「何何。また二人でどっかに行ったの。」
梓の取った写真を覗きながら、美萌が言った。この二人がなぜ来ているのかというと最初から会う約束をしていたからだ。こういうのは普通お店であって長話するモノだろって。分かってないなぁ・・・女の長話は井戸の隣でもあるぐらい、極端な場所じゃない限り場所は選ばないものだ。
「行ったんじゃないよ。撮ってきてもらったの。ナガシィの従兄にね。」
「へぇ、ちなみになんて言うの。」
「聞いても分かんないと思うよ。「railjet」っていうの。」
梓が手に持った写真に写っているのはオーストリアの国際高速鉄道「railjet」だ。と言っても、映っているのは本家のワインレッドではなく、チェコの鮮やかな青色の「railjet」のほうだ。ここでちょっとこの話に全く出てこなかった海外の高速鉄道の事を話すのもいいだろう。
「railjet」はオーストリアを中心にハンガリー・スイス・ドイツ・チェコ・イタリアを結ぶ、高速鉄道だ。運行開始は2006年で、最高速度は230キロ。シーメンス製の電気機関車「ユーロスプリンター」が牽引もしくは推進(客車を後ろから押して運転)する客車列車だ。日本の新幹線の1964年開業や320キロや客車列車だと言われると見劣りを隠せないかもしれないが、この「railjet」新幹線にはない強みを持っている。それは客車列車であることそのものだ。意外かもしれないが、それである。
「railjet」の国際ネットワークの中には先進的な電車を走らせるドイツ・スイス・イタリアと今では珍しくなりつつある客車列車を主に走らせるハンガリーをまたいでいる。このとき、古い方に合わせれば、古い方式を使う国は整備に困難をきたさないほか、先進的な電車が走っていても、一昔前はそれを使っていたのだから鉄道先進国でもノウハウをフィードバックさせるだけでいい。また、客車列車は例え機関車が故障したり、電化・非電化の違いがある区間でも、機関車だけを変えたりすれば線路を何処までもいける代物。融通の良さでは新幹線の何百倍も先を行くのだ。どうだろう、新幹線よりも開業や、最高速度が遅いからと言って侮ってはいけないと少しでも思ったのではなかろうか。
「光君って海外の鉄道も興味あるの。」
「ううん。あれ撮ってきてほしいって言ったのはナガシィの方よ。ナガシィったら「海外の鉄道で「eurostar」以来カッコいいって思った」って言ってたから。」
あの子供みたいにはしゃいだ反応は久しぶりに見たなぁ。
「目の前に可愛いお姫様がいるのに、浮気しちゃったんだ。」
美萌は冷やかし気味だ。といっても、ナガシィが鉄道を見る目で惚れるのは私を見ている時と違うし、それは最初から分かってることだし、別に冷やかされても、「ホント、ナガシィったらね、プンプン」とはならない。
「ってそれは関係ない。」
「あっ、ごめんごめん。」
梓はそう言いながら、写真をもとの位置においた。
「おっ、ナガシィ。」
「お邪魔してます。」
僕が部屋に入ってくると梓ちゃんと美萌ちゃんを見た。ちょっと挨拶をして、僕はすぐ近くにあったソファーに腰掛けた。僕の入る話じゃなさそうだから、黙っとこうか。
20分後、
「うーん・・・。」
そう言って二人とも考え込んだ。
「親との関係は最悪って感じかぁ・・・。」
「まぁ、光の彼女の勘違いなんだろうけどね。」
「でも、光君も隅に置けないねぇ。もう彼女がいるなんて。」
「その彼女が問題なの。」
「親と付き合せて話しましょうとはならないわよねぇ・・・。それじゃあ。」
「親のこと障害っていう子供は生きてて初めて見たわ。」
「・・・。」
それは二人も同じことだろう。梓は大希君との間に子供を4人、美萌は桃李君との間に子供を3人。二人とも一番上の子は反抗期が真っ盛りになっていく中学1年生と2年生。そろそろ「大っ嫌いだ」とか言われる時期なのだろうが、「障害」とは言われない。
「反抗期早かったのかな。」
「いや、そういう話じゃないから。」
「萌の感想としてはどうだったの。」
梓がそう聞いてきた。
「そうね。話を聞く限りでは、周りを諦めさせたいって感じ。周りは全員自分のやりたいことじゃなくて、別の事をやらせようとするから周りが諦めるぐらいの状況を自分で作り出そうとしてるんじゃないかって。」
「諦めさせるかぁ・・・。JR東海じゃなくても、大手の会社入った時点で周りは諦めると思うけどね・・・。」
「・・・。」
「まもとに親と話せる状況じゃないってぐらいだから、親のすごさとか気付いてないわよね。」
「うん、そうだと思う・・・。」
「私達は・・・
「親の偉大さを思い知らされた組だもんねぇ・・・。」
3人の声が揃った。
「・・・もうそこまで来ると家庭の問題だよね。他人の家なんだし、あんまり外からあーだこーだ言っても仕方ないんじゃ。」
美萌が言う。
「もちろん、口を出すつもりはないわ。でも、聞いちゃったからなぁ・・・。」
「ねぇ、萌。」
僕はそこで萌に話しかけた。
「なぁに。今梓ちゃんたちとお話し中なんですけど。」
「木ノ本とか留萌に聞いたら。そっちの方がまだどうしたらいいって言ってくれるんじゃないの。そう言う話。」
「・・・ナガシィ、どうしてそれを早く言ってくれなかったのかな。」
「迷列車見てたし・・・。」
(・・・携帯見ながら「変態」って言って吹く人は初めて見たぞ・・・。てか名列車って。)
美萌の頭の中だ。
(「変態」って昼から何の動画見てるのかと思った・・・。ってよくよく考えたら、変態ってエッチな動画見て口に出すものじゃないか・・・。名列車かぁ・・・。)
梓の頭の中だ。
「ちょっ、そんな大切なことよりも迷列車。」
萌はそう言いながら、僕の方に近づいてきた。あの萌、ちょっと目が・・・こ・・・怖いんですけど・・・。
「最大ボリュームにしてあげようか。」
「ご・・・ごめんなさい。」
このあと聞いてみたものの、あまり変わりはなかったらしい。ちょっと僕は萌にいじられ損・・・。
設定変更
二ノ橋美萌→沙留美萌
良いのはなかなか見つからない。




