371列車 崇城亜美
「・・・。」
亜美と正対した僕たちは言葉が出なかった。電話では大人でも営業でない限り言いそうにないことを言っていたのに、正対してみると光と同じ子供だったのである。個人情報の漏洩とか先ず普通の大人の口からは出ませんよ・・・。
「光ちゃんの御両親に会うのは初めてですね。私、崇城亜美と申します。お見知りおきを。」
やっぱり何か違う・・・。
「今年で12ですから、光ちゃんとは同級生です。」
と言われてもなぁ・・・。なんでこんなに12歳っていう感じがしないんだろうか。見た目は子供、頭脳は大人を地で行っているのだろうか。崇城はそう言いながら、光と同じロールの物を取り出し、刺さった自分の名前を打って僕たちに見せた。
「崇城亜美」。亜美自体は普通なのは光とのLINEのやり取りですでに分かっている。一方名字だけはさ行であること以外はっきりしていなかったが、こんな字を書くのか・・・。
「それはそうと、なぜうちの子にスマホとそのロールを。」
萌が単刀直入に聞いた。
「私のライバルとして、そして友達として付き合いたかったからというのがその答えです。御両親に黙っていてと言ったのは私事です。ご迷惑をおかけしました。」
「・・・。」
「ライバルっていうのは。」
「私はJRを目指してます。もちろん、生半可な気持ちでJR職員になれるだなんて思っていません。だから、今から勉強して、なろうって決めてますし、すでに行動をしています。しかし、いくらそれが出来たとしても、張り合う仲間が私には欲しかったのです。私の周りにはそのような人は一人もいませんので、光ちゃんはその意味でも適任であったということです。ご両親が心配しているように息子さんをただのカモとは思っていませんので、ご安心ください。」
「は・・・はぁ・・・。」
萌も崇城の何とも言えない感覚に押されているようである。
「光ちゃんと出会ったのは小学1年の時です。その時はちょっと話しただけでしたから、彼の事を女の子と勘違いしてしまいました。それは失礼しました。・・・そのあと光ちゃんの夢が私と同じということを知ったので、お互いいいライバルとして時折情報交換をしようという流れになり、光にそのスマートフォンを渡した次第です。それが3年前の事です。」
「亜美の言ってることは本当だよ。だから、信じてください。」
光は頭を下げた。
「分かったから、顔を上げて。」
宥めるのが大変だ。
「でも、こういうのは亜美ちゃんの親御さんも知らないことでしょう。」
「左様です。」
「なんで、亜美ちゃんの親には話していないのかな・・・。」
「私の親は夢の障害でしかありません。光ちゃんとの現状が私の親にしれれば、当然離間工作を仕掛けて来るでしょう。」
普通の大人で言わないことを平然と言った。でも、自分の親が夢の障害でしかないというのは少々言い過ぎではなかろうか。僕はそう思った。
「ちょっとそれは言いすぎなんじゃないかな。自分の親が夢の障害って・・・。」
そう思ったのは萌も同じだった。だが、
「会ったこともないのにそんなこと言わないでください。私の家はこことは違うんです。光ちゃんは恵まれていますよ。親は子供の夢を応援してくれる。家とは正反対です。私なんか・・・夢を諦めてもらうことが幸せだなんて浴びせる親ですよ。」
崇城は声を荒げた。だが、本当にそれを言う親なのだろうか。確かに、崇城の家と僕らは違う。だが、そこは本当なのだろうか。何かの勘違いじゃないんだろうか。そう勘ぐる。だが、前の崇城の表情を見る限りではそれが嘘とは言えないのである。
「・・・。」
「失礼しました。疑問に思われているかもしれませんが、それは事実です。親は私が将来会社の跡取りとして育ってほしいとしか思っていないのでしょう。私の周りにはほとんど「女の子らしい夢を持て」という人しかいません。夢を見る自由さえ私にはない。そんな馬鹿げたところに戻る気も頼る気もありません。したがって、私が光ちゃんとどういう関係であるかというのは私の親には当然内密でお願いします。他言はしないようにお二人にもお願い申し上げます。」
「・・・。」
というのが崇城の主張だった。
夜。
「どう思った。」
萌は頭を洗いながら僕にそう聞いてきた。僕は湯船の中に浸かっている。
(何もここで話さなくても・・・。目のやり場に困るんだけど・・・。)
「そうだね。何か勘違いでもしてるのかなって思うところはあるね。」
「でも、あの眼はマジだったよね。嘘言うような子でもなさそうなんだよなぁ・・・。ていうか、そもそも子供らしくない。」
それは僕も感じたことだ。
「夢を見る自由がないねぇ・・・。」
崇城のその言葉を呟いた。そんなのは初めて聞いたが、現実世界にそれが本当にあるか・・・。
「あっ・・・。」
萌が声を上げた。
「なっ、何。ていうかなんかで隠そうよ。」
「あっ、うん。ていうかナガシィ。今思い出したんだけど、あの子だよ。前に高槻君から探してって言われてたの。」
「はっ・・・。」
「これって言ったほうがいいのかな・・・。」
「えっ、でも、見つかったからいいってことになったんでしょ。だったら別に知らせなくてもいいんじゃないかな・・・。」
「待って、待って。これって亜美ちゃんが知らないだけで、親は知ってるんじゃないかな。」
「・・・ど・・・どうなんだろう・・・。」
待てよ。そうだとすると崇城の言っていた離間工作とか・・・やるのかどうか知らないけど、そう言うのにすぐになるんじゃないか・・・。
「咲夜様、お嬢様は今守山駅で電車に乗りました。いかがいたしますか。」
「そのままにしといて。あの子は私達の言うことは聞かないでしょうから、貴方が言っても無駄よ。」
登場人物
親の大嫌いなお嬢様:崇城亜美
名前由来
崇城亜美
鹿児島本線崇城大学前駅。




