創薬の魔法使いと異界の流病
むかしむかし、ちいさな国のちいさな街にひとりの魔法使いがいました。
魔法使いというのは、魔法の杖をふって、空をとんだり、かみなりを落としたり、地をゆらしたりするすごいひとです。
けれどこの魔法使いは、ほんのちいさな魔法しかつかえませんでした。
魔法の杖のひとふりで、おとうさんがのむコップくらいの水や、おかあさんがりょうりをするときくらいの火しかだせません。
そんな魔法使いがいるちいさな国で、たいへんなことがおきました。
「いんふるうぇんざー」というびょうきが、ちいさな国でひろまったのです。
魔法使いは、ちいさな国のことが大好きでした。だから、なんとかしたいとおもいました。
けれど魔法使いは、ほんのちいさな魔法しかつかえません。
魔法使いは、ねがいをこめて杖をふります。
どうか、みんなをたすけられる魔法を。
魔法使いは、いのりをこめて杖をふります。
けれど魔法使いは、ほんのちいさな魔法しかつかえません。
魔法使いは、なんどもなんども杖をふりました。
にわとりさんがないても、おひさまがぽかぽかしても、おつきさまがおほしさまとおどっても、ふりつづけました。
けれど魔法使いには、やっぱりちいさな魔法しかつかえません。
魔法使いは、かなしくてないてしまいます。
魔法使いのめから、なみだがぽろぽろとでてきます。
なみだがぽつぽつとじめんへおちると、ぴかーっとひかりました。
「そのいのり、聞きとどけました。あなたのねがいを、かなえましょう」
魔法使いがなきやむと、それはそれは美しい女神さまのすがたがありました。
「そう、あなたが杖をふれば、くすりがでてくるようにしましょう」
魔法使いが杖をふると、てのなかにちいさなくすりがでてきます。
「そのくすりは、「たみふりゅ」といいます。それをのめば、びょうきはなおるでしょう」
魔法使いは、とてもたいせつな魔法をつかえるようになりました。
魔法使いは、街でなんどもなんども杖をふりました。
杖がふられるたびに、ちいさなくすりがひとつ、ふたつとでてきます。
やがて、ちいさな街からはびょうきがなくなり、街のひとたちはおおよろこびです。
魔法使いも、うれしくなりました。
そんなちいさな街へと、ひとりの騎士がやってきました。
騎士というのは、王さまのためにわるいひとをやっつける、とてもすごいひとです。
「どうしてこの街には、びょうきのひとがいないのだ?」
騎士はびょうきのひとがいない街をみて、ふしぎにおもいます。
「女神さまのかごをうけた魔法使いが、くすりをつくったのです」
騎士へ、街のひとたちはいいました。
それを聞いた騎士は、魔法使いのもとへといそぎました。
騎士には、たいせつなにんむがあったのです。
杖をふる魔法使いのもとへ、騎士があらわれます。
騎士は、いいました。
「王さまのびょうきをなおしてほしい、ついてきてくれぬだろうか」
魔法使いは、騎士へついていくことにしました。
魔法使いは、騎士といっしょに馬にのります。
ぱからぱから、ぱからぱから。
山をこえ、川をわたって、はらっぱをかけ。
やがて、大きな大きなお城がみえてきました。
魔法使いと騎士は、お城にたどりつきます。
魔法使いは、お城で杖をふりました。
杖がふられると、ぽんっとちいさなくすりがひとつあらわれます。
そのくすりをもって、騎士は王さまのもとへといそぎました。
魔法使いのもとへ、きれいなおんなのこがやってきました。
ふりふりのフリルがたくさんのドレスをきて、ほうせきがいっぱいのかみかざりをつけています。
「あなたが、王さまをたすけてくれた魔法使いですね」
おんなのこは、きれいなお姫さまだったのです。
「ちいさな国のために、いっぱいくすりをつくってくれませんか?」
魔法使いへ、お姫さまはいいました。
「みんなをたすけるためなのです、どうかおねがいします」
魔法使いは、みんなをたすけるために、くすりをつくることにしました。
魔法使いは、ねがいをこめて杖をふります。
どうか、みんなをたすけられるくすりを。
魔法使いは、いのりをこめて杖をふります。
どうか、みんながげんきになりますように。
「このくすりを、銅貨1まいでうりなさい」
お姫さまは魔法使いがつくったくすりを、騎士たちへすこしだけわたしました。
くすりはすぐにうれて、なおったひとはよろこびました。
けれどびょうきのひとは、まだまだたくさんいます。
「このくすりを、銀貨1まいでうりなさい」
お姫さまは魔法使いがつくったくすりを、騎士たちへまたすこしだけわたしました。
やっぱりくすりはすぐにうれて、なおったひとはよろこびます。
けれどびょうきのひとは、まだまだたくさんいます。
「このくすりを、金貨1まいでうりなさい」
お姫さまは魔法使いがつくったくすりを、騎士たちへまたすこしだけわたしました。
こんどはすぐにはうれません。くすりがたかすぎて、とてもとてもかえないのです。
けれどびょうきのひとは、まだまだたくさんいます。
「かえないならば、かわりにみちをつくりなさい」
お姫さまは、みんなにいいました。
とんとんかんかん、とんとんかんかん。
びょうきのひとは、すこしへりました。
「このくすりを、金貨100まいでうりなさい。かえないならば、かわりにはしをつくるのです」
お姫さまは魔法使いがつくったくすりを、騎士たちへぜんぶわたします。
みんなはたかくてかえません。けれど、えらいひとたちはかいました。
びょうきのひとは、いなくなったのです。
「どうして、みちやはしをつくらなければいけないんだろう?」
みんなはふしぎにおもいます。
「どうして、くすりがこんなにたかいのだろう?」
えらいひとたちはふしぎにおもいます。
「わるい魔法使いが、いったのです」
お姫さまはみんなへ、なみだをぽろぽろとながしながらいいました。
「なんてわるい魔法使いだ。みんなでこらしめてやろう!」
みんなは、お姫さまのためにがんばることにしました。
「わるい魔法使いめ、かくごしろ!」
魔法使いはお城のまえで、みんなにかこまれました。
魔法使いは、こわくてぽろぽろとないてしまいます。
騎士たちは魔法使いへ、ぶんっと剣をふりました。
魔法使いは、ぎゅっとめをつむります。
そのとき、しゃきーん、しゃきーんと音がしました。
魔法使いがめをひらくと、そこにはぴかぴかと精霊たちがとんでいました。
あか、あお、きにみどり。しろとくろの精霊もいます。
「わるいのは魔法使いではありません、お姫さまです」
魔法使いは、こえのするほうへふりむきます。
そこには、ぴかぴかとかがやく剣をもった勇者さまがいました。
勇者さまというのは、女神さまのためにわるいひとをやっつける、とてもとてもすごいひとです。
「みんなごめんなさい、わたしがうそをついていました」
お姫さまは、みんなにあやまります。みんなはお姫さまを、ゆるしてあげました。
「魔法使いさんごめんなさい、わたしはうそをついていました」
お姫さまは、魔法使いにあやまります。魔法使いはお姫さまを、ゆるしてあげました。
魔法使いは、みんながなおったので街へかえることにしました。
けれど、勇者さまもいっしょにです。
わるい魔王をたおした勇者さまは、お姫さまに魔法使いとけっこんすることをおねがいしました。
勇者さまと魔法使いは、ふたりでしあわせにくらしましたとさ。