履きつぶしたい
「プリシラ姫。」
「あなたがソフィアなのね。」
初めて会うはずの二人の会話を、周りの王族たちは不思議に思った。
ソフィアはその場で靴をはいた。
そして、自国の楽隊ではなく、ルシシアン国の楽隊に声をかけた。
先ほど姫が踊った曲を演奏してくれないかと。
楽隊の人々は戸惑っていたが、
「その通りにしなさい。」
という姫の声ですぐに準備を始めた。
実はソフィアも踊りを覚えていなかった。
半年かけてできるようになったこの国の踊りは、この数日練習していなかったことにより忘れられていた。
この国の踊りは不思議なテンポの踊りで、お世辞にも素敵なものとは思えなかった。
婚約破棄があるまで練習したソフィアの努力は、記憶が戻ること消去されていた。
そこでソフィアはバレエを踊ることにした。
この身体はバレエを踊ったことがないだろうし、この靴はつま先で立つために作られていない。
あくまでつま先の部分が平らで、足首にリボンで固定するという共通点があるだけだ。
それでもソフィアはできる気がしていた。
ソフィアの頭は覚えていた。
体の動かし方を。
曲が流れ、ソフィアはしなやかに動き出した。
伝統の踊りを知っていた国民や王族たちは、ソフィアの動きに肩を落としそうになった。
しかし、つま先でクルクルと器用に回転し、ジャンプをしたり、足を上げるソフィアをみて、目を見開いた。
見たことのない踊りだった。
それは、優雅で美しく、しなやかな動きだった。
ソフィアは前世で習った通りに踊っただけだったが、他に知る者のいない今では斬新かつ美しいものとして見られた。
新しい靴って踊りにくいですよね...
そこはプリシラ姫のお力でどうにか←