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ILOHAS音

作者: 羽生河四ノ

今年ってデング熱とかどうなってるんでしょうか?

 会議室でOHPを見ていた時気がついたんだけど、いろはすってバリバリ言うんだ。

 あ・・・鳴るか?いや、違う、やっぱ『言う』だな。いろはすのあのバリバリ具合はもはや『言う』と言ってもいいだろう。

 いろはすがバリバリ言うんだ。

 もう『バリバリ!!』って言うんだ。

 ラルフの超必よりもバリバリ言うんだよな。

 あと、『ガサガサ!!』っても言うし『チキチキ!!』っても言う。



 で、


 これは俺が悪いという前置きをさせていただいた上での話なんだけども、


 OHPの点いている薄暗い静かな状態の会議室でいろはすを触ると、大変なんだ。みんないろはすの声を聞くたび俺のことを振り返るんだよ。

 『バリバリ!!』『バッ!?』って感じでさ。

 そんでまた、そのときの顔がよ。

 「カタストロフィ!?」

 「ハルマゲドン!?」

 「神の怒り!?」

 「大変動!?」

 「獅子将マギータ!?」

 ・・・見たいな顔してんだよ。

 どいつもこいつも白カード出したみたいな顔してんだよな。

 ・・・しかも毎回。

 ・・・毎回だぜ?

 だから「毎回しなくてもいいだろう?そんな顔をよ?人間・・・ていうか動物ってさ、学習能力あるだろうよ?最近じゃNPCにだって某かのAIが搭載されてんじゃねえの?掃除機だってそうなんじゃね?見ろよ?これはいろはすだよ?」って俺はそう思うわけだ。それも毎回思うわけ。そりゃ俺は毎回そう思うだろうよ?「人殺し!」みたいな顔で振り返られるんだぜ?こっちは単に『OHPの点いている薄暗い静かな会議室でいろはす飲んでいるだけ』だってのに。もうひでーよな。振り返られる方の身にもなってくれよ。マジでさ。


 でもさ、まあそんな感じで俺自身『いろはす』飲む事に恐怖心が出てきたりしたんだ。


 まあ、フォビアだわな。


 『いろはす飲んだら人が振り返る恐怖症』っていうの?


 おお。


 「人殺し!」て顔で振り返られるたび俺は、閉所恐怖症や高所恐怖症みたいな感じで、呼吸が安定しなくなって、鼻の下から汗も出てくるわけよ。口もからからになるしな。心臓もどくどく言うんだ。手足の先が冷たくもなるしよ。


 辛かった。正直。


 そんなんだから俺は一時期『いろはす』飲むことをやめようとまで思ったわけさ。


 そんな状態で飲んでもおいしくねえしさ、それにロハスを主義として掲げてるいろはすにも悪いじゃん?もしわげねえべさ?


 ・・・、


 でもさ、やっぱ悲しいんだよ。悔しいんだよ。つれ-んだよ。なんで俺が大好きないろはすをやめないといかんのだ?って思うんだよ。「ヒトゴロー氏!」って思われるだけでさ。人殺してねえのに。


 んで、


 ところでだ。俺はトマトのヤツが好きでね。トマトのやつあるじゃん?昨今流行のフレーバーウォーターだわ。で、トマト水なんてほかにねえだろ?俺はアレを毎日飲んでんだ。ほかのフレーバーも飲んでたよ?でも俺は圧倒的にトマトだったな。


 「トマトのヤツがおいしくてたまらない。これを毎日飲んで、結果的にトマトになっても、それはそれでかまわない。いいよ」って思っていた。


 ソレなのにっ!


 ・・・ソレなのに俺はそれを、愛するいろはすとまとをやめるって・・・。

 これ『明日からどうやって生きていけばいいんだ系』じゃね?

 ・・・あ~だから、所謂『最後片方が死んじゃう系』の話っぽいだろ?


 でもまあ、俺といろはすとまとは実際そんな感じだったよ。


 ああ・・・、


 こんな事言ったら炎上するかも知れんけど『車輪の唄』みたいな感じ。


 分かる?


 たとえ本人たちは別れたくなくても時にはそういう事もあるんだってことだ。

 「じゃあ、一緒に行けよ?」

 って思うやつもいるかもしれないが、そうじゃねえ。

 それは無粋ってもんだ。

 そういうもんなんだよ。



 んでだ、

 悔しくて辛くて泣きたかったけど、でも俺はある瞬間ついに、いろはすをやめると決めた。


 体が引きちぎれそうだったけど、でも俺はそう決めたんだ。そして一旦決めたらもう行くしか無い。まあ・・・行くしかないって事も無いだろうけど、それでもまあ、そう決めたわけ。俺っていうのはそうやって決断していかないと一歩も進めないやつだから。それに決めないで心に残ったまま進んで、そんで結局戻るっていうのもしんどいだろ。


 だからさ、決めた。まあ、

 「あああああああーっ!!」

 ってなったけどさ。

 あと、いろはすにも謝ったよ。土下座で。当たり前だろ?だって迷惑掛けたもん。俺土下座、いろはす上座に置いてさ。「すまんかったー!!」ってさ。

 いろはすは何も言わなかったよ。

 ソレがまたなんとも言えなかった。罵声浴びせてくれたほうがなんぼもマシだったね。



 その日俺は、街に繰り出して、最後のいろはす、つまり『ラストいろはす』を行う場所を探していた。まあ、自殺者が自分の死に場所を探すみたいなもんだと思ってくれたらいい。

 何処にするか?何処がいいのか?何処がふさわしいのか?俺はいろはすを持って考えていたわけだ。

 「・・・」

 でも、結局こういうのは原点回帰になる。豪勢なホテルの上のほうの階とか、高級レストランとか、綺麗な景色の見えるハーバーサイドとか色々考えたけど結局はそういうもんなんだな。


 だから俺は新宿御苑に向かったんだ。

 夏の新宿御苑は旧御涼亭。

 あるいは台湾閣とも呼ばれたりする。


 俺といろはすはそこで初めて出会った。その日は確か暑い夏の日だった。




 まあ今年も暑いけど。





 「・・・はあー・・・」

 その時、俺はベンチに座っていろはすを飲みながら池を見ていた。

 「・・・」

 いろはすはうまかった。

 あと、いろはすは相変わらず『バリバリ』言った。


 だからその度に周りにいるやつがあの顔をして振り返った。


 それでも、

 いろはすはうまかった。

 だから俺はこれが最後だなんて信じられなかったんだ。

 このまま時間がとまればいいのに。

 そう思った。

 はっ、恥ずかしげもなくな。



 ソレが証拠に俺は泣いた。ベンチに座って池を眺め、いろはすを飲みながら声も出さずにね。『バリバリ』言うたび皆振り返った。そいつらは同時に俺の涙を見て『ぎょっ!』てしていた。アレはまさに『ぎょっ!』だったな。しかも、

 「人殺し!」が「連続殺人鬼!?」っていう感じになってた。

 まったくよ、そいつらのその顔が『いろはすを飲む俺』を殺したくせにな。



 ・・・んで、そのあたりだったかな。



 突然声が聞こえた。

 それは、


 「どろぼーっ!?」


 っていう声だった。べただったけど。でも、ああいうのが絹を裂いたような声っていうのかね?まあ、イメージ的にそういうんだ。そういうのを思い浮かべてくれたらいい。べたなやつだ。



 そして、

 更にベタな事なんだが、

 俺は信じられない事にその声を聞いた瞬間にはもう走り出していた。飲みかけのいろはすを持ったまま、俺は声のするほうに走り出していたんだ。



 で、こっからは早い。

 「大丈夫ですかっ!?」

 俺はまず、ひたすらに叫んでいるミドルに近づいて言った。

 「あっち、あそこに私のバックがっ!?」

 ミドルがそう言うよりも早く、俺は逃げているやつを目視で確認し、そいつに向かって走り出していた。

ぱっと見距離50m。

 「・・・無理じゃねーか?」

 って一瞬思ったが、でも俺はそのときにはもう走っていた。

 「おらー!」

 って言ってた。

 「あのビチグソ野郎!俺といろはすの邪魔しやがって!」って言うのがエネルギーになっていたんだろうな。


 つってもさ、間に合うか?

 普通に考えて?

 50mだぜ?

 俺は逃げているやつの背中を見ながらそんな事を考えていた。だってそうだろ?アイツだってこれで捕まってだぜ、そしたら前科一犯になるんだぜ?前科一犯になるのは嫌だろう?誰だって嫌だろう?

 だから、そりゃ必死で逃げるわな。


 「こぉらぁー!ぼけー!」

 まあ、追ったけどさ。


 でも、あっついしな・・・。


 『自分が辛いときは、相手も辛い』なんて戦いのある場では言ったりする。それはそうかもしれない。でもそれだけでは不十分だ。この言葉は逆の言い方も出来る。


 相手が辛いときは、自分も辛いんだ。


 まあつまり簡単な話、その時俺はそんなモードじゃなかった。っていうかいろはすに対しての失恋と最後のデートだったわけで、どうしてこれで追いかけられると思うんだ?世の中には追いかけられるやつもいれば、追いかけられないやつもいる。


 あと暑かったんだ。死ぬって思えた。


 そんなこんなで俺は、すぐ、心が折れそうになった。まあ走っちゃいたがね。でもギリだった。もうギリギリのギリギリ。風前の灯っていうの?そういうんだ。



 「とまれー!」

 あいかわらず、一定の距離を保ってソイツは逃げていた。

 「・・・全然、とまらねえ・・・」

 俺もそれを一定の速度で追っていた。これ以上速くしたらばてる。でも、これ以下にしてもばてる。その時の俺は、そういう絶妙の状態だった。そして驚くべき事に相手もそういう状態だった。

 それは僥倖だった。

 クソみたいな僥倖だ。

 だからそれはつまり、双方にとってデスレースだったわけだ。

 もうこれ以上はどれほど疲れても一緒、もう絶対に明日体は痛い。だからこの状況に先に心が折れたほうが止まる。

 デスレース。


 「・・・は、は、は・・・」

 体から全部いろはすが出ると思えた。

 「・・・あ!」

 その時さ、俺ぁ自分がいろはすを持っている事を思い出したんだ。


 「・・・」

 見るといろはすはあと半分くらい残っていた。

 「・・・頼むぜ・・・」

 俺のそのいろはすは俺の中でサブタンクみたいなもんだった。ふたを開けマラソン選手よろしく走りながら飲んだ。フレーバーウォーターで、色もついていなかったから、自分の顔とかにもかけたりした。


 その時飲んだいろはすは何時にもましてうまかった。

 信じられないほどうまかった。


 だからソレは、いわば俺にとって『みなぎる活力』みたいなもんだったんだ。

 明日はきっと『疲労困憊』でも、

 それでも、

 このデスレースには勝たなくては。



 俺がそう思って、先を逃げているやっこさんの背をまた目視で確認した瞬間だった。



 『バリバリ!』

 いろはすがいつものように俺の手の中で言った。

 そしたらその瞬間、

 俺のはるか先を走っていたひったくりが、あの空前絶後のひったくりが、


 足を止めてこちらを振り返った。


 んで、そいつの顔は他の奴ら同様「人殺し!」っていう表情をしていた。

 俺はそこにタックルをかました。







 そんな事があったおかげで俺は今でもいろはすを飲んでいる。

 そしてソレは絶対に口には出せないけど、あのひったくり氏のおかげだと俺は思っている。

 あのひったくり氏のおかげで今では『人殺し!』って顔をされても気にならない。不思議だ。むしろソレが嬉しくすらある。


 あと、今更ながらに気がついたんだが、俺じゃない他人がいろはすを飲んでも、そこまで『バリバリ!』言わない。


 でも、俺がいろはすを触るとやっぱり景気よく『バリバリ!!』っていう。


 そして、みな振り返り『人殺し!』っていう顔をする。


 それがどういう原理なのか気にならないわけではない。でもまあいろはすを飲める事に比べたら些細な事だ。と俺は思う。


 それは間違いない。


 あと最近のいろはすは炭酸のもあるが、アレは俺には違うのか『バリバリ!』言わない。だから俺は飲んでいない。

 でも、

 バリバリ言う限りはいろはすを飲んでいこうと俺は思っている。





 ILOVEILOHAS。




 ただ、

 でも、

 現在、

 薄暗くて静かな会議室のOHPを見る時だけはヨーグリーナを飲んでいるがな。


フォビアってフォアグラの上にキャビアを乗せたものでしょ?

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― 新着の感想 ―
[良い点] 爽やか~。いろはすが生きているように感じました。いろはすに命を吹き込められる主人公。ILOHASに真摯に詫びる姿が可愛く、語り口が面白いです。 バリバリ言っても美味しいものは美味しいので…
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