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能力

ドサッ……と家の敷っぱなしだった布団に倒れ込む。なんか、色々ありすぎて疲れた……。


あの先輩……いい人そうで……可愛かったなぁ……。

ふと浮かんだ思考を振り払う。何を考えているんだ。俺としたことが、容姿を見てしまうだなんて……。


もう……俺は……信じない……。


その日、気づいたら深い眠りについていた。


……………………………………………………


「どうしたの?裕海くん?」

そういい教室で俺に声をかけたのは委員長こと江藤香苗だった。

「どうしたって、なんのこと?」

「いや、すごい疲れてそうだからさ」

疲れ……疲れか……。

疲れというと昨日のことだろうな。いくら寝ても何かこう……頭の奥に疲れが残ってる気がするんだ。

非現実的な話を聞いたからだろうか。

「そんなに疲れてるように見えるのか?」

そう聞くと彼女は慌てたように言った。

「い。いや、別にそこまでじっくり見なきゃわからない程度だから!」

ほう、それならいいや。


いや、待てよ?


「その言い方だと、香苗は俺のことをじっくり見ていたということになるが、いいのか?」

下手したら変な意味になりかねんぞ。

そう聞くと、彼女はしばしキョトンとしてから慌てるようにまくし立てた。

「え、いや、深い意味なんか、ないよ?ほんとだよ?」

「ん、じゃいいや」

今の言動は危ないよ、まったく……。

そこらへんの男子だとしたら、じっくり見てる→コイツ、俺のこと好きなんじゃね? って考えるからな。

香苗……もうちょっと言動を選ぼうぜ……。


自分の隠してきた暗い部分が自分の体から染み出しているような気がして気持ちが悪い。

これも先輩が言っていたマイナスオーラなんだろうな……。なら、少なくとも周りの人を暗い気分にさせる可能性もあるな……。


俺は暗い気持ちを落とすかのように頭を振り、次の授業の用意を始めた。


……………………………………………………


どうやら、陰陽会の部室には一回入ると場所が正確にわかるようになるらしい。

いや、それが普通なんだけどさ……。不思議な隠し扉だったから、また特殊な方法で行かなきゃダメかと思ってたんだよ……。


コンコン


と一応ノック。先輩も女性なわけだし、そういう配慮も必要だろう。


「あ、はーい!今出ますね〜!」

そう明るい声が部室の奥から聞こえてきた。

ガタ……とイスを引いて立ち上がる音が聞こえる。


ガチャと音がして、大きめの瞳がドアの隙間から覗く。またその隙間には鎖状の物があった。……どうでもいいが、部室なのにチェーンついているのか……。軽くマンションの一室だろ、これ。


「こんにちは」

なんか間が悪かったので挨拶。ちょっとその瞳だけ覗かせてるの怖い。


そんな数秒の膠着はすぐにとけた。牧島蛍先輩が笑顔で口を開く。

「どうもこんにちは!えーと……どうぞ、入ってください」

「は、はい。では失礼します……」

なんか歓迎されている気がする。なぜかはわからんが……。あれか、新入部員を取り逃さないようにとりあえず優しくするやつか。

いや、この陰陽会はしばらく退部できないのか。

だったら機嫌取りをする必要もなく。だからこれは純粋な「好意」ということになる。

素直にうれしい。


入ると両脇に本棚や、収納棚。中央には長机にパイプ椅子と相変わらず簡素な部屋だった。

長机も白色で、パイプ椅子もよくある黒色。本棚も木製だから茶色だ。

なんというか……女の子らしさはこの部屋にはない。


俺は聞いてみることにした。

「なんか……随分簡素な部屋ですよね。女の子らしさがないというか……」

すると可笑しそうに先輩は笑いながら言った。

「それはそうですよ。あくまで『部室』ですから」

「じゃあ先輩の部屋はいかにも『女の子』って感じなんですか?」

俺が少し茶化すように言うと先輩は口の端を釣り上げた。

「秘密です」


……その表情に不覚にも心が揺れたことは誰にも否めまい。


……………………………………………………


「えっと、では能力を渡そうと思います」

能力……と漠然と言われたその単語に俺は首を傾げる。

「能力って……例えばどんなものがあるんですか?」

「そうですね……幽体離脱とかありますよ」

「幽体離脱ってあの幽体離脱ですか?」

「そうです、あの幽体離脱です」


幽体離脱とは。

生き物というのを構成するものは、タンパク質などの物質で構成される体と、『魂』と言われている。

魂とは、精神、もしくは存在そのもの。人間の中にある霊体みたいなものといえばわかり易いだろう。

幽体離脱は読んで字の通り、体から魂(幽体)を離脱させることである。


しかし、彼女はいったはずだ。「幽霊を祓うのに役に立つ能力」と。


「……幽体離脱って役に立つんですか?」

俺の知る限り、幽体離脱は技というよりも現象。

とても霊を祓うのには使えないと思うのだが……?

「幽体離脱をすると魂……自分の霊魂を出すことになりますよね?」

俺は頷く。

「ここで突然の知識なんですが、実は幽霊って幽霊同士で会話できるんですよ」

ドヤァとつきそうなくらいに豊かな胸を張る先輩。振動で揺れるソレに目が一瞬引き寄せられた。

だが、一瞬で逸らす。気づかれたら軽蔑されそうで嫌だ。

「へ、へぇそうなんですか?」

動揺を隠すように発した言葉は少しだけ震えてしまった。

気付かれたか?と内心心配したがそれは杞憂だったらしい。会話は何事もなく進む。

「そうなんです、幽体離脱すると自分も霊魂になると会話ができるんですよ!」

「な……」


なるほど……。

会話ができる…………ん?それで?


「会話ができるようになって何になるんですか?」

彼女は少し残念そうに口をすぼめた。

「えー、裕海くん、察しが悪いですよぉ……。」

「んぐ……すみませんね……」

なんかちょっとだけもどかしい感じがした。イラつきとも少し違うが。


「そうですね……たとえば……カウセリングってわかりますか?」

「漠然とですが……心のケアみたいな?」

「そうです、それです。あれは会話によって不安などのマイナス感情を取り除くことが目的ですね」

と、ここで間を置いて彼女は続ける。

「幽霊はマイナス感情の固まりですからね。幽霊も話さえできれば成仏させることも可能なんですよ!」

「あー……なるほど」


平和的解決とされる「会話での解決」。

それができれば苦労しないというが、それで解決できる問題もある。幽霊もそれは例外ではないらしい。

にしてもこの先輩。いちいち胸張ってドヤんないでほしい。その胸は男性の目に毒だ。


「さて、ここからが本題です!」

そう、元気のよい声で先輩は長机の上に細長い紙をバンっと置いた。

その紙には達筆で何かが書いてあった。

……正直、達筆すぎて何書いてるのかわからないけど。

「これは……?」

俺はこれがなんなのかなんとなくわかったが一応聞くことにした。

「君の能力を発言させるための、御札だよ!」


ですよねー。

話の流れ的にもそうですよねー。

どういう原理なのかはわからないから少し心配があるが……別にいいか。


「非科学的ではあるけど……簡単に能力発現がどういう現象なのか教えるますね?」

俺の思考を読んだかのように聞いてくる先輩。

「お願いします」

俺はありがたく、頭を下げてお願いさせてもらった。


「私達にとっての能力というのは……簡単にいうと『自分の体を幽霊に近づけること』なんです」

「幽霊に近づけること?」

「さっきの幽体離脱みたいに幽霊と話せる……つまり、存在が幽霊に近づいている状態を作れるようにするのが、わたし達の能力です」

「……」


正直……理解がついてかない……。だけど……


「なんとなく……分かりました」

それでも俺はうなずいた。なんでかな……

「はい!それはよかったです!」

胸の前に手を合わせてニッコリと微笑む先輩に少しだけ、ほんの少しだけ顔が熱くなるのがわかる。


(ほんとは……頷いた理由、わかってるんだろ?なぁ?)


ふと自分の中の何かが問いかけてる気がした。

その声を俺は振り払う。悪魔の声だと断定する。

それこそ、これから貰うであろう能力で祓う対象であると断定したかった。


「えーと?裕海くん?大丈夫?」

「え……あ、なんですか?」

俺ははっとした。やべ、ぼーっとしてたみたいだ。先輩が心配するようにじっと見ている。

「す、すみません、少し考え事を……」

「い、いえいえ、謝らなくていいんですよ?ただ、どうしたのかなぁって……」

「ほんとに、ただの考え事ですよ」

俺はヘラヘラと笑いながら言う。嘘はついていない。

「そう……ならよかった…」

彼女はホッとしたような表情をした。


それから顔を引き締めると御札をかざして立ち上がった。

「えーと、では始めます」

始めるってことは……いよいよ能力を貰えるのか……。

「あの、俺は何をすればいいですか?」

「え?リラックスして目を閉じて座ってくれてればオーケーですよ」


…………


「え?それだけですか?」

「ええ、この御札を額に貼るだけですから」

「……それだけですか?」

「それだけですよ?」


……能力発現って……そんな簡単なものなんだろうか……。

そう思いつつ俺は目を閉じて体の力を抜く。


ツカツカと俺に先輩が歩み寄っている音が聞こえる。続いて、ピタリと額に何か紙のような物が張り付く感触……。

これは、御札だろう。


「すぅー……はぁ……すぅー……はぁ……」

先輩の深呼吸の音が耳に届いてくる。

目というほかの五感を閉じてるからだろうか、耳へと入ってくる情報がやけに鮮明に思えた。


「汝、手にするものは……冥府を繋ぐ門にあり……」


ふと、さっきまでの先輩とはうって変わったかのような静かな口調でソレは聞こえた。

心なしか、御札が熱をっている気がする。気のせいか?


「霊魂へと近づくものよ……汝へと命ずる」


いや、気のせいじゃない!どんどん熱くなっている。

心臓が鼓動を刻むように熱が高まっている。


「迷える魂を……」


やばい……い、意識が……


「救済せよ」


プツ……と


俺の意識はここで途絶えた。


……………………………………………………


~牧島蛍~


「ふぅ……終わったぁ……」

私、牧島蛍はドサッとパイプ椅子に崩れるように座り込んだ。

私の前にある椅子には、能力発現の儀式を終えて意識を失っている裕海くんがいる。


手順は……大丈夫ですよね……。

リラックスしてもらい、額に札を貼り、呪文も……うん、間違ってませんね。


ん……?なにか忘れて………………。

…………。……あ!!!


「裕海くんの過去の記憶が私に流れ込むということ……つたえ忘れました……」


これはプライバシーの問題もあり、本来なら言わなきゃいけない案件。


能力を与えるというのは、私からの霊力……魂の力を流し込む必要がある。そうすると与えた側の記憶が交換するように、私にな流れ込んでくるのです。


詳しくは原因不明の現象ですが、この儀式をやると必ず起きる現象です。


ああ……言わなきゃいけなかったのに……。

そうです、あとで謝ればいいんです。きっと彼なら許してくれるはず。


……そろそろ流込んでくるはずですね


「…………ッ!!!」


強烈な頭痛が襲ってくる!これは副作用みたいなものなので気にしないで耐えられます。


頭痛が強まる中で何かが頭の中に入っていく感覚が……これは……彼の記憶……。

生まれてから……小学校かな……中学校……。


「え……な、なんですか……これ…」


強烈な記憶が入ってくる。

なんで……なんなんですか……この記憶……!?


「……やめて……もうやめて!!!」


私の自我は頭痛以外の理由で壊れそうになった。







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