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入部(?)

「これ……なんだろうなぁ……」


あれからすぐに学校を出て家に帰った。

マンションの一室。現状一人暮らしの今の環境は少しだけ寂しい。


母親が病で他界し、父親と二人暮らしだったのだが、父親が入学前に突然言い出したのだ。


「すまん、裕海。海外に一時的に転勤することになってしまった……。」


もちろん、合格もしたし手続きを済ませた後だったので、俺が残ることは確定だった。

父親とは仲も良好で、少しだけ寂しかったけれども快く送り出した。


家具はあまりなく、テレビとソファ、ローテーブルしかない。

寝床はベットではなく、布団だ。


朝から敷っぱなしだった布団に仰向けで寝っ転がってもらったお札を見つめている。


思うのは、あの人の不思議な言動ではなく手のぬくもりだった。

それだけが妙に頭から離れない。


……今日はなんだかとても眠くなってきた……。

さっさと寝よう……。


俺はその日、約二時間後に眠りについたのだった。


…………


やってしまった。

なんてことを……これは取り返しがつかない……。

神崎裕海、一生の不覚だ……。


6時間目の国語を忘れてしまったぁぁぁ……


知ってのとおり、今日は授業初日。

初日から忘れるなんて馬鹿みたいじゃないか。

はい、馬鹿です、すんません。

ちなみに今は授業中。


「もしかして教科書忘れた?見せてあげよっか。」

俺が頭を抱えていると委員長キャラこと香苗が話しかけてきた。


彼女はあの後委員長に立候補し、見事にその座を勝ち取ったのだ。

勝ち取ったと言っても二人しかいなかったが。

もう一人は眼鏡で目立たない、いかにもガリ勉委員長然とした男子だった。

最終的に多数決での終幕だった。

容姿の力おそるべし。


あまり人には頼りたくはないが……背に腹は変えられまい。あ

見せてもらおう。

「お願いいたします」

「そんな丁寧にしなくても……」

俺が土下座オンtheデスクを華麗にスルーしながら机を動かし俺の机にくっつけてくれた。


「いや、ほんとにありがとう。このお礼はまた今度必ず……」

「大丈夫だって」

彼女は笑って手のひらをプラプラする。


ゾクッ……と背筋が凍るような視線を何本も感じる。

後ろを見るのが怖いが、おそらく何人もの男子が俺を睨みつけているのであろう。

呼び出しとかあったりするのだろうか……怖いねぇ……。


そんなこんなで今日の授業はあっけなく終わったのであった。


…………


さてと……今日の本題開始だ。


『興味があったら…』


昨日の名前もわからない女子の言葉を思い出す。


そんな言い方されたらむしろ興味しかないよ!


そんなわけで。


ブレザーのポケットから例のお札を取り出す。

手のひらに乗っけて何かあるか待つ。


変化無し


ん?おかしい……。もう一度彼女の言葉を思い出す。


『これを手に持って陰陽会の部室を探してください』


だったな。


なんか暗号みたいだけど……。いや、違うか。

まずは言葉の通り、探そうとしてみよう。


あと、手に乗せてじゃなくて手に持って。

俺は乗っけていた札をクシャと持った。


ザワ……となにか変な気がした。

同時に足が勝手に動き出す。

俺は……どこに向かっているのだろう。


足は一定のリズムで3階にある、図書館の前まで俺を誘った。

そこで足は止まる。


……あー、なんてわかりやすい。


図書室は校舎の端に設置されているから、すぐ横に壁がある。

壁と図書室の間が……紫色に光っているのだ。

なんともわかりやすい。


ためしに札を手放してみる。ひらりと札は地面に落ちる。

すると光は消え、そこには真っ白な壁が。


かがんで札を拾うと、またそこが光る。


これが入口ってことだろう。


扉ってことは……押せばいいのか。


俺は扉(?)の前に立って光る壁を押した。


…………


扉はあっけなく開いた。

開いた瞬間光は消え、札の文字は水に溶けるがごとく消えた。


最初に見えたのはテーブルだった。

白い長方形で、2つ椅子が向かい合わせで置いてある。

椅子は折りたたみ式の学校によくあるイスだ。

業務用テーブル……といったところか。


続いて目に入ったのは本棚。

部屋を両端挟むように置かれている。

どれも本で埋まっている。……いや、ファイルにまとめてあるから資料だろう。


「もう来たんですね」

横から声をかけられた。 この声には聞き覚えがある。


「どうも、牧島蛍まきしまほたるといいます。宜しくお願いしますね?」


名前を知らなかった女の子だ。

透き通った声が耳に心地よい。


「こちらこそ、えーと……」

俺は名前を言おうとしたのだが緊張して声が詰まってしまった。

牧島さんはふふっと微笑んで俺の言葉を遮った。

「神崎裕海くんですよね?知ってますよ」

へ?

なんで知ってるんだ……。いや、名簿とかは普通に見ればわかるのか、他にもクラスメイトに聞いたり……。

このくらいじゃ個人情報の漏洩にはならないな。

と思っていた。


「新入部員の名前くらい、覚えてるに決まってるじゃないですか」


ニッコリと微笑んでいる牧島さん。


…………え?

今、聞き捨てならないセリフを聞いた気がするのだが……?


「えーと?牧島さん?」

「蛍でいいですよ。それと私は一応二年生ですので、先輩と呼んでくれるとうれしいです!」

「あ、わかりました。……蛍先輩?」

「はい!!」


先輩は嬉しそうに頬を上気させこちらをまっすぐと見つめてくる。

先輩呼びがそんなに嬉しいのか……。

こう言っちゃなんだけど、この喜び方犬のようだ。

やばい、幻覚で尻尾までみえる!


……って、じゃない!!!


「今……新入部員って……」

そう、聞き間違いじゃないんだったらそう言っていたはず。

「はい、言いましたけれど?」

不思議そうに首を傾げる先輩。

俺は、話が噛み合ってない可能性を考えて背筋が凍った。

いや、そんなはずはないよな?


蛍先輩はそんな俺の気持ちを裏切るかのように、次の言葉を紡いだ。


「だって、もう入部してますよ?」


俺の思考は少しの間だけ、停止した。


………………へ?


「え、いや、ちょっと待ってくださいよ!俺、入部するなんて一言も!!」

「え……?だって、入ってみたいなぁ……みたいなこと言ってたじゃないですか?」


え、だってそれは……。


「独り言ですよ?あくまで入ってみたいなぁ……ってやつでして……。入るとまでは……」

そういうと、彼女は徐々に顔の血の気をなくしてボソボソとつぶやき始めた。


「た、大変です……もう『上』に言ってしまいました……」

聞こえてるし、『上』ってなに!?なんかの組織かなんかなの!?

「国にも承認通ってしまいましたし……」

しかも国絡み!?

「こうなってしまっては…………」


しばらく沈黙が流れる。先輩は呟くのをやめ、黙考に入った。

え?俺がこの沈黙を話しかけて破れだって?無理だよ、なんか変なことに足突っ込んだようで怖いもん!!


案の定、沈黙を破ったのは蛍先輩だった。


「裕海くん!」

「は、はい!」

彼女はさっきまで黙ってたのに、俺にいきなり大きな声で話しかけてきた。

驚いて、自然に背筋がのびる。

「まず、謝らせてもらいます!ごめんなさい!」

そういうと、彼女はバッ!と勢いよく90度を守った深々としたおじぎを俺に向かってした。

長い黒髪がその勢いでバサっと前に投げ出される。


えっと……?


「あの……なにもそこまで……誤解ならすぐに顧問の先生に言えばそれで済む話で……」

俺は後になって身体の傷にも心の傷にも残らない出来事はほとんど……いや、まったく気にしないタイプだ。早く解決してしまう問題ならなおさらだ。

そう、これは済む話だ。だから顔を上げてもらわねば。


しかし、俺の思っている以上に早く解決しない問題だった。


「事情がありまして……入部したら約1ヶ月間、退部は絶対にできないんです……。私が間違って申し込みを済ませてしまったので、しばらく、いてもらうことに……」


………………。

………………What?


「えーと……?つまり……俺はここに入部することになっていて、しばらくは退部は絶対に出来ないと……」

「そうですね」

「その、しばらく……が約1ヶ月間だと……」

「はい……そういうことになります……」


oh......なんということだ……。

ここの部活動はほとんどの場合、掛け持ちは許されない。

よって、この部活にいる限り、他の部活にも入ることは出来ない……ということになる。


俺は、少しだけ文句を言おうとして……やめた。

蛍先輩の目にはうっすらと潤いがあり、それがこぼれそうだったからだ。

彼女もとても反省して、謝って、誠意を見せてくれたのだ。

たとえ、相手側に100%被があったとしても、誠意には誠意で答えねばならない。


すーはー……すーはー……


こういう時はリラックスだ。

大きく息を吸い、そして吐く。

そうしてから、俺は彼女に問いただす。


「では、その事情を教えてください」

「はい……これは、部活動の内容にも関係があるのですが……」


そうして、この部活の実態が語られた。


……………………………………………………


「この部活の名前をご存知ですよね?

そうです、陰陽会という変わった名前をしております。その由来は……オンミョウ……。霊や、呪いを祓う物からきています。」


オンミョウ……どちらにせよ陰陽インヨウもオンミョウって読めるからな。


「突然ですが……裕海くんは幽霊の存在を信じますか?」


俺は黙って頷く。正直、心霊番組の幽霊は作り物じみてて信じられないけれど、幽霊はいると思っている。

なぜかと言われても……感覚としか答えられない。なんとなく信じている。



「そうですか、よかったです。ある程度は信じているんですね。」


ある程度は……この言葉のニュアンスから察するに、俺がなんとなく信じているだけだと、表情でわかったのだろう。


「もう、この部活の活動内容はわかってしまったように思えますが、説明を続けます」


……ま、まぁ、正直とっても嫌な予感がするけれど……。最後まで聞こうじゃないか。


「わたし達の仕事は……幽霊や呪いをお祓い……つまり、心霊関係の依頼を解決することです」


その予想通りの回答は俺のこころに突き刺さった気がした。

なぜかはわからない。でも、そんな感じがした。


「で、ですけど……幽霊が仮にいたとしましょう。お祓いとか、専門的な知識がないとできないんじゃ……?」


俗に言うエクソシスト。あれも神父らしいし、相当な勉強をしているのであろう。

とてもじゃないが、あまり勉強が好きではない俺にはむかないだろうと思う。

それを見越したかのように彼女はクスッと微笑んで続けた。


「大丈夫、私の一族はその為の能力を才能ある人に発現させることができるのです」

「能力……?」

「そう、知識がほとんどなくとも霊魂などを祓うのに役立つ能力です」


霊魂を祓うのに役立つ能力……。

……まったく想像できない……。能力といったらそれこそ中二病的な『幻想殺し(イマジンブレイカー)』とか『一方通行アクセラレータ』しか思い浮かばない。


「すみません……あまり連想できないです……」

「そうですよね……誰でも最初はそうですよ」


誰でも……つまりこんな部活……いや、組織は他にあるということか。


「その能力についてはのちのち譲渡します」


……能力をくれるのはもう確定らしい。いや、この際あれだ、突っ込んだら負けだ。

そろそろ俺は本題を聞きたくなってきた。


「それで……なんでやめられないんですか?」


普通の部活動ならば、「すみません、手違いで間違って入部してしまったのですが、取り消してはもらえないでしょうか?」といえば事は済む話だ。

それを出来ない理由を知りたい。

彼女は俺の目から目を離さずに口を開いた。


「幽霊はマイナスの力の塊です。これが溜まりすぎると……」

そこで先輩は言葉を一旦止めた。

「溜まりすぎると……?」

「…………生者にも悪影響が出てしまうんです」

「……それは、どのように?」

「マイナスオーラに囲まれるだけでめまいや吐き気……憑かれたら操られます。」


憑かれたら……。普段なら聞かないその言葉に背筋に汗が染み出す。

霊に憑かれて行動を操られる……そう考えるだけで……怖い。


しかし……


「マイナスのオーラに囲まれただけで人は影響あるんですか……?そんなに脆いものですかね?」

「結構簡単に影響を受けますよ?そうですね……例えば……」

そう言い、先輩は目を泳がせて何かを思考した。しばしの沈黙のあと彼女は口を開いた。

「そう、例えば……賑やかなクラスにいきなり大きな音を立てて扉を開けながら、泣きそうな人が入ってきたらどうでしょう?」

「そんなの、決まってるじゃないですか。なんか笑ってる自分たちがいけない事をしてる感じで、押し黙っちゃいますよ……」


あ、そういうことか


「そうです、このとおり生きてる人のオーラだけでも同じ生者の行動を制限してしまうのです。それが死者ならなおさらですよ」

「な、なるほど……」

確かに生者なんかより死者のマイナスオーラの方がはるかにでかいだろうから、受ける影響も大きい。

それこそ、囲まれただけで悪影響が出るな。


「幽霊が放つオーラと幽霊そのもののせいで、交通事故、殺人事件などが増えています、それこそ、世界的に……」

「世界的に……?」

「そうです、死者は世界中にいますからね。だから、国際的に機関が編成されました。

簡単に抜けられないのはそれが理由です。国際問題ですからね……」


なるほど……理屈は納得した……気がする


「かなり綺麗事みたいな言い方になってしまいますが……この世界を守るため、成仏できない可哀想な霊を助けるために……」


彼女は悲しそうな微笑みの名残を残しながら俺に言った。


「ようこそ、霊対策特設機関・日本支部へ。1ヶ月間ですが、仲良くしてくれると嬉しいです」


……俺は、とんでもないところに足を踏み込んでしまったのかもしれない。












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