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未確認部活

私立桜理学園。


この高校はごくごく普通の学校である。

一応進学校ではあるらしいけれど、そこまでのレベルではない。

部活動はかなり盛んだと聞いた。

四種類くらいの部活が全国クラスの強豪らしい。


でも、それ以外はほとんど何もほかの学校とは違わない。

そんな高校だ。


俺、神崎裕海かんざきひろみはそんな桜理学園へと足を踏み入れた生徒である。

先日入学式も終わり、本日は始業式だ。


俺がこの学校を選んだ理由は、偏差値がある程度高い学校で一番近いところがここだったからだ。


その他にも近場の高校はあったのだが……いわゆる「不良校」というやつで。

俺は不良が、大っきらいだ。

なんでも自分の思い通りになると思ってるし、周りを見下して自分を上げようともしない。


ある程度レベルの高い高校ならば、そんな輩は少ないだろう。

中学は不良校だったので、苦労した。

努力をしてこの高校に入ったのだから、いい学園生活を送れると思う。


「んじゃー今から部活紹介の紙回すぞー」

今いる場所は教室。始業式が終わったあとは部活紹介らしい。

20代後半くらいの担任教師がペラペラと紙を見せる。ちょっとチャラいように思える。


俺の席は窓側の一番後ろ。

人気が一番ある席らしいが、俺は視力が良くないから黒板がよく見えないため、ちょっとだけ不便だ。


部活紹介の紙が回ってくる。

ふむ……。

運動部では……バスケ、陸上、水泳らへんが全国クラスの強豪らしいな

文化系は……吹奏楽部か……。


この学校は同好会というものはないらしい。

同好会らしきものも全て部活として認められなければ活動できない。

そんな規制があるみたいだ。


よって「○○同好会」「○○会」というものがほとんどない。


そう……ほとんど。


なんか隅っこの方にひとつだけあるのだ。


『陰陽会』


俺は猛烈に興味を掻き立てられた。

部活なのに「○○会」だぜ?

入部するかしないかはともかく興味は他の部活より湧いてくる。


そして、さらに不思議なことに。

活動内容が書いていないのだ。

陰陽会と言う名前だけで、活動も募集要項も何一つ書いていない。

なるほど……。見学に行ってみてのお楽しみってことか。


「ねぇねぇ、どこに入るか決めた?」


そんなことを考えていると、横から声が飛んできた。

はじめは他の誰かに話しかけているのであろうと思っていたが、誰もその声に反応しないことに気づいて、俺は話しかけられていることに気づいた。


隣の席……女子だった。

いや、当たり前だろう。

机の列配置が男女交互に組まれているのだから、隣の席は女の子になるのは必然だ。


「あー……中学時代も帰宅部だったからあまり考えていないんだ」

俺はいきなり話しかけられたことに戸惑いながらも、なんとか返事をした。

「え、意外だなぁ。なんかサッカーやってそうなイメージがあるよ?」

それに対してこの子は、まるで俺が友達になっているかのように話すのだ。

少しだけ嬉しく思ってしまう。

仲良くはなりたい。


「俺、神崎裕海っていうんだ。よろしく」

そう言い、俺は手を差し出す。握手だ。

「裕海くんね……覚えたわ。えっと、私は江藤香苗えとうかなえよ」

彼女……江藤さんもニッコリ笑って快く握手に応じてくれた。


改めて彼女をよく見てみる。

茶髪の髪は後ろで縛られている。いわゆるポニーテール……というやつか。

そのおかげか、全体的にさっぱりした印象がある。

いわゆる、委員長キャラ……かな?

しかも堅苦しい感じではなく、明るくみんなに慕われそうな委員長だ。

垢抜けているといっても全然過言でない。


さっきから握手している俺達に……いや、俺に男子からの殺気がきている。


イタイイタイ!やめろって、そんな関係じゃないから!君たちが始業式初日から気になってるらしい子には手を出さないから!


「えと、裕海くん大丈夫?汗かいてるよ?」

「な、なんでもないよ」

俺はしっとりと濡れ始めた手を引っ込めた。


ふぅ、未だに殺気が刺さってくるぜ……。


「さぁて、教室出るぞー」

チャラい担任教師が教壇の上で俺達に指示を出した。

「センセー、これからどこに行くんですか?」

クラスメイトの一人が手を上げて言った。

「はぁ……始業式の日くらい話はちゃんと聞いてなさい……。これから講堂に行くんだよ」


講堂。

段上ステージが設置されている、ホールのような場所だ。

学園祭のダンス部の発表やらで使われることが多い。


「さっき部活紹介の紙を配っただろう。今から部活のササッとした紹介があるから、行くんだよ。わかったか?」

『はーい』


そんなわけで


講堂へと行き、席に座る。

ステージの幕が上がり、部活紹介が始まった。


…………


端的に感想を言おう。


すごい面白かった。


特にダンス部の紹介が全員チアリーダー衣装で踊るもんだから、スカートの中身がゲフンゲフン。


だけど、重要なモノがなかった。


『陰陽会』


その紹介だけがなかったのだ。


…………


「なぁ、江藤さん」

「なに?裕海くん。あ、香苗でいいよ」

俺は前を歩く江藤さん……いや香苗に声をかけた。


「このさ、陰陽会って部活紹介なかったよね?」

俺は隅っこにある文字に指を置いた。

そこには俺が気になっている三文字の文字列があるのだが……。

彼女は……俺の予想をはるかに超える返答をしたのだ。


「え?そこ、なんもかいてないけど?」


思えば……この時に異変に気づくべきだったのかもしれない。


…………


放課後……俺は教室に1人座っていた。

夕日が窓から差し込む。

聞こえるのは部活動の喧騒。


きっと見学行ってる人もいるんだろうなぁ……。


あんまり強い部活に入って苦労はしたくない。

俺はめんどくさがりなのだ。


そんなめんどくさがりの俺でも見学に行きたい部活がある。

そう、『陰陽会』だ。


なんせ気になる。

あの後、クラスメイトに聞き続けても誰も見えていなかったあの三文字。

気になる。


もういっそのこと……


「陰陽会……入りてぇな」


ポワ…………


陰陽会の文字をなぞっていたら……急に文字が光りだした!

え、なにこれ。LEDとか入ってんの?

人間の技術は紙にLEDを入れることまでできるのか……!あぁ、人類の夜明けよぉ!


冗談はさておき


その光はすぐにおさまった。

後に残るのは虚しいくらい三文字以外書いていない陰陽会の紹介。


やっぱり……幻か……。


「君?陰陽会に入りたいって言った子は?」


「うぉぉ!?」

ガタンッ!と椅子を鳴らし、俺は後ろを向いた。


そこには……女の子がいた。


いや、女の子と言っても歳上だろう。つまり、先輩か。

艶やかな黒髪を背中まで伸ばしている。スカートは長め。

大人しそうな……それでいて明るい性格を表すかのようにニコニコしている。

顔立ちは……そうまさしく大和撫子然としたお淑やかさがある。


なにより特筆すべきなのはその胸部。

いや、もう。先輩らしいというか大人のようというか……男を引き寄せるには十分すぎる迫力を持っている。


「えーと?あまりジロジロ見られても困るんだけど……?」

「あ、はい!ごちそうさまです!」

「え、あ、はい。お粗末様です……?」


この先輩、天然キャラらしい。

あぁ、そうだ。清楚だ。

この人は清楚イメージだ。


「えーと?今、陰陽会が……なんていいました?」

「陰陽会に入りたいのは君?って聞いたんですけど……聞き間違いでしたか?」

「確かに言ったけど……」


おかしい。周りには誰もいなかったはず。

あまり独り言を聞かれないようにいつも注意していたのだが……。


「入りたいというか……気になっただけで……」

「なんで気になったんですか?」

「え?」

「なんで気になったんですか?」

え、だってあの広告は流石に気になるだろう。

みんな紹介文書いてるのに一つだけ何も書いてないとか、どんな部長だろう……とか。


「だって、こんな紹介文もない広告なんて珍し……」

「見えたんですか!?」

「うぉ!?」

彼女はいきなり俺の手を両手でガシッとつかんで目を輝かせた。

うお……なんか女の子に手を握られるのって久しぶりな気がする……いかん……クラクラする……。


「見えたって……そんなにおかしい事ですか……?」

「おかしいどころじゃないですよ!うわぁ……わたし以外にもこの文字が見える人いたんだ……。」

なにやら変なことをつぶやき始めた彼女。

そんなことより、この手を早く開放してください……幸福だけど気絶する……。


「あ、すみません!つい……」

思っているそばから開放してくれた。

ふぅ……これで俺の精神は安泰だ。


ゴーン……


これは……

「あぁ、一般生徒の下校時間ですね。早く帰らないと……」

そう言い、彼女は俺に一枚の紙を渡す。

なんだろう……習字でなんか書いてある……。

お札……?

「これは……?」

「興味があったら、これを手に持って陰陽会の部室を探してください。歓迎しますよ」


そう言い、名前も知らない彼女はニコリと微笑んだ。

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