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ハインツの場合
「はっはー、良い子のみんなー、朝の曲芸の時間だぞー?」
道化師の朝は賑やかに始まる。晴れた日には、宿屋で朝食を済ませたあと、街の広場や公園に出掛けて、一芸を披露する。わらわらと集まってきた子供達を前に、しぃー、と人差し指を立ててからジャグリングを始める。これが、僕はもう喋らないよ? の合図である事は、大半の人達に知れ渡った。
スピーディにピンを操り、子供達の歓声が一通り上がりきった所で、バラバラとピンを落とす。慌てて拾うフリをして、尻餅をつき、肩を竦めてみせると、笑い声が飛び交う。そんな中、すぐさまピンを拾いに走る子供や、大丈夫? と気遣う姿勢を見せる子供。頑張れよー! と、すべて解っていながら声援を贈ってくれる近所のおじさん。何もかもが、温かく安らげる街。
見上げた空は、青く澄みきっていた。
ガバッと立ち上がり、平気なフリをしてくるくると踊って、お辞儀を1つ。笑顔を見せれば、拍手と歓声が飛ぶ。
ハインツにとっての太陽とは。
この街の人達のように、温かく必要な存在。