第4話
さて、出発するにあたって1つ問題があった。
「この死体、どうしよう?」
商人や護衛の戦士、盗賊達の遺体を見下ろす。
盗賊の遺体はしょうがないとしても、商人と護衛の人の遺体くらいは弔ったほうがいいのだろうか。
そんな疑問にもマイカが答えてくれた。
「死体は馬車に積んで街まで運んだほうがいいでしょう。盗賊の死体は持っていけば軍から報奨金が出ますし、商人達の死体も親族がわかって届ければ御礼がもらえる場合があります」
しかし馬車に積むとはいえ、死体と旅をするってのもゾッとしないんだが……。
「大丈夫ですよ。馬車で2時間も進めば街にたどり着きますから」
ならば、2時間くらい我慢しよう。大体女の子2人が大丈夫って言ってるのに男のオレが『死体はイヤ』なんて情けないこと言ってられない。
馬車の中には水や食料、野宿用の燃料や毛布が積まれていた。小麦の入った袋が随分あると思ったらそれは糧食ではなく、マイカ達の村から仕入れてきた行商用の積荷らしい。荷馬車に空きがあるのはもったいないと思ったのだろう。
遺体の血が他の積荷に触れないよう気をつけて積み込んでから、御者台に3人仲良く並んで座って出発した。
ちなみに手綱をとるのはマイカである。オレは勿論馬車の手綱なんか触ったこともないし、リノも全くの未経験。マイカもキチンと習ったわけではないらしいが、何度か村の共用の馬車を使ったことがあるらしく、並足で進ませるくらいならできるそうだ。
席順はマイカを中心に右にオレ、左にリノである。
パッカパッカとのんびりした速度で進む道中、リノにスキルにあった念魔導のことを聞いてみた。
「念魔導、について、ですか?」
「ああ。ていうか魔法ってどんな種類があるんだ?」
「でもスグル様は魔法が使えるのでは?」
へ? マイカさん、何をいきなり。
「違っていたらすいません。さきほどリノの念魔導を見破ったので、てっきり……」
ああ、そういえばさっきそんなこと言ってたな。アレは万能鑑定のスキルでステータス欄を見たからリノの種族がわかっただけなんだが。
「いや、オレは魔法は使えないよ。少なくとも今はね。さっきのは偶然だよ偶然。なんか変な違和感あるなー、くらいに感じただけだから」
狐人族と種族まで断定しておいて何を言ってんだと、自分でも思うが幸いマイカもリノも特に疑問を持ったわけではなかったみたいで、「そうですか」としか言われなかった。
別に万能鑑定のことを言ってもいいんだが、神様からもらったスキルだしな。こっちの常識を全然知らないんだし、黙っておいたほうがいいだろう。内心でそんなことを思っているとリノが魔法の説明を始めてくれた。
「魔法は基本的に5つの種類に分けられます。私も使える念魔導、それから錬魔導、聖魔導、自然魔導、生活魔導の5つです」
他にもいくつか特殊な魔法もありますが、と前置きをしてからリノが簡単にそれぞれの魔法を説明してくれる。
「まず私が使える念魔導ですが、これは生物の身体に影響する魔法です。私はさっきみたいに相手の認識をわずかに操作するくらいしかできませんが」
認識を操作する、か。使いこなせばかなり悪質な使い方もできそうだが、Lvも低いし大したことはできないみたいだな。まあ狐の亜人だし、化かしが得意ってことか。
「他にも念魔導は身体の力を限界以上に引き出したり、目に見えない力で物を持ち上げたり、遥か遠くのものや、すごい人だと過去や未来を見通したりもできるそうです」
スゲーな、念魔導。イメージとしたは超能力みたいなものか。それもESPとPK両方を合わせた感じだな。ひょっとしたら感覚に影響とか与えてテレパスとかもできそうだな。
「次に錬魔導ですが、これは説明が難しいです。鉱石を硬いものに変えたり、火を使って爆発を起こしたりするらしいんですが……」
「私も詳しくはわかりませんが、錬魔導を使うには理を学ぶ必要があるという話を聞きました」
リノの微妙な説明にマイカが助言を加える。理、ことわりを学ぶ必要がある、か。なんとなく予想もできるが、確実なことはキチンと知識のある人から聞く必要があるだろうな。
「聖魔導は説明しやすいです。神に祈り、神の御力を借りる魔法です」
これはそのままか。いわゆる白魔法みたいなもんだな。
「自然魔導は、聖魔導にちょっと似ていますが、こっちは神ではなく自然の力を借ります」
「自然の力?」
「ハイ。例えば風の力を使って突風を起こして敵を吹き飛ばしたり、水を生み出して敵の炎を防いだりします」
なるほど。四大元素とか、五行のニュアンスでいいのかな。
「最後に生活魔導ですが、これは正確な定義は決められてません。少しの魔力でも発動でき、生活に便利な魔法のこと全般を指します。例えば何も無いところから火を起こす魔法があったとして、薪に火を点けるくらいの強さならば生活魔導に分類されますし、大きな火を起こせばそれは自然魔導に分類されます。他にも衣服を浄化する魔法だったり、暖かい風を起こして濡れたものを乾かす魔法なんかがあります」
他にもエルフが使う精霊魔導や、聖魔導の対極にある、魔族の使う闇魔導などがあるらしいが、基本的に一般的な人間が使えるのは上の5つらしい。ちなみにこの世界でいう人間とは二足歩行で、言葉を話し、文化を持つ種族のこと全般を指す。ただし、魔族はその枠組みからのぞかれるそうだ。
魔法の次にこの世界の貨幣について聞いてみた。
貨幣は全世界共通で、単位はゴルドという単位が使われている。銅貨が1枚で1ゴルド。大きな銅貨である大銅貨1枚が銅貨10枚分で10ゴルド。そのまま10進法で銀貨1枚は大銅貨10枚分、大銀貨1枚で銀貨10枚分、金貨1枚で大銀貨10枚分となり、つまり金貨は1枚で10000ゴルド。
大金貨というのは存在しないが金貨の上には紅貨というものがあるらしく、価値は実に金貨100枚分だそうだ。もっとも紅貨など普通の村では一生目にする機会などなく、マイカ達も話しには聞いた事があるが見た事はないらしい。
相場を聞く限りでは1ゴルド10円くらいの感覚だろうか。もちろん一概には言えないだろうが。
そんな話をしている内にいつの間にか街が見えてきた。
街の名前はサントラフォード。リガル王国と呼ばれるこの国の西部にある街で、王都ほどではないが交通の要所としてそれなりに発展しているらしい。
マイカもリノも2~3回ほど村から来たことがあると言っていた。
「そういえばチラホラ人の姿が増えてきたな」
地面も草の生えたものではなく、踏み固められた道にいつの間にか変わっており、さっきまでと違いすれ違う人の姿も見える。
マイカの言によると今まで通ってきた草原に人がいなかったのは、あそこは本来の街道ではなく、村までのショートカットらしい。そういう道は盗賊の被害に遇う事もあるのだが、あの商人は護衛もいるから大丈夫だろうとタカをくくってたようだ。
サントラフォードに近づくと、石造りの門が見えてきた。結構大きい門だ。高さは3メートル、幅は7~8メートルくらいあるだろうか。開かれた門の右側に門番の詰め所らしき小さな小屋があり、2人の衛兵の姿が見える。
「ようこそ、サントラフォードへ」
門の側に行くと、衛兵の1人がこちらに気づき声をかけてきた。40は過ぎているだろう、ヒゲ面のいかついおっちゃんだったが、ニカッと擬音が聞こえてきそうな笑顔のお陰で親しみが持てる。
「こんにちは」
「街の住人なら身分証を見せてくれ。違うんだったり、身分証がない場合は税として1人銀貨1枚だ」
「わかりました」
懐から硬貨袋を取り出し、マイカ達の分を含めて銀貨3枚を渡す。この硬貨袋は商人のものを拝借した。アイテム欄を使って、何もないところからお金をだすわけにもいかない。勿論、中身はキチンと遺族の方に届けるつもりだし、入れ物くらいいいよね?
「よし、それじゃコイツに触れてくれ」
「なんです、コレ?」
「なんだお前さん、鑑定石を知らんのか?」
次に衛兵のおっちゃんは手のひらに乗るくらいの大きさの鉱石を出してきた。キチンと研磨されキレイな直方体に形を整えられているが、見た感じただの黒い石にしか見えない。
思わず疑問を口にしてしまったが、どうやらこの世界では常識のものらしい。慌てて半端な笑みを浮かべながら誤魔化す。
「あ、いやまぁ、アハハハ……」
「ふうん? ま、ぶっちゃけどうでもいいんだ。コレは鑑定石っつてな、これに触れると触れた者の名前やJOB、犯罪歴が解かるんだわ」
だから素性が怪しいヤツでも一発で解かるんだよ、とおっちゃんの談。
なるほど、マイカに説明してもらったヤツか。でもおっちゃんの言う感じだとパラメータやスキルまでは見えないのかな。
「そんな便利な物があるんですか。ちなみにスキルとかは見れないんですか?」
「はっはっは。そんな高性能な鑑定石はデカい神殿とか王城の警備でしか使われねーよ」
よし、それはいい情報だ。そういう所に近づかなければオレのスキルやパラメータはそうそうバレないってことだな。ちなみにおっちゃんのステータスを見てみると、JOBは兵士のLv14でパラメータはマイカの倍くらいだった。名前はパウエル。なんか白人っぽい名前だけど、実態は日に焼けた40過ぎのヒゲもじゃのおっさんである。
「名前はスグル、か。名字持ちって、お前さんいいとこの坊ちゃんか何かか?」
「坊ちゃんなんかじゃありませんよ」
年齢的なことも含めて色んな意味でね。これでも20歳過ぎてますよ。「ウッソォォ!?」おい、なんでマイカ達まで驚くんだよ。
小一時間ほど問い詰めたい気分だったが、我慢してマイカたちと出会った時の事を、おっちゃんにかいつまんで説明する。
「ふ~ん、なるほどね。だから鑑定石も知らなかったし、JOBもこんなよくわからんものになってるのか」
「ハイ。それで後ろの荷車の中にこの馬車の持ち主だった商人や盗賊達の遺体があるんですが、どうすればいいでしょうか?」
「ああ、それなら街に入ってすぐに右に曲がると、軍の支部が見えてくるからそこに持っていってくれ。そうすれば懸賞金がもらえると思うぞ」
「わかりました。ご親切にありがとうございます」
「おう、気ぃつけてな」
笑顔で手を振ってくれるおっちゃんと別れ、オレ達はサントラフォードの街に足を踏み入れた。
みんな大好き魔法についてです。
ちょっと設定ばっかりになっちゃったでしょうか。
しばらくは毎日更新するつもりでしたが、早くも暗雲が……。
で、できるだけ頑張ろう。