第2話
第2話です。
ヒロイン候補登場です。
「ふぅ~」
ミニゴブリン2匹を倒したオレは長いため息をつくと同時、全身の力を抜きその場に座り込んだ。戦っているときは夢中で気が付かなかったが、かなり体力を消耗してるらしい。
「疲れた~。……考えてみれば命のやり取りなんて初めてだし、疲れるのも当然か」
若干震えている右手でメニューを操作して、具現化させた水差しから水を飲む。
一息ついて落ち着いたところで、今度はステータス画面をチェックしてみた。
NAME :立花 スグル
RACE :人族
JOB :漂流者Lv1
HP :187/520
MP :50/50
STR :64
VIT :39
INT :75
MND :42
AGI :66
SKILL:マルチスキル
神童
メニューウィンドウ
万能鑑定Lv1
ラーニングLv1
体術Lv1
回避Lv1
武器奪取Lv1
短剣術Lv1
おおっ! なんかスキルが増えてる。それにパラメータも微妙に上がってるな。Lvはさすがに一回の戦闘じゃ上がらないか。
『体術』:武器を使わない戦闘術。
『回避』:敵からのアクションを避ける行動に関するスキル。
『武器奪取』:対象の持つ武器を奪うことができる。成功率は武器奪取のLvや、使用者や対象のパラメータに依存する。
『短剣術』:短剣を使用した戦闘術。
スキルの簡単な解説を見る。一回の戦闘で4つも新しいスキルが手に入ったのは、たぶんオレが最初から持っていたスキルによるものだろう。普通の人族はどれくらいでスキルを習得するのだろう。
万能鑑定の解説に『キャラクター鑑定』というのがあったし、おそらくほかにも他人のステータスをチェックする手段は存在するだろう。そういった時に、あんまりスキルが多すぎると悪目立ちするだろうしな……。まぁ、そんな悩みも、とりあえず人里を見つけないと意味は無いか。
そう思考を切り替えると、オレはメニューを消して再び立ち上がった。ミニゴブリンの死体から短剣だけを拝借する。無いよりマシ程度の武器だが、丸腰よりはいいだろう。近くの葉っぱでドロッとした黒ずんだ血を拭い、アイテム欄に収納する。
さっきまで向かっていた方向へ、今度は駆け足で進む。今が何時なのかわからないが、寝袋も何も無い状態で野宿は御免こうむりたい。
どうやら前世の時よりも身体能力はかなり向上しているらしく、時折水分補給をするだけで、大して疲れることもなく走り続けることができた。
そのまま2時間ほどおなじペースで走っていると、前方に馬車のようなものが見えてきた。まだ距離は少しあるが、微かに人の声も聞こえてくる。
やっと人と出会うことができたと、喜び勇んで「お~い」と大声をあげようとしたところで、異変に気が付く。風に乗って聞こえてくるのは朗らかな笑い声ではなく、しゃがれた怒声や罵声。おまけにキン、キィンと金属がぶつかり合う音まで聞こえる。
「……どう考えても友好的な雰囲気じゃねーよな」
そう思ったオレは茂みに身を潜めながらそ~っと近づくことにした。
近づくにつれて状況が段々わかってきた。どうやら馬車を盗賊らしき集団が襲ってるみたいだ。盗賊は全部で6人――いや、一人地面に倒れているから戦ってるのは5人か。それに対して、馬車側は金属鎧を身に付けた護衛らしき戦士が2人に、御者台で震えながら金切り声で喚いている主人らしき男が1人。武器や防具の類は身に付けてないのでおそらく商人か何かだろう。
護衛の戦士はたった2人で盗賊5人を相手に渡り合ってる。見た感じ装備も盗賊のものよりも良さそうだし、Lvも高いのだろう。だが、如何せん多勢に無勢だ。少しずつ消耗していってるのが素人のオレにもわかる。盗賊の方も1人がやられたことで慎重になっているらしく、じりじりと包囲の輪を狭めるように2人を追い込んでいく。
う~ん。普通に考えれば護衛2人に助勢するべきなんだろうけど……。普通に恐いからなぁ。とりあえず万能鑑定で盗賊のステータスを見てみる。
どうやらLvもパラメータも低いみたいだ。それどころか5人のうち3人はスキルすら持っていない。これならオレでも戦えるかな。
そう思い、茂みの中から立ち上がろうとした瞬間。
「あっ!」
護衛の1人が盗賊と相打ちで討たれてしまった。出鼻を挫かれ固まってしまったオレが飛び出す間もなく、残った方も1対4と圧倒的に不利な状況に陥り、なんとか2人を倒すが、そこでトドメを刺されてしまう。
「ヒッ、ヒィィィィ!! 命だけは助けてく――」
悲鳴をあげる商人の男に抵抗する術もなく、命乞いの言葉の途中で殺されてしまった。
目の前で起こった惨状に呆然とするオレ。動揺からか、ガサリと茂みの中で大きな音を立ててしまった。
「誰だっ!」
盗賊の怒鳴り声に身を竦ませる。どうする? 能力値的にはオレが圧倒しているが、相手は2人だ。勝てる保障はない。とにかく丸腰のままでいるわけにはいかないのでゴブリンのダガーを2本具現化して両手に握る。
ザッザッと盗賊たちがこちらに近づいてくる足音がする。このままだとどちらにしても見つかるだけだ。なら一か八か、こっちから打って出るか――。
ダガーを握る両手にグッと力を込めて、覚悟を決めたとき、ガタガタと馬車の中から音が聞こえた。幸運にもその音に気をとられた盗賊たちは、茂みから飛び出したオレへの反応が一瞬遅れた。
「なんだ、一体――うがっ!」
「てめえ、ギャア!」
馬車のほうへ注意が向いた隙を逃さず、茂みから出たオレは一直線で左側にいた盗賊の胸元にダガーを突き入れ、もう一人の首筋目がけて右手のダガーを思いっきり投擲した。狙いは違わず、ダガーは見事に盗賊の首筋に命中した。
「ハッハッ」
荒くなった息を必死に整える。
今、オレは何をした。
人を――――違う、コレはゲームだ。
だけど、ここは神様が創った世界だろ。作り物じゃない。コレを作り物と言ったら、地球がある世界も同じになってしまうんじゃ……。
震える手を握りしめ大きく深呼吸する。
仕方ない。ああしなくてはこっちが殺されてたんだ。
それに相手は悪人だ。ステータスをチェックしたけど確かに盗賊と表示されていた。
そう自分に言い聞かせているところへ――。
「…………あの」
「う、うわぁぁ」
「きゃっ!」
突然後ろから声をかけられ、オレが無様な悲鳴と共に飛び上がると、声の主も驚き悲鳴をあげた。
盗賊の仲間にしてはキレイなその声に振り返ると、2人の女性が抱き合いながらおずおずとこちらを窺っていた。
「あ……、あの大丈夫ですか?」
「えと、ハイ。大丈夫、デス」
状況に思考が追いつかず、何故か片言で返事をしてしまった。
そういえば異世界なのに、さっきから周りの人みんな日本語だよな、まあ一応ゲームだしあの爺さんがその辺は調節してくれたのかなー、等と益体も無いことを考えていると、2人の女性がこちらに向かってぺこりと頭を下げた。
「助けていただいてありがとうございます」
「助けたって、オレが?」
「ハイ」
ていうかこの2人どっから出てきた? さっきまで見当たらなかったと思うんだけど。
2人とも擦り切れた、ぶっちゃけ服とも思えないような薄布を着ているだけという非常に扇情的な格好をしている。片方は黒、もう片方は黄金色の髪の毛で、長い黒髪の女性は背が高くスタイルのいい美人、肩口くらいの長さの金髪の娘は怯えた表情をしているが、笑ったらさぞかし可愛らしそうな美少女だった。
「え……と、君達は?」
オレの問いかけに黒髪の女性が答える。
「すみません、申し遅れました。私はマイカ。こっちはリノ。見ての通り奴隷でございます」
いや。
いやいや。
『見ての通り奴隷でございます』とか言われても……。
とにかく黙っているわけにもいかないから自己紹介を返す。
「オレの名前はスグル。立花スグルです」
「宜しくお願いします、スグル様」
「いやいやマイカさん、様付けなんてしなくていいから。普通に呼び捨てで構わないから」
「そういう訳にはいきません。私達は奴隷ですから。スグル様こそ、私達の事はどうぞ呼び捨てでお呼びください」
その後しばらく互いの呼び方に対して不毛な戦いが繰り広げられてから、状況を確認し合った。ちなみに呼び方はマイカが断固たる意志の元、決して譲らなかったので仕方なくオレは様付けに甘んじることにした。まあぶっちゃけウレシイんだけどね、きれいなお姉さんや可愛い女の子に様付けで呼んでもらえるのは。
オレが飛び出した瞬間、馬車の中から音がしたのはこの2人の仕業だった。
どうやら2人は死んだ商人の商品奴隷だったらしい。マイカもリノも家の借金が大きくなりすぎて売られてしまったようだ。
オレのほうは気が付いたらこの近くの洞窟にいた、記憶もあまり定かではなく自分の名前くらいしか覚えていないという、なんとも怪しさMAXの説明をしてみたが、あまり違和感なく受け入れてもらえた。もしかしたら奴隷ゆえに疑うことが許されてないのかもしれない。
しかし、さっきから話してくれるのはマイカばかりだ。リノの方はマイカの後ろに隠れてそ~っとこっちを見ているだけである。しかも目が合うとピュッとマイカの背中に隠れてしまう。
盗賊を殺したんだし、恐がられてしまうのは仕方ないかもしれないが、可愛い女の子にああいう反応をされると地味に傷付くな……。
「ところでスグル様。奴隷の身で不相応は承知ですが、折り入ってお願いがあるのです」
「ん? お願いって?」
美女からのお願いなら大抵のことは聞いちゃうぜ!
ありがとうございます、とお礼を挟んでからマイカが『お願い』とやらを口にした。
「私達2人をスグル様の奴隷にして欲しいのです」