第34話
お久しぶりです。
「何!? ベアウルフの大群が近くにいる!?」
サントラフォードの街の中、軍の支部でオレの報告を聞いたキアラさんから悲鳴のような叫びをあがった。その叫び声を聞いた、周りにいる兵士たちからも動揺する気配が伝わってくる。
「確かか、スグル殿?」
「ええ。間違いの無い情報です」
キッパリと断言するオレの言葉に嘘や冗談ではないと信じてくれたらしい。真剣な表情のキアラさんに詳しい説明を続ける。
「…………木精霊を助ける、か」
「どうにかお願いできないでしょうか?」
険しい表情のキアラさんに正面から頼み込む。
他に軍の知り合いなどいないオレは彼女に頼み込むしかない。だが、騎士とはいえ、平民上がりの上に女性であるキアラさんの立場は、軍内部でそれほど高くはないはずだ。
「……………………」
この国での亜人族の境遇は非常に悪い。まして木精霊は今までモンスターと同列に扱われていた存在である。彼らとコミュニケーションが取れる事が理解されたとしても、その立場は低いものであるはずだ。
そんな存在を助けるために軍を動かすのは非常に難しいだろう。
――それでも。
「わかった。できる限りの事はしよう。約束だ」
キアラさんはこちらをしっかりと見据えて頷いてくれた。
「ありがとうございます。それじゃオレはこれで」
「待ってくれ、スグル殿はどこに行くつもりだ?」
短く礼を述べてすぐに走りだそうとしたオレをキアラさんが呼び止める。
「協力してくれる人を他にも探します。一応いくつかは心当たりがあるので」
「そうか……。うまくいくことを願っている」
「はい。ありがとうございます」
もう一度、礼をしてから再び走りだす。向かう先は冒険者ギルド。
オレがギルドの入り口に到着した時、タイミング良くマイカたちがやってくるのが見えた。3人にはオレがキアラさんのところに協力を求めている間に、別の人物のところに使いに行ってもらっていた。
「どうしたの、坊や?マイカちゃんたちに緊急事態だって呼び出されたんだけど」
オレたちの雰囲気から冗談の類ではないことを感じ取ったのだろう。
いつもと違い真剣な表情を顔に浮かべたアナスタシアさんがこちらをまっすぐに見据えて問いかけてきた。それに短く答える。
「冒険者ギルドの長と会って話がしたいんです」
「あたしを伝手にしてってこと?」
「はい」
オレたちのような駆け出しの冒険者が面会を求めても、多忙であろうギルドのトップと話なんてできないだろう。だが、世界に数人しかいないエクストラランクの冒険者ならばそれも叶うはず。
「あたしをアゴで使おうなんていい度胸ね」
「もちろん、この借りは必ず返します。僕にできることならなんでもして」
「その言葉、絶対に忘れないでよ」
キラン、とアナスタシアさんの目が光った気がした。まずい、「なんでも」っていうのはちょっと風呂敷広げすぎたかもしれない。
だが、今は悩んでる時間が勿体ない。小さく頷くことで返事とし、そのまま全員でギルドの中に入る。
やはりエクストラというのは絶対的な存在らしい。アナスタシアさんが受付にギルド長に会いたい旨を伝えると、すぐに奥の階段へと通された。3階の会議室のような場所に案内され、そこで待つように言われる。
「ギルド長ってどんな方なんです?」
待っている間にギルド長がどんな人物なのか、アナスタシアさんに聞いてみた。木精霊を助けてもらうためにも人となりを知っておいたほうがいいだろう。
だが、返ってきたのは予想外の評価だった。
「下品なクソ親爺よ」
「……え?」
「クソ親爺とは随分なご挨拶じゃねぇか」
あまりな言い様にオレたちが呆気に取られた瞬間、部屋の扉が勢いよく開かれ、酒やけでもしたような嗄れ声が響いた。
部屋の入り口のほうを見ると、剥げかかった白髪交じりの頭をした50歳くらいの男性がこちらを鋭く睨み付けていた。なんというか、いかにも「The 親爺」という感じである。
突然現れたその親爺は、オレたちが茫然としている間にズカズカと部屋に入ってくる。ドカッと向かい合わせになっていたソファに腰を下ろすと、咥えていた煙管からフゥ~、と煙を吐き出した。
「んで? アナの嬢ちゃんがようやくオレの愛人になる決心をしたのかと思って呼ばれて来てみりゃ、他にもお客さんがいるじゃねぇか。なんだこいつらは。ひょっとして嬢ちゃんは見られると燃えるってクチか?」
「悪いけど、あんたの愛人なんてサラサラごめんよ。何度も言ってるけど。今日はこっちの坊やがマスターに面会したいっていうからその付き添い」
「あ゛~?」
「ひぅ」
ジロリとこちらを睨む眼光に思わずリノが短い悲鳴を上げる。しかしギルドマスターの親爺はそんな悲鳴に構うことなく無遠慮な視線で観察してきた。
「ふん」
ようやく気が済んだらしく、唸るように鼻を鳴らす親爺。
その様子を訳知り顔で見ていたアナスタシアさんが口を開いた。
「どう? その坊やはお眼鏡には適った?」
「そっちの嬢ちゃんたちは問題ねえ。だが坊主、おめぇはなんか匂うな」
「……一応身だしなみには気を付けてるつもりですが」
「そんなつまんねえ冗談聞きたかねーんだよ。どうも見た目通りのステータスじゃねえような気がするんだよな」
「…………」
チラりとアナスタシアさんの方を見るが彼女は楽しそうな顔で首を横に振った。どうやらステータスのことを喋ってはないようだ。
ということはこの親爺のスキルか。万能鑑定を発動して、ステータスを見てみる。
NAME :ジルバート・スコールズ(47)
RACE :人族
JOB :冒険者Lv80
HP :2040/2040
MP :250/250
STR :142
VIT :104
INT :73
MND :98
AGI :117
SKILL:自然治癒力強化
剣身一体
剣術Lv5
大剣術Lv5
武芸指導Lv4
念魔導Lv3
人物鑑定Lv4
備考 :サントラフォード冒険者ギルドマスター
マジかよ、なんだこのステータス。アナスタシアさんと同格か、へたすりゃそれ以上だ。
というか、強さ以上にやばかったのが人物鑑定だな。あぶねえ、神様の爺にステータス偽装のスキルをもらってなかったらやばかった。
ちなみに他人から見えるオレのステータスはこうなっている。
NAME :立花 スグル(21)
RACE :人族
JOB :漂流者Lv10
HP :290/290
MP :40/40
STR :36
VIT :24
INT :39
MND :24
AGI :35
SKILL:奴隷成長補正
商談Lv2
剣術Lv1
備考 :奴隷の主人――奴隷マイカ、リノ、オリヴィエラ
レベルは10にして、パラメータの数字は半分にしてある。これでも数値的には高めだけどアナスタシアさんたちと比べれば雲泥の差だ。
だが目の前の親爺、ジルバートさんは違和感を感じ取ったらしい。
さすがはギルドマスターといったところか。それにJOBが冒険者ってことは元エクストラランクか。
「……まぁいい。一端それは、置いといてやる。それで、坊主は一体俺様に何の用だ?」
ステータスを見ながら考えに耽っていたオレの意識をジルバートさんの言葉がひっぱり戻した。
「緊急の案件です。それも極めて危険な」
オレは手短にサントラの森で起きている異常事態をジルバートさんとアナスタシアさんに説明し始めた。
活動報告でも書きましたが、また執筆することにしました。
1年以上も間が空いてしまい、すいませんでした。
更新ペースも遅いと思います。それでもいいという方に読んでもらえれば幸いです。




