第33話
お久しぶりです。
読んでいてくれた方は、前話から随分と投稿が遅れて申し訳ありませんでした……。
ベアウルフというのは名前のごとく、熊と狼が合わさったようなモンスターらしい。
熊の身体に狼の頭がついているような外見をしており、狼の俊敏さと熊の強靭さを兼ね備えている。その上、狼の習性からか群れで行動することが多く、大きな群れになると街の騎士団でも討伐が難しいそうだ。
おまけにその食性は雑食で、川魚や森の獣だけでなく果実や木の芽、果てはその辺の野草まで食べる上に、非常に食欲旺盛で、下手をすればサントラの森の食物連鎖が崩壊してしまうと、ウルザリーナさんが険しい表情で説明してくれた。
それを聞いて内心頭を抱える。
おい、あの爺! とんでもねえ事態を創ってんじゃねーよ!
「ご主人様」
ウンウン頭を抱えて唸っているオレにリビーが声をかけてきた。
「ベアウルフは危険なモンスターです。木精霊達の言う事が正しいのだとするなら、すぐにサントラの街に警告に行くべきでは」
「確かにそうだな。それですぐにでも援軍を呼ばないと――」
返事をしかけた所で、それを割って入る声があった。
「スグル殿。すまないがそれは待っていただきたい」
「ウルザリーナさん……?」
思いのほか強い口調に、反論するより先に怪訝な表情が顔に出てしまう。危険が迫っているのに警告するのを待ってほしいというのはどういうことだろうか。
「これは我らが森の問題。スグル殿はミリナの恩人ゆえに信頼しているが、他の人族は話が別だ。言い方は悪いが、余所者に首を突っ込まれたくはない」
「しかし、危険なモンスターなんでしょう!?」
「ベアウルフは確かに危険なモンスターではあるが、基本的に森の中から人里に出る事はほとんどない。精々が門の外で飼っている家畜を幾頭か食べる程度であろう。それゆえ万が一の際に備えて街の出入り口に警備を敷いておけば問題はないはずだ」
こちらを説得するその口調は静かではあるが有無を言わさぬ威圧感が込められていた。その圧力に口の中から出かかった反論も喉の奥まで引っ込んでしまい、オレは黙り込んでしまった。
ウルザリーナさんの言う事が本当ならば、軍や冒険者ギルドに連絡して街の門の出入り口にバリゲートを張っておけば問題はないだろう。
余所者が口出しするべきではないというのも解る。
でも……。
モヤモヤした感情を抱いたまま黙り込むオレをウルザリーナさんは無表情で見ている。どちらも口を開かないまましばらく沈黙が続いていたが、それを破る声があった。
「……父様」
「なんだ、ミリナ」
ウルザリーナさんが返事をするが、その視線はオレの方を向いたままだ。譲らないという意志表示なのだろう。
だが、続くミリナの言葉を聞いた瞬間、驚きのあまり視線がミリナのほうに向けられた。
「……お兄ちゃん達に頼んで、人族に助けてもらおう?」
「お前……、何を言っている!? 人族が我らにとってどんな存在か忘れたのか?」
「忘れてないよ。……でも父様も私をお兄ちゃんに付いて行かせてくれたくれた時言ったでしょ? 人族にもお兄ちゃんたちのような人だっているのかもしれないって。人族に対する見方を見なおしたほうがいいのかもしれないって」
「むぅ……」
愛娘であるミリナの言葉に反論できないウルザリーナさん。自分の父親が言葉に詰まっている内にたたみかけるようにミリナが続ける。
「私はお兄ちゃんに人族の街に連れて行ってもらって、父様の言うとおり、人族に対する見方を変えた方がいいんだって思った。だって街の人はみんな私に優しかったもん。知らない他人のはずの私にみんな親切にしてくれたよ」
そう言いながらミリナはアナスタシアさんにもらった腕輪を見せる。
「これも、お兄ちゃんのお友達のお姉さんがくれたの。その人はミリナが木精霊で、魔法で人族に化けてるって気付いたのに、乱暴するどころか、わざわざこの腕輪に魔法を込めて他の人に見破られないようにしてくれたんだ」
腕輪を大切そうに撫でるミリナを、ウルザリーナさんは黙ったまま見つめていた。オレ達も口を出せる雰囲気ではなく、何も言わずに立ち尽くす。
やがて長いため息をついてからゆっくりと、ウルザリーナさんが口を開いた。
「……ミリナ」
「はい」
「スグル殿をはじめ、お前が出会った人族が優しかったのはわかった」
「はい!」
「だが、私はまだ人族が信頼できる存在だとは思っておらん」
静かに告げられる言葉に、自分の想いは届かなかったのかと、ミリナが俯く。
だが、次の瞬間。そんなミリナの様子を見下ろすウルザリーナさんの表情がフッと和らいだ。
「……しかし、まずは自分が相手を信じない事には信頼という繋がりはできないのだろうな」
「…………父様!」
父親の言葉を理解したミリナの顔が綻ぶ。
そんな娘に一つ頷いてから、ウルザリーナさんがオレの方に向き直った。ミリナもそれを追うようにオレを上目遣いに見上げる。
「スグル殿」
「はい」
「力を貸していただけますか?」
じっとオレを見つめる二つの視線に、短くはっきりと応える。
「もちろん!」
冒頭でも書きましたが、更新遅くなってすいません。
3月から生活環境がガラリと変わって、時間が中々取れなくなってしまい、更新が滞ってしまいました。




