第32話
少し短いです。
翌日。
朝食を済ませたオレ達は、ギルドでサントラの森に関する適当な依頼を受けてから、ミリナを連れて森へと到着した。
「アレ?」
「どうした、ミリナ」
しかし、森に着くなりミリナが怪訝な顔をする。オレの声も届かない様子で、目を閉じ耳をすませて辺りの様子を窺っている。
「鳥の声が……」
「鳥?」
言われてみれば、いつも聞こえてくるはずの鳥の鳴き声が聞こえてこない。爺が言ってたイベントやらの影響か?
「ついて来て!」
「お、おいっ!?」
昨夜の夢の事を思い出して考えていると、ミリナが走り出した。オレ達も慌てて後を追う。
最初の内は道らしき場所を通っていたが、次第に獣道とも言えないような道なき道を通るようになった。茂みを掻き分け、切り株に躓きそうになりながら、必死にミリナの後ろ姿を追いかける。
途中モンスターを見かける事もあったが、ミリナがなにやら呟くと木々や草が動いてこちらの姿をモンスターから隠してくれた。
そうこうしているうちに今まで入った事もないような森の奥まで来た所でミリナがようやく立ち止まった。
「お兄ちゃん。私があげた指輪持ってるよね?」
「ああ」
もらった時から指にはめていた指輪をミリナに見せる。ちなみに左手の薬指ではない。
「じゃあ大丈夫のハズだからミリナについて来て」
何を今更、今までもずっとついて来てたじゃん、と思ったが次の瞬間、思わず目を疑った。ミリナは大きな大木に向かって歩み寄ると、そのまま通り抜けるようにその木の中心に消えていってしまった。
「!?」
「今のは……?」
予想外の事態に驚き、声がでない。後ろにいるマイカ達も同様みたいだ。
しばらく動けないままでいると、目の前の木の幹からニュッとミリナが顔を覗かせた。
「うおっ!?」
「「「きゃっ!」」」
「早く来てってば」
思わず悲鳴をあげてしまったオレ達を気遣う事なく、半身が木から生えたようになっているミリナが急かしてくる。
「これって……」
「結界か何かなの?」
リノの言葉に木の方に手を伸ばしてみる。するとゴツゴツとした木の皮の感触はなく、そのままオレの手が木の中に隠れて見えなくなってしまった。
なおも不思議そうな顔をしていたオレにミリナがようやく説明をくれた。
「これは里を隠すための結界だよ。でもミリナの指輪を着けてれば結界の中に入れるはずだから早く!」
それを最初から言ってくれ……。
オレが指輪をしていればその奴隷であるマイカ達も結界に入れるらしい。嫌な言い方だけど、奴隷ってのは主人の所持品扱いだからだろうか。
ミリナに手を引かれながら結界を抜ける。
目の前に現れた景色にオレ達は再び立ち止まることになった。
「キレイなの……」
「あたたかいです」
リノやリビーが思わずといった風に呟く。オレも全く同じ思いだった。
結界を抜けた先は周りを鬱蒼と並び立つ木々に囲まれた広場のような場所だった。広場の中心には柔らかな日光が差し込み、日溜りの聖域とでもいうような場所になっている。周りの木々の太い枝の上には、木精霊の住処であろうウッドハウスが建てられている。
「ミリナ! よく戻った!」
ミリナを呼ぶ声がした方を見ると、入り口から正面に見える、最も大きな木の上にある家の中からウルザリーナさんが姿を現した。
「父様! 森がおかしいです!」
「わかっておる。おお、スグル殿。娘が世話になった」
枝の上から飛び降りたウルザリーナさんは、噛み付くようなミリナを宥めながらオレに挨拶をしてくれた。オレも会釈をしながら返事を返す。
「いえ、こちらもミリナと一緒で楽しかったですから。それより、ミリナが言うには森の様子がおかしいみたいですが……」
「うむ、そうなのだ。どうやらベアウルフの群れがこの森に向かっているらしい」
「なっ!?」
「ベアウルフってあの!?」
「数は!?」
ウルザリーナさんの言葉を聞いて驚くマイカ達。オレはベアウルフがどんなものかわからないのだが、その緊迫した表情からして、どうやらかなり切羽詰った事態みたいだ。
別の作品書き始めました。よければそっちも見てもらえると嬉しいです。更新が遅くなると思いますが、どちらの作品も終わりまで書きたいと思っているので、頑張ります。




