第1話
目を開けると何も見えなかった。
一瞬、あの爺さんの話が嘘だったとかバグとかエラーとか発生したのかと思ったが、どうやら辺りが暗いだけみたいだ。
段々と目が暗闇に慣れていくと、ぼんやりと周りの様子がわかる。周りの壁はゴツゴツと硬く、地面は冷たい湿り気を帯びた土みたいだ。
たぶん洞窟のような場所にいるみたいだな、と見当をつけてソロソロと出口へと向かう。曲がり角にぶつかり、そこを曲がると洞窟の出入り口が近いのか、辺りがやや明るくなる。
とりあえずこんなジメジメとした場所にいつまでもいたくないので、光の強いほうへとズンズン進んでいく。
ていうか、この世界ってRPGの中なんだよな。ってことは魔物とかもいるってことだろ。もし今この瞬間に魔物が出たら、やべえんじゃね。いくらなんでもいきなりアホみたいに強いヤツは出ないだろうけど、こちとら平和な日本でのほほんと22年間暮らしていただけだぞ。スライムにすら勝てない自信があるんだけど。
そんなことを考えたりもしたが、右も左もわからないスタート地点から魔物とエンカウントなどという設定にはなってないらしい。無事洞窟の出口にたどり着いたオレは、明るい日差しに目を細める。
光に慣れた目にまず映ったのは、のどかな草原。膝小僧の少し下辺りまで伸びた草におおわれた緑の大地が続いている。左手には鬱蒼とした森が広がっていて、時折なにかの鳴き声らしきものが聞こえてくる。
「うーん、なんだかこのまま昼寝でもした気分だな」
穏やかな日差しに照らされ、開放感ある草原に寝転べばさぞかし気持ちがいいだろうが、それよりも先にやることがある。
「メニューウィンドウが使えるって言ってたけど、どうすりゃいいのか聞いてねーなそういえば」
肝心の部分を聞くことを忘れてしまったので、とりあえず思いつく方法を試してみる。
「メニューオープン……っと、どうやら当たりみたいだな」
言葉を発した瞬間、いつの間にか左手についていた円形の白い腕輪から、半透明のパネルが浮かび上がった。
「スゲーな、コレ」
右手を使って何度か試してみたが、どうやらパネルに触れようとすると触れることができ、触れようとしないとそのまま透過するらしい。
そんな不思議なパネルにはいくつかのメニューコマンドが並んでいた。とりあえず一番上にある『ステータス』という欄を選んでタッチしてみる。
NAME :立花 スグル
RACE :人族
JOB :漂流者Lv1
HP :199/500
MP :50/50
STR :64
VIT :38
INT :75
MND :42
AGI :61
SKILL:マルチスキル
神童
メニューウィンドウ
万能鑑定Lv1
ラーニングLv1
「『NAME』は名前だよな。『RACE』はわからないけど、横に人族って書いてあるし、種族みたいなもんか。この『JOB』ってのは職業だよな……。漂流者って、まぁぶっちゃけ迷子だし、その通りなんだけどさ。その下の項目はパラメータだな。……Lv1のくせに高い気がするんだけど。まぁ、比較対象がないからわからないんだが。そんでその次がスキルなんだろうけど……」
そう一人ごちながら、ステータス欄を見る。
まず『メニューウィンドウ』、これはいい。説明不要だ。次の『マルチスキル』やら『神童』に『ラーニング』ってのはなんだ?
わからないまま、その欄をタッチしてみると、簡単な説明が表示された。
『マルチスキル』:常人よりも遥かに多くのスキルを身に宿すことが出来る。
『神童』:スキルの成長速度が格段にアップする。
『万能鑑定』:アイテム鑑定、キャラクター鑑定、モンスター鑑定の3つの鑑定スキルの効果を持つスキル。
『ラーニング』:スキルを習得する。習得方法や難易度はラーニングのLvやキャラクターのJOBやパラメータ、対象となるスキルに応じて変化する。
フーン。とにかくこの世界にはスキルというものが存在して、オレはそれを通常より効率よく覚えたり、成長させられたりできるってことかな。鑑定ってのはオレのステータス画面みたいのを見れるって感じか?
まあその辺はおいおい検証したりするか。
「しっかし、見事に何にもねーなあ。道とか看板とかもねーから、どっちに行ったらいいのか全くわからん」
とりあえず左に見える森に入っていくのは躊躇われるので、洞窟の入り口から真正面に向かって歩いていくとしよう。
歩きながらメニューからマップを選んで広げてみると、何も書かれていない画面に少しずつ地形が書き込まれていく。どうやら歩いたり見た場所がどんどんマップに書き込まれるらしい。便利だな。
次にアイテムという欄を選んでみるとリストには、わずかばかりの食料に硬貨が何種類か並んでいた。タッチしてみると、シュンッという音と共に選んだアイテムが具現化する。とりあえず全部選択して具現化してみる。パンや果物などの小さいものは手元に、水の入った樽みたいに大きいものは足元に具現化するらしい。食料や水は三日分くらいある。
硬貨は金貨が3枚に大小2種類の銀貨が10枚ほど、それから同じく大小2種類の銅貨がジャラジャラと結構な量があった。相場とか単位とか全然わからないが、これだけあればとりあえず街についても宿が取れないとかいう事態は回避できるだろう。
メニューを操作してアイテムをしまい、果物をかじりながら再び歩き出す。
だが1時間ほど歩いたが、行けども行けども景色が変わらない。左手は相変わらず森だし、人影や道らしきものも見当たらない。
いい加減うんざりしそうになったところだった。森のほうからガサゴソと草を掻き分けるような音が聞こえたと思ったら、そこから2匹の生物が飛び出してきた。
茶色の身体に黒ずんだボロボロの布切れのような服。二足歩行で手には飾り気の一切ない無骨なダガーが握られているが、如何せん大きさが小学生の高学年くらいの身長しかないので、やや迫力に欠ける。鳴き声も妙に高いキーキー声だし。
「こいつら……頭に小さい角も生えてるし、子鬼、つまりゴブリンか?」
確か万能鑑定のスキルはモンスター鑑定を含んでいたはずだ。頭の中で万能鑑定と念じてみると、目の前のモンスターのパラメータが浮かんできた。
どうやらゴブリンの仲間で、ミニゴブリンという種族らしい。Lvはどっちも3。パラメータはオレよりも遥かに低い。HPを抜かしてほとんどが一桁だ。やはり、オレのパラメータはかなり高いようだ。持っているスキルは短剣術Lv1。スキルのLvも低い。
「おっと」
そんな考え事をしていると、ミニゴブリンたちが二手に分かれて左右から襲い掛かってきた。慌てて2匹の攻撃を避ける。
パラメータに圧倒的な差があるとはいえ、こちらは丸腰だ。油断はできない。それにどれだけ小さくてもやはり刃物は怖い。
キィキィ鳴きながらダガーを振るう2匹を相手に、慎重に間合いを測る。小柄な上に得物が短剣だからリーチはかなり短い。ダガーを避けた瞬間、やや態勢が崩れたミニゴブリンの背中に蹴りをぶち込む。全力を込めた蹴りを食らったミニゴブリンは、そのまま2メートルほど吹っ飛んだ。
それを見たもう片方がダガーを構えて突っ込んできた。オレは半身になってそれを躱しざま、ミニゴブリンの手を捻り上げ、ダガーを奪取する。ダガーを奪われたミニゴブリンはすぐさま、再び奪い返そうと飛びかかってくるが、リーチに勝るオレはその胸元にカウンター気味にダガーを突き立てた。
ギクッと、一瞬身体を痙攣させた後、ミニゴブリンはそのまま動かなくなった。ホッとする間もなく蹴り飛ばしたほうのもう一体が相棒の敵討ちとばかりに襲い掛かってくる。さっき奪ったダガーは倒したミニゴブリンに刺しっぱなしだ。戦闘なんて経験ないから仕方がないとはいえ、自分の要領の悪さに小さく舌打ちしながら、残った、ミニゴブリンと素手で向かい合う。
相棒のやられ方を見て学習したのか、ミニゴブリンは動きを小さくして素早くダガーを振るうので残念ながらさっきみたいに武器を奪うことができない。互いにしばらくにらみ合う。
オレは油断なく構えながら、何かいい手はないかと視線を辺りにやる。と、すこし離れたところに拳大ほどの大きさの石を見つけた。ジリジリと相手を窺いながら石に近づき、一瞬の隙を見てその石を拾う。オレが石を拾おうとかがんだ瞬間にミニゴブリンが飛び掛ってきたので、即座に拾った石をゴブリン目がけてブン投げる。
石は見事に左目に命中し、ギャイッという悲鳴をあげながら目を押さえるミニゴブリン。その隙を逃さず、押さえた目の死角から相手の懐に飛び込むとダガーを奪い、そのまま突き刺した。相棒と同じように一瞬身体を痙攣させた後、もう一体のミニゴブリンも動かなくなった。
戦闘シーンって難しいですね。
読みにくかったらスミマセン。