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第25話

今回、主人公視点ではありません

「はぁ……」


 ベッドと小さな衣装ケースに一人用のテーブルと、必要最低限の家具しか置かれていないシンプルな部屋の中。

 両足を抱え込む格好でベッドにうずくまるマイカの口からため息が零れ落ちる。


 今日、アナスタシアの所で1ヶ月に渡る魔導師の修行を終えた。

 だが、自分は何一つ身に付ける事ができなかった。

 それはリビーも同じではあるのだが、彼女は自分達の中で唯1人の聖魔導の遣い手である。それ故、他の魔法が使えるようになっても、MPを温存しておく必要があるため、それほど意味がないとも言える。


 リノは元から念魔導を使えたが、今回の修行でさらに自然魔導が使えるようになった。主人であるスグルに至っては自然魔導、念魔導、錬魔導の3種類全てをマスターした。


 アナスタシアが言うには、1ヶ月程度ではマスターしない方が普通であるらしいが、チームの中で自分だけが魔法を使う事ができないという事実がマイカの心に重くのしかかっていた。


「私はご主人様の役に立っているのでしょうか……」


 勿論、常に全力でスグルのために働いている自覚はある。日常での炊事や洗濯といった家事以外に、戦闘でも恐怖を押し殺し、スグルと共に前衛で魔物と対峙している。


 だが。

 実際の所、自分が必要なのだろうか。

 リノは念魔導による牽制、リビーは聖魔導を使っての回復役と、パーティになくてはならない存在である。

 それに対し、自分は前衛として戦ってはいるが同じように前衛で戦っているスグルと比べると、明らかに能力が劣っている。

 なくてはならない役割を担っているリノやリビーと違い、自分はいてもいなくても変わらないのではないか?

 そんな考えが頭から離れない。


 だからといってスグルは自分を売り払ったりしないだろう。

 出会って2ヶ月も経ってはいないが、あの心優しい自分の主人がそんな事をしないという事は理解しているし、信頼もしている。


 だからこそ、マイカはその優しさに、その信頼に、その想いに応えたいと思う。


 スグルの役に立ちたい。

 だが、自分には何もできない。


 そんなもどかしさが心の中に降り積もっていく。


「ご主人――スグル様……」

「なんだい?」

「ご、ご主人様!?」


 ため息と共に零れた呟きに答えた声に飛び上がる。


「い、いつから……?」

「ごめん、何度もノックしたんだけど、返事がなかったから……。勝手に入ってきたのは謝るよ」

「いえ、寧ろ私のほうこそノックに気づかずにすいませんでした!」


 奴隷である自分に向かって頭を下げる主人に、慌てて頭を上げてくれるよう頼む。

 

 マイカはスグルのこういう所が好きだ。

 普通なら奴隷に対して主人が謝る等ありえない。だが、スグルは違う。この主人は自分達を自らの所有物としての奴隷ではなく、1人の個人としてみてくれる。


「ため息ついてたみたいだけど、なんか悩み事?」

「いえ、そんな事はありません」

「…………」


 これ以上スグルにみっともない所を見せたくは無い。そんな思いから、精一杯の笑みを浮かべながら返事を返す。

 しかし、目の前の主人はジッとこちらを見つめたままだ。


「あの……ご主人様?」

「………………マイカ」

「なんでしょうか?」


 見つめられるのは不快ではない。寧ろ嬉しい事なのだが、何かを思案するように黙ったままでいるスグルに首を傾げると、静かな声音で名前を呼ばれた。


「魔法を習得できなかった事を気にしてる?」

「――っ!?」


 心中をまさに言い当てられ、思わず息を呑む。

 自分の様子を見て、正解と受け取ったのだろう。スグルは「う~ん」と、唸りながら悩んだ後、真剣な顔へと表情を変化させた。


「アナスタシアさんも言ってたけど、気にする事ないよ……って言っても気休めにもならないよな」

「…………」


 俯き、黙ったまま頷く。

 再び沈黙が部屋に満ちたが、スグルの声がそれを破った。


「マイカ。魔法を使いたい?」

「え? でも私は……」

「オレにはちょっと変わったスキルがあるんだ。そのスキルは、条件付だけど、オレの持っているスキルを他人に習得させる事ができる」


 スグルの言葉に驚く。そんなスキル、聞いた事も無い。

 条件というのは気になったが、こうやって言い出したということは、自分はおそらくその条件というものをみたしているのだろう。


 思わずスグルに飛びつきそうになったマイカに、「ただし!」と待ったの声がかかる。


「何の為に魔法スキルを習得したいのか、よく考えてくれ」

「何の為……ですか? それは勿論ご主人様の――」

「うん、そう言ってくれるのはうれしい。だけど、魔法スキルを習得することが本当に必要かな」

「…………」

「オレにはオレの、リノやリビーには彼女達の。そしてマイカにはマイカのやれる事があると思うんだよ」

「…………それは何なんでしょう?」

「さあ?」

「…………」


 思わず主人に向ける目がジト目になってしまう。その視線を受けたスグルは慌てて言い訳をしてくる。


「い、いやそんな目で睨まないで。何かに目覚めそうになっちゃうから! とにかく、魔法なんか使えなくてもマイカにはできる事があると思うよって事! 今はわかんないかもしれないけど、きっと見つかるハズだ」

「そう……でしょうか?」

「ああ。なんたってマイカはこの世界でオレが一番頼りにしてる人なんだから」


 その言葉に胸が高鳴る。

 この人が頼ってくれる。信じてくれる。

 それだけの事実が何よりも尊い奇蹟に思える。


「ご主人様」

「ん?」

「私にできる事、私がやるべき事、必ず見つけてみせます」

「うん。それでこそオレの知ってるマイカだ!」

「ハイッ! そのかわり、一つお願いしてもいいですか?」

「いいよ、オレにできることなら」


 少しだけ躊躇った後、お願いを口にする。


「ご主人様の事を、スグル様とお呼びしてもいいですか?」

「なんだ、そんな事か。もちろんいいよ」

「ありがとうございます、スグル様」


 この人の役に立ちたい。

 この人の信頼に応えたい。

 この人の隣でずっとその笑顔を見ていたい。


 そのためなら――

 どんなことでも――

初めての視点変更、いかがだったでしょうか?


ちょっと試しに書いてみました。

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