第23話
「いぇええうああぁぁあぁ!?」
アナスタシアさんの起こした風に舞い上げられたオレは、悲鳴とも絶叫ともつかない声をあげながら、空中で一瞬停止するとそのまま重力によって地上へと落下していく。
「ご主人様!?」
「大変なの! このままじゃカエルみたいに潰れちゃうの!」
「貴様、よくもご主人様を!」
眼下ではマイカとリノがあたふたと喚き、リビーにいたってはアナスタシアさんの胸倉につかみ掛ってる。
「大丈夫、大丈夫よ。落ち着きなさい」
『草木は踊る、蒼々と。草むらの踊り場』
リビーをいなしながら、アナスタシアさんが気の抜けるような声で詠唱する。すると、目前に迫った地面からいきなり鬱蒼とした茂みが生えてきた。オレは受身を取る間もなく、そのまま草でできたベッドの上にダイブした。
「ほ~ら、大丈夫だったでしょ☆」
「でしょ☆、じゃねーよ! 死ぬかと思ったわ!」
のほほんと笑うアナスタシアさんに、ガバッと起き上がるなり突っ込む。だが、アナスタシアさんは全く悪びれる様子もなく、突っ込みをスルーして話を変えてしまう。
「でもこれで、自然魔導がどんなものかなんとなくわかったでしょう? 今のは風の力と、草木の力を借りた魔法よ。他にも火や水、土、光、闇のように、自然を形作るものの力を借りるのが自然魔導なの。それじゃ体感してみた所で、次は早速実戦よ」
文句の一つも言いたかったが我慢して、アナスタシアさんの指示に従い目を閉じる。
「いい? 必要なのはイメージよ。自分の魔力を糧に何を起こすのか。起こしたい現象をキチンとイメージし、魔力を込めれば魔法は起きるわ」
「いや、あの……魔力を込めるってどうやるんです?」
いきなりそんな指示を受け、思わず疑問が口から出る。
「え? そんなの、自分の中にある魔力を操作すればいいのよ――って、ああ、そっか」
キョトンと首を傾げるアナスタシアさんだったが、すぐに何かを思い出したのかポンと拍手を打つと、おもむろにオレの両手を握る。
「いい? 今からあなたの身体の魔力を、私の魔力を通して循環させるわよ」
言うなり、アナスタシアさんの手がぼんやりと光を帯びた。それと同時、全身の血が一瞬で温度を上げたような感覚を得る。身体を流れる熱流は右手の指先から一端出て、左手の指先から戻ってくる。
なるほど、これが魔力か。
オレが初めての体験に感動していると、アナスタシアさんが首を捻る。
「うん? 坊や……魔法スキル持ってないのよね?」
「ええ、そのはずですよ」
「……ちなみにLvは?」
「…………2です」
「は~、なるほどね」
答えようか少し迷ったが、修行を見てもらっている身である以上答えないのは失礼かとも思い、正直に答える。
だが、オレの答えを聞いて驚くと思いきや、アナスタシアさんは妙に納得したように2、3度頷く。
「坊や、ひょっとしてLvが妙に上がらないとか思った事ない?」
「なんでわかるんですか!?」
「たまにいるのよ、坊やみたいな人間は」
「…………落ちこぼれって事ですか?」
ちょっと凹みそうになりながら口にした疑問に、アナスタシアさんは楽しそうに笑いながら首を横に振る。
「違う、違う。安心しなさい。寧ろその逆よ」
「逆?」
「ええ。Lvの上がりやすさは、Lvアップでのステータスの上がりやすさと反比例するの」
「え~と、つまり……」
「Lvが上がりにくい人間はその分Lvアップ毎に大きく成長するって事」
そういや、Lvが1上がっただけでオレのステータスは大分上昇してたな。
確認するように自分のステータス画面を表示してみる。
NAME :立花 スグル(21)
RACE :人族
JOB :漂流者Lv2
HP :580/580
MP :80/80
STR :72
VIT :48
INT :79
MND :49
AGI :70
SKILL:マルチスキル
神童
メニューウィンドウ
奴隷成長補正
御恩と奉公
万能鑑定Lv2
ラーニングLv1
体術Lv2
回避Lv2
武器奪取Lv1
短剣術Lv1
商談Lv2
剣術Lv1
盾術Lv1
備考 :奴隷の主人――奴隷マイカ、リノ、オリヴィエラ
確かに、オレのステータスの上昇率はマイカ達のそれに比べて2~3倍くらいある。
「ちなみに、歴代の勇者や大賢者と呼ばれるような人物も全員Lvの上がり方が遅かったと言われてるわよ」
「さすがはご主人様です」
「ご主人様、勇者になるの?」
アナスタシアさんの言葉にマイカ達が我が事のように喜ぶ。
考えてみればオレは世界の主人公なんだし、RPGでいうところの勇者ではあるのかな。
でもあんまり目立つのは好きじゃないし、アナスタシアさんを含め、4人にこの事は誰にも言わないようお願いしておいた。
「とにかく、魔力の流れはなんとなく感じる事ができたでしょ? それを頭の中に創り上げたイメージにのせるようすれば魔法は発動するわ。リノちゃんとリビーちゃんは魔力の操作はできるはずだから、3人はちょっとそっちで練習してなさい」
マイカがオレと同じようにアナスタシアさんと手を繋いで魔力の流れを感じ取ろうとしている間に、残るオレ達は少し離れた所で練習を開始する。
え~っと、頭の中にイメージを創り上げて……魔力をのせる!
「え?」
「きゃっ!?」
魔力を集中させた瞬間、目の前に小さな風の渦が生まれ、近くにいたリノとリビーが悲鳴をあげる。
少し離れた所にいたマイカとアナスタシアさんも気がついたみたいで、こっちに寄ってきた。
「ご主人様、今のは……」
「たまげたわね、こりゃ。一発で習得するなんて」
アハハ、と誤魔化すように乾いた笑いをあげながら、ステータスを確認すると、スキルの欄に自然魔導Lv1が加わっていた。




