第22話
「それじゃ、始めましょうか」
ガリアン・サンドでの依頼を終えた次の日。
オレ達はアナスタシアさんの家で魔法の修行を開始することになった。場所はアナスタシアさんの家の庭、なのだが…………これ庭ってレベルじゃねーよ!
どっかの球場かって言うくらい広い庭。振り返ると3階建ての屋敷がデンっと構えている。
さすがはエクストラの冒険者だ。
「まずはこれに着替えて頂戴」
そういってアナスタシアさんがマイカ、リノ、リビーの3人になにやら服のような物を渡す――ってスケスケのネグリジェじゃねえか!
「……アナスタシアさん?」
「ゴメン、冗談よ、冗談。そんなに睨まないでよ」
オレが静かに問うと、アナスタシアさんは少しも悪びれた様子もなく、ペロッと舌をだしながら謝ってくる。
「全く、あんなに可愛い娘を3人も独り占めにして。修行してあげるんだし、お姉さんにも楽しませてくれたっていいじゃない」
「絶対ダメです。修行に関しては感謝してますが、マイカ達には指一本触れさせません」
「「「ご主人様……!」」」
嬉しそうに頬を染めるマイカ達と対照的に、ちぇ~、と口を尖らせるアナスタシアさん。
「まぁいいわ。修行に託けてチャンスを狙うから」
「ハッ倒すぞ、アンタ」
「アハハ。やっぱり坊やは面白いわね。この街でアタシにそんな口聞くの、坊やだけよ?」
いかん、思わず心の中の台詞を口に出してしまった。
だが、そんなオレの言葉を聞いてもアナスタシアさんはカラカラと楽しそうに笑うだけである。この辺りは器がデカいなーと素直に感心するんだが……。
「ま、冗談はこのくらいにして、そろそろ本当に始めるわよ。まず、この中で魔法のスキルを持っている人はいる?」
問われ、リノとリビーが片手を挙げる。
「ちなみにそのスキルは生まれつきかしら?」
再度の質問に2人が頷く。リビーはスキルを生まれつき持っていたせいで辛かった過去を思い出したのか、少し表情が曇る。アナスタシアさんもその表情の変化に気がついたみたいだったけど、何も言わずに話を先に進めてくれた。
「なるほどね~。それじゃ2人共スキルは使えても、理論や仕組みについて理解してる訳じゃないって感じかな?」
魔法を使うってどんな風なんだ、と聞いたときの2人の説明を聞く限り、アナスタシアさんの言う通りだろう。
実際、リノもリビーも揃ってアナスタシアさんの確認に頷いた。
「それじゃ、全員揃って基礎の基礎からお勉強することにしましょう」
そう言って、アナスタシアさんは魔法について詳しく話を始めてくれた。
「まず、どの系統の魔法にも必要なものは2つ。魔力とイメージよ」
「え……? 2つだけですか?」
「ええ。突き詰めれば自分が起こしたいイメージとそれに必要な魔力。極論、この2つがあれば魔法は使えるようになる――つまり魔導スキルを習得する事ができるわ」
ただし、とアナスタシアさんは付け加える。
「ただし、あくまでも大雑把に言えばって話よ? イメージなんて口で言うのは簡単だけど鮮明なイメージには詳しい知識が必要だし、魔力――いわゆるMPも、それを上手に扱う技術があるの。
まずは基本四系統である、自然魔導、念魔導、錬魔導、聖魔導の基礎知識について教えるわね」
「あ、それはなんとなく知ってます。念魔導は生き物の身体に影響を及ぼす魔法、自然魔導は自然の力を操る魔法、聖魔導は神様の力を借りる魔法って感じですよね?」
以前リノが教えてくれた説明を端折って確認する。ちなみに生活魔導は戦闘に適した物が少なく、クエストで役に立つ事はあまりないので、今回の修行では扱わない。
「まあ、そんな感じね。錬魔導については?」
「錬魔導はよく知らないの。理を使うって聞いたことがあるんだけど……」
オレの代わりにリノが自信なさそうに答える。
「そうね~。アレは基本四系統の中でも、知識がなくてはイメージしにくいものだから……」
う~ん、と少しの間考え込むアナスタシアさん。やがて結論が出たのか、顔を上げる。
「とりあえず、今日は自然魔導を教える事にしましょう。他の魔法についてはまた今度ね」
また今度って……。なんかその言い方だと結構な期間、修行してくれるみたいな言い方だな。
オレの表情からそんな思いを読み取ったかのようにアナスタシアさんは苦笑する。
「あのね、魔法っていうのは修行したら今日明日で使えるようになるものじゃないのよ。というか、正味な話、一生かかっても習得できない人がほとんどなのよ。だからアタシも1ヶ月くらいは修行をみてあげるつもりだけど、その間に習得できないようなら見捨てるからそのつもりでね。1ヶ月でスキルを習得したら、弟子にしてあげるわ」
パチンとウィンクしてくるアナスタシアさん。
でも、リミットは1ヶ月か。冒険者の仕事だってしないといけないし、以外と短いな……。
「それじゃ、まずは自然魔導の基礎知識からね。自然魔導はさっき簡単に説明してくれたように自然に存在する力を借りる魔法の事よ。例えば……」
アナスタシアさんがそこで言葉を切って指先をクイッと振ると、オレ達の方にビュウっと風が吹いた。
「風の力を借りるとこんな事ができるわ。今のはほとんど魔力を込めなかったけどね」
アナスタシアさんのステータスを確認すると、言ってる通りMPがほんの少し減少していた。
ただ、それよりも気になる事がある。
「魔法って呪文の詠唱とか、魔方陣とか必要ないんですか?」
そういえばリノやリビーが魔法を使う時も詠唱とかしていなかったと思い出して聞いてみる。
「イメージを容易にするために詠唱をする場合もあるわね。アタシも大規模な魔法を使う時は大抵詠唱をするし」
「詠唱ってどんなものなんです?」
「術者のイメージを助けるためのものだから基本的になんでもいいのよ、こんな風にね」
『風は謳う、瀟々と。北風の戯れ』
「ッッ!!???」
アナスタシアが腰に差していた杖を抜いて、目を閉じ呪文を詠唱すると、突然強風がオレに襲い掛かってきて、悲鳴をあげる間もなく身体ごと10メートルほどの空中に舞い上げられた。
ちょっと中途半端ですが……。
スグル君はそのまま地面へと叩きつけられ、帰らぬ人となってしまうのか!?




