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第21話

 開店してすぐはやや混乱した場面もあった。

 特にリノとリビーが計算を全くできないので会計でのトラブルが目立ったが、オレが計算を買って出る事で、店はスムーズに回り始めた。

 

 マイカは厨房で調理担当。リノとリビーはホールを分担し、オレが会計を任される。代わりにセフィラさんが厨房とホールを行き来し、全体を支える。


「セフィラさん。ミックス1、レッド2あがりました!」

「了解マイカちゃん。リノちゃん、4番のお客様に持ってって! つまみ食いしちゃダメよ」

「ぶぅ、わかってるの。……お待たせしました、ミックスサンドとレッドベーコンサンドなの」

「ご主人様、3番卓のお客様のお会計をお願いいたします」

「はいよ、リビー。レッドベーコンが3つ、アップルティ3つでお会計60ゴルドになります」


 役割が明確化され、店内はいつも通りの賑やかさに包まれる。

 特にお昼時は戦場のような忙しさだ。


 ガリアン・サンドには多くの客が訪れ、その中にはスグルの見知った顔もいくつかあった。


「おや、スグル殿。ここで働くことになったのか?」

「いらっしゃいませ――ああ、キアラさん。お久しぶりです」


 いつかの軍の支部でお世話になったキアラさんが店にやってきた。今日は軍装ではなく、ラフな格好だ。う~ん、鎧着ているときはわかりにくかったけど、結構スタイルいいな。

 店に入って来るなり、オレの姿を見つけ驚くキアラさんに冒険者になった事や、依頼を受けている事を説明する。


「そうだったのか。スグル殿にはぜひ私と共に戦って……いや、どう生きるかは本人の自由だな。すまない、聞かなかった事にしてくれ」

「すいません、せっかく声をかけていただいたのに」

「気にしないでくれ。もし何かあったら力になろう」

「ありがとうございます。お礼に内緒でサービスしておきますね」

「いや、市民の方からそんな事をしてもらうわけには――」

「せめてもの気持ちです。どうか受け取ってください」


 キアラさんは嬉しいような困ったような難しい顔をしていたが、オレがセフィラさんに事情を話して半ば強引にサービスすると、最後には受け入れてくれた。


「ご馳走様。冒険者になったのなら、軍と関わる事もあるかもしれない。その時はまたよろしく頼む」

「ええ、こちらこそ。ありがとうございました」


 キアラさんが帰ってしばらくするとお昼のラッシュもひと段落し、交代で休憩に入る。


「ふぅ~、忙しかったなぁ」

「ご主人様、お茶をどうぞ」

「お、サンキュ」


 いっしょに休憩中のリビーがお茶を淹れてくれる。

 しばらくまったりとしていると、マイカとリノもやってきた。


「お疲れ様。とりあえずお店の方は私が見とくからお昼食べちゃって」


 店舗のほうからセフィラさんが顔を出す。その言葉に甘えて昼食にさせてもらうことにした。


「ご主人様は何になさいますか?」

「私はレッドベーコン!」

「リノには聞いていません」

「ハハ……。じゃぁオレもリノと同じで」

「わ~い。おそろいなの」

「私も同じものでお願いします」

「別にご主人様やリビーまであの子に合わせなくてもいいんですよ?」


 無邪気に喜ぶリノを見てため息をつくものの、それでもちゃんと作ってくれるあたりがマイカの優しいところだと思う。

 少し待っているとマイカが4人分の昼食を持ってきてくれた。


「お待たせしました」

「ありがとう。それじゃいただこうか」

「いただきますなの」


 全員が両手を合わせてから食べ始める。オレが前世の癖でやっていたのをみんなが真似するようになったのだ。


 

 お昼を食べた後は、まばらに客が来店するだけで、それほどの忙しさではなかった。やっぱりお昼時が一番忙しいみたいだ。そんな感じで一日目は終わった。契約は3日間なので、明日も同じ時間から仕事である。


「みんな今日はお疲れ様。すっごく助かったよ。報酬のほうもおまけしておくから明日もよろしくね」


 笑顔のセフィラさんに見送られ宿へと戻る。

 ふ~。ぶっちゃけ普通に戦闘するよりよっぽど疲れたよ。これで1日一人当たり300ゴルドは安すぎじゃないだろうか。


 その日は何もする気になれず、ベッドに入るなり眠りに落ちてしまった。




「ハァイ、坊や。久しぶり」

「アナスタシアさん? なんでここに?」

「なんでもなにも、ここは軽食屋でしょう? 食事に来たに決まってるわ」


 勤務最終日。

 昼のラッシュを終えもう少しで依頼達成というころ、アナスタシアさんがフラリと現れた。


「本音は?」

「あなたの連れてる女の子達のウェイトレス姿を見たかったから」

「…………」

「あん、もう。そんなに怒らないの」


 ていうかどこからオレ達がここで働いてるのを知ったんだ?


「カレンちゃんに聞いたのよ」


 をい! カレンさん! 冒険者のプライバシーを勝手に漏らすなよ。


「そんな事より、あなたにお知らせがあるのよ」

「お知らせ? なんです?」

「いい報せと悪い報せ、両方があるわ。どっちから聞きたい?」

「そーゆー映画のあるある台詞はいいですから」


 映画……? とアナスタシアさんは首を傾げたが、とくに気に留めることはなかった。


「もう、ノリ悪いわね。それじゃ悪い報せだけど、魔法薬の実験が失敗したの。1から全部やり直しになっちゃったわ」

「え~~っ!?」


 オレに代わっていつの間にか近くにいたリノが悲鳴を上げる。魔法薬って確か女の子の胸を大きくする豊胸薬だったよな。オッパい――じゃなくて失敗したのか。

 ん……? ということはいい報せってひょっとして……。


「そ、とりあえず根本的な見直しが必要だから魔法薬作りは一時中断。だからあなた達の魔法の修行を見てあげるわ」

「マジっすか! やった!」

「全然やった、じゃないの……」


 うな垂れてるリノには悪いが、魔法の修行を開始してもらえるのは朗報だ。リノは今夜ベッドで存分に慰めてあげよう。


「明日の朝、ギルドに迎えにいくわ」

「わかりました。楽しみしてます」

 

 その後アナスタシアさんはその細身の身体のどこに入るんだ、っていうくらいの量のサンドイッチを平らげ、満足そうに出て行った。

 ちなみに、出て行く際、セフィラさんがサインを貰っていた。

 やっぱりエクストラランクの冒険者って有名なんだ。

次回更新まで2~3日空きます。すいません。

いえ、決して魔法の細かい設定とか慌てて考えてるとかじゃないデスヨ。


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