第19話
アナスタシアさんの正体に言葉を失う。思い出したように万能鑑定を使ってみると――。
NAME :アナスタシア・ステアレス(37)
RACE :人族
JOB :冒険者Lv74
HP :800/800
MP :1500/1500
STR :56
VIT :40
INT :258
MND :179
AGI :97
SKILL:魔力回復力強化
自然魔導Lv5
念魔導Lv3
錬魔導Lv3
生活魔導Lv4
魔法薬精製Lv4
杖術Lv3
Lv高っ!
魔法も4種類覚えてるし、どれもスキルLvが高い。
JOB欄の冒険者はエクストラランクにならないと、就けないってカレンさんが前に言ってたし、アナスタシアさんのランクがアドバンスだっていうのは確かめられたけど……。
「つか、37歳ってまじかよ……」
とても35を過ぎてるとは思えない美貌に思わず呟いてしまったのだが、その小さな声をアナスタシアさんは聞き逃さなかった。すばやく間合いを詰めてくると、流れるようにオレの首にヘッドロックをきめてきた。そのままの態勢で耳元に口を寄せて小声で話しかけてくる。
「ちょっと、坊や! どこでその情報手に入れたのよ! カレンちゃんも知らないハズなのに」
「いや、その……。ていうか、この格好色々当たってまずいんでとりあえず離れてください!」
「いい事? それをどこかで口外してご覧なさい。そうしたら坊やのを握りつぶしてあげるわ」
何を!? 握りつぶすって何を!?
怖くて確認できないので、素直にコクコクと頷く。
「そう、いい子ね。それじゃ、また会いましょ」
アナスタシアさんはニッコリと微笑むと、そのままギルドから出て行った。リノ1人だけは熱心に手を振って見送っていたが、オレやカレンさんは思わずため息が口から漏れてしまった。
今日はもう帰ろう……。
帰り道、夕飯の材料を買い込み家に帰る。帰ると、マイカ達はそれぞれ分担を決めて家事をテキパキとこなしていく。オレは今後の予定を考えるか、手が空いていたらみんなの手伝いだ。基本的に食事の支度を手伝う。
マイカ達は最初オレが家事を手伝うのを遠慮していたのだが、ご主人様の命令で半分無理矢理手伝う事にした。
前世では家の手伝いなんかかったるくて、母親に頼まれてもほとんど無視してたけど、この世界ってとにかく暇なんだよな。テレビやパソコンなんかあるはずないし、せめて本でもあればいいんだが、あいにくうちには一冊もない。
印刷技術ができていないこの世界では本は基本的に人の手で写本して作られるので、お値段が結構張るのだ。今日の事で結構な収入が入ったから少しくらいは買おうかな。
「ご主人様。味見をお願いしてもよろしいですか?」
「ん? ああ」
野菜炒め用の野菜を細かく切っていると、マイカが鍋からスープをとった小皿を差し出してきた。
今日の食事当番はマイカである。当番は交代制だが、3人の中で唯一低Lvであるが料理スキルを持っているマイカの料理は一番おいしい。
「うん。美味いよ」
「よかったです」
オレの賛辞に嬉しそうに微笑むマイカ。
今日の夕飯はマイカの作ったスープにオレが作った野菜炒めとパン、デザートにピメの実だ。
前世では1人でコンビニ弁当を食べる生活だったからな……。それに比べると可愛い女子3人と囲む食卓は天国だ。何を食べてもおいしく感じる。
ただ、欲を言えばそろそろ米が食べたい。この世界の作物は地球で見た物と同じような物が多いからたぶん探せばあるとは思うんだけど……。
その後、身体を拭いて一日の汚れを落としてから、ベッドで散々マイカ達と楽しんで就寝した。
「ん? ここって……」
「久しぶりじゃの」
気がつくと、いつか見た真っ白い空間に自称神様の爺さんがこちらを見ていた。
「おい、まさかまたオレは死んだとかじゃねーよな」
「安心せよ。お主はまだ死んではおらんよ。その証拠に前と違って身体がないじゃろ」
「うわっ!?」
言われて視線を落としてみると、確かに身体が無い。いつも通り首を回そうとしたりすると、それに合わせて視線も動くが、如何せん身体が無いので妙な違和感がある。
「あまり気にせんでもええよ。ここに来たのは一時的なものじゃ。すぐにあの世界に戻れるからの」
「本当か……? それならまあいいけど」
「それでどうじゃ、あの世界は?」
こいつ、それを聞く為にわざわざ人が安眠しているところを呼び出しやがったのか。
ちょっとイラッときたので素っ気無く答える。
「別に。それなりに楽しんでるけど」
「それなりに、のう……。あんな可愛い娘を3人も侍らせておいて、それなりにか」
「テメェ!! 見てやがったのかよ!」
「いやいや、行為中はさすがに見てはおらんよ。今夜は大分楽しんでたみたいじゃが」
殺す! 神様だろうがなんだろうが、滅殺する!
「落ち着け。お主は今身体が無い、意識だけの存在なんじゃ」
言われて自分の現状を思い出す。クソッたれ……。
憮然とした思いを堪えて話を戻す。
「それで? なんでオレをわざわざここへ呼んだんだ?」
「うん? とりあえず感想を聞くためじゃよ。お主が世界の中で生活してみての感想をの」
「それだけのためかよ。…………さっき言った通りだよ。それなりに楽しんでる」
ため息をつきながら先程の言葉を繰り返すと、爺さんも今度は軽口を叩かずにフム、と楽しそうに頷くだけだった。
「それは何よりじゃ。そういってもらうとワシも創ったかいがあったというものじゃしのう」
「そうだ、ついでに聞きたい事があったんだ」
「聞きたいこと? なんじゃ?」
「オレはこの世界で何をすればいいんだ?」
「どういう意味じゃ?」
「だから、これはゲームなんだろ? だったら魔王や悪の帝国を倒すとか、世界を統一するとかそういう目的があるんじゃないのかってことだよ」
「なんじゃ、そんな事か」
そんな事ってなんだよ、そんな事って。ゲームする上で旅の目的って一番必要な物じゃねーのかよ。
「お主の好きなように生きればいいぞ。特に目的などはない。自由に生きみよ」
「自由にって……」
「まぁ、一応魔王はいるから倒しに行ってみるのもいいかものう」
この世界、魔王いんのかよ! ていうかそんなぶらり途中下車の旅気分で魔王退治とかいけるか!
「とにかくお主なりにこの世界を楽しんでくれればいい。ワシはその感想を待っておるからの」
「わかったよ」
「また何かあったら、こうして夢を通して教えよう。それまでさらばじゃ」
楽しそうに手を振る爺さんが映る視界が少しずつ暗くなっていく。
目を覚ますと、ベッドの上でオレはマイカ達に囲まれて朝日を浴びていた。
「んう? ご主人様、おはようなの」
右手を腕枕にしていたリノが目を覚ます。
リノの声を聞いて、残りの2人も目を覚ましたみたいだ。
「おはようございます、ご主人様」
「おはようございます」
マイカはすぐに凛とした表情で、リノは眠そうに目を擦りながら、リビーはいつもどおり淡々とした表情で起き上がる。
「おはよう、みんな」
挨拶を返しながら、さっきまで爺さんとしていた話を思い出す。
爺さんはオレの好きに生きればいいと言った。それならオレの生き方は決まってる。ずっとこの3人と一緒に生きる。それだけだ。
なんか打ち切りエンドっぽい終わりになっちゃった……。
でもまだ続きます。




