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第11話

「ん……」


 翌朝早く。

 やわらかな温もりの中で目を覚ます。すぐ横にはマイカとリノが気持ちよさそうに目を閉じていた。2人の寝顔を見ていると、昨夜の事を思い出してそのまま抱きつきそうになるが、寝ている2人を起こすのも悪いので我慢しよう。


「そういやスキルがいくつか増えていたっけ」


 小声で呟き、ステータスウィンドウを表示させる。新しいスキルは、3つか。

 『奴隷成長補正』:所有する奴隷の成長率が上昇する。

 『御恩と奉公』:所有する奴隷の忠義の高さに応じて、主人の持つ力を分け与える事ができる。

 『商談』:売買に関する交渉術。


 う~ん。奴隷成長補正と商談はなんとなくわかるけど、御恩と奉公っていうのはイマイチわかりにくいな。力って一体なんの事なんだろう。


 ひとまず、スキルを使う時みたいに頭の中で念じてみる。するとオレの持っているスキルの一覧が、メニューウィンドウのように浮かび上がった。スキル名の横には40とか75などの数字が書かれている。とりあえず50という数字が書かれた回避をタッチしてみると、今度はマイカとリノの名前が現れた。横には0/80と表示されていた。試しにマイカの名前を選ぶと、名前の下に回避Lv1と表示され横の数字が50/80に変化した。マイカのステータスをチェックしてみても、回避Lv1のスキルが加わっていた。


 なるほど、スキルの横に書かれているのはコストで、マイカ達の横に書かれているのは忠義というのを数値化したものなのだろう。そして忠義の数値の範囲でならスキルを譲渡できる、と。

 これかなり便利なスキルじゃね? 普通の人はスキルを入手するのに長い時間がかかるみたいだけど、オレにはラーニングのスキルがあるお陰で比較的簡単にスキルを習得することができるのだから。


 ちなみに、ステータスを確認してみたが、分け与えたスキルをオレが失くすわけではないようだ。それに分け与えたスキルを削除して別のスキルに変える事もできるらしい。ただ、メニューウィンドウやラーニング等、分け与える事ができないスキルも結構あるみたいだ。

 とりあえず2人には回避のスキルを付けておこう。Lv1だけど、戦闘で少しでも危険が減るようにね。

 お? 回避スキルを付けたら2人のAGIパラメータが微妙に上昇した。なるほど、JOBのLvを上げるだけでなくスキルを入手したりすることでもパラメータって上がるのか。そういやオレもミニゴブリンや盗賊と戦闘してスキルを入手したらパラメータ上がってたな。


 そうこうしていると、マイカとリノが目を覚ました。


「んぅ? くぁ~。おはようございまふ」

「ご主人様、おはようございます」

「ああ、おはよう」


 寝ぼけ眼で可愛らしく欠伸を漏らすリノと、目を覚ますなりキリッとした表情で挨拶してくるマイカに挨拶を返す。礼儀正しくしろとリノを叱るマイカを宥めながら、朝食を食べに食堂に向かった。


 食事を終え、朝一でチョピンさんの店に向かう事にした。現在の所持金は16万ゴルドほどだ。十分に彼女を買うことができる。


「いらっしゃいませ、スグル様。お待ちしておりました」


 店に入るとすぐにチョピンさんが蜥蜴人族の女性を連れて出迎えてくれた。そういえば昨日はステータスをチェックするのを忘れてたっけな。万能鑑定を使い、彼女のステータスを見てみた。



 NAME :オリヴィエラ(16)


 RACE :蜥蜴人族


 JOB  :村娘Lv6


 HP   :90/90

 MP   :30/30


 STR  :9

 VIT  :9

 INT  :14

 MND  :20

 AGI  :7


 SKILL:水中適応Lv2

       聖魔導Lv1

       槍術Lv0

       


 名前はオリヴィエラか。微妙に呼びにくいな。16歳と思ったよりも若い。聖魔道のスキルもちゃんとある。水中適応っていうのは読んだ通りの意味だろう。


「それではこの奴隷を10万ゴルドでよろしいでしょうか?」

「ええ」

「では、最後に契約を行ないますので、申し訳ありませんが昨日と同じように血を少しいただきます」


 昨日のようにまた1時間くらい待たなくてはいけないのかと思ったが、どうやら契約のほとんどを予め終わらせておいてくれたらしく、5分ほど待っただけだった。


「オリヴィエラと申します。私のような忌み嫌われた者を買ってくださり、ありがとうございました。ご恩に報いるためにも、誠心誠意お仕え致します」

「そんなに堅くならなくていいよ。オレはスグル。こっちはマイカとリノ。なんかわからない事があったらその都度聞いてくれ」

「承知しました」


 まだ打ち解けていないからか、素なのかわからないが、言葉が堅いオリヴィエラを加え4人で店を出る。今日は後で冒険者ギルドに行くとしてその前に行きたい所がある。


「とりあえず服を買おう」

「「「わかりました」」」


 今朝宿を出る時に親父から聞いていた店に向かう。教えられた場所にあったのは古着屋のような店だった。新品の店じゃないんだなとその時は思ったのだが、この世界の庶民は服を新しく仕立て上げる事は滅多に無いらしく、基本的に服を買うといったら古着だそうだ。日本人のように季節毎にホイホイ新しい服を買うのは貴族とか、上級の商人くらいのものらしい。


「それじゃ、自分の分を上下2着くらい選んできて」

「え……? 服を買うってご主人様の服を買うのでは?」

「いや、オレも買うよもちろん」

「ですが、私達にはこの服がありますけど」


 マイカが驚いた顔で確認してくる。他の2人も黙ったままだが、同様の表情だ。

 この服があるって、それしかないじゃん。その服も薄くて視覚的には非常にヤッホイな服だけど、1着じゃ困るでしょ。

 そう思ったのだが、オリヴィエラが補足して説明する。


「ご主人様、奴隷には服を1枚与えてくだされば充分でございますよ」

「でも1着だけって、洗濯とかどうすんの?」

「乾くまでは待ちます」


 イヤイヤ。君達のご主人はそこまで鬼畜じゃないよ?

 そりゃ、乾くまで全裸で待ってる様子をつぶさに観察したい気もするけどさ。そういうのはベッドで楽しもう。


「3人共せっかく綺麗なんだから、オレとしては着飾って欲しいの。これは命令です」

「ありがたいお言葉ですが――」

「オリヴィエラ。ご主人様は普通の主人と違ってとてもお優しい方なのです。言われた通り服を選びなさい」


 尚もオリヴィエラが何か言おうとしたが、マイカがそれを遮る。ウンウン、マイカはいい先輩だな。ちなみにもう1人の先輩であるリノは紅くなって「綺麗だなんてそんな~」とくねくねしていた。お前も少しはマイカを見習いなさい。


 全員分の服と下着を購入して、着替えるため宿屋に一端戻る。


「4人部屋はありますか?」

「……兄ちゃん。また女の奴隷を増やしたのか?」


 またってなんだよ、またって! と呆れた様子を見せる親父に突っ込みたかったが、曖昧に頷くだけにして誤魔化しておく。


「4人用のベッドはうちには無いぞ。ベッド2つになっちまうがいいのか?」


 いいのかも何も、3人の時だってオレは自分からあのベッドがいいなんて言ってねーよ!


「構いません」

「それじゃ、1人分を5日追加でもう200だ」

「ハイ」


 料金を払い部屋を移動する。荷物はほとんどないから楽だ。


「冒険者ギルドは街のどの辺にありますか?」

「なんだ、兄ちゃんは冒険者だったのか」

「いえ、これからなろうかと」

「ふ~ん。ギルドは大通りにある緑の屋根のデカい建物だ。正面にでかく看板が出てるからすぐにわかると思うぞ」


 親父に礼を言いながら宿屋を後にして大通りをしばらく歩くと、言われた通り緑の屋根の大きい建物が見えてきた。


 少し緊張しながら建物に入り、受付カウンターらしき場所にいる女性に話しかけてみた。


「すいません」

「こんにちは。サントラフォードの冒険者ギルドにようこそ」


 笑顔で挨拶してくれるお姉さん。結構美人だ。タメか1つ2つくらい年上だろうけど、翡翠のような緑の瞳に栗色のショートヘアが可愛らしさをアピールしている。

 ちょっと見蕩れそうになっていたら後ろで小さな咳払いが聞こえたので、慌てて挨拶を返す。


「こんにちは。冒険者の登録をしてもらいたいんですが?」

「はい、わかりました。登録はお一人様でよろしいですか?」

「いえ、後ろの3人も一緒に」

「かしこまりました。それではこちらの用紙に必要事項の記入をお願いします」


 受付のお姉さんから用紙を受け取り、3人にも配ろうとした所、


「すいません、ご主人様。私とリノは字を書くことができません」

「申し訳ありません。私も同じです」


 と、3人が困った表情で用紙を返してきたので、全員分をオレが書いて受付に渡す。


「承りました。少々お待ちください」


 お姉さんは用紙を持って奥に引っ込むと5分ほどで戻ってきた。


「こちらが皆様のギルドカードになります」


 差し出された黒っぽいカードには名前とランクFとだけ書かれている。


「ギルドカードは世界中の冒険者ギルドで共通の物です。これを持っていれば世界中のギルドで冒険者としてランクに応じた依頼を受ける事ができます。紛失等で再発行される場合、手数料の他にペナルティとしてランクが下がることがございますのでご注意ください」

「ランクっていうのは何ですか?」

「ランクとは冒険者のおおよその実力を表す指標です。モンスターを討伐したり、達成された依頼の数が増えればランクはFからE、D、C、B、Aと上がっていきます。また依頼にもランクが定められていて自分のランクを超える依頼は受ける事ができませんのでご注意ください」


 なるほど、依頼を達成したりモンスターを倒したりすればランクが上がり、さらに難しい依頼を受けられる、と。


「ランクはAが最高ですか?」

「いいえ。Aの上にSランクがあり、Sランクの状態で大きな功績を挙げるとエクストラランクの仲間入りを果たします」

「エクストラ?」

「ええ。エクストラランクには3つのランクがあり、下からアドバンス、レジェンド、ミソロジーとなっています。もっともエクストラの称号をもらえる冒険者なんてほとんどいませんが」


 現在の冒険者の中でエクストラの称号を持つのは世界で8人だけらしい。うち、アドバンスが6人にレジェンドが2人でミソロジーは1人もいないそうだ。付け加えるとエクストラランクになると、JOBが冒険者になれるらしい。Sランクまでは冒険者じゃないのね。ちなみにJOBは冒険者のように特定の条件を満たして、特定の神殿にいけば儀式で変えることができるらしい。中にはある日突然JOBが変わっていたなんて例もあるらしいが。

 つまりオレは当分の間、漂流者のままと…………。マジか……。


 ずっと落ち込んでいてもしょうがない。とりあえずはEランクを目指す事にしよう。


ようやく、ようやく冒険者に……。


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