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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

「あ」から始まり「ん」で終わる物語

『ある平和の答え』のリメイク版です

あなたは聞いたことがありますか?

誰よりも平和を望み、強くなろうとした男のものがたりを。

これはそんな、ありきたりで平凡で、でもちょっとだけ違う物語。

そんな、そんな、物語。



世界を平和にしたい

始まりの願いはそれでした。

けれど弱いものにこの世界は厳しく、変化を成すためには力が不可欠でした。

強さを求め、彼は長い長い旅に出ました。



旅の途中で、様々な人と出会いました。


通りすがった村で出会った村人は、重税に苦しみ娘を売りに出すところでした。


文句をいいに詰め寄った領主は、盗賊の被害が多すぎるからだと嘆きました。


街道沿いで捕えた盗賊の頭は、悪徳商人にすべてを奪われたのだと白状しました。


都で追いつめた商人たちは皆、そうしなければ自分が死んでしまうと口を揃えます。


誰かが悪い訳ではないのです。

みんながみんな、生きるためには仕方が無かったのです。


誰もが絶望しながら、世界は知らん顔で回っていました。





変えなくてはいけない。

無秩序な不幸は止むことの無い悲劇を生み出すだけなのです。

だからこそ、変えてしまわなければならない。


坂を下るボールのように、動き出してしまった悲劇。

それを止めるには力が足りません。


哀れな村人の代わりに、領主に嘆願することは出来ます。


哀れな領主のために、盗賊たちを退治ことは出来ます。


哀れな盗賊を連れて、悪商を追いかけるは出来ます。


哀れな商人たちに、新しい仕事を考えることも出来ました。


けれど、悲劇は終わりません。




もっと力があれば!

自分がもっと強ければ、

絶望を、後悔を、ありとあらゆる悲劇の源を、

変えてしまえる力が欲しい。


望みはいつしか、執念へと変質していた。




誰かを助けて、

力を望み。

誰かを救って、

力に憧れ。


感謝の声を聞きながら、

己の無力に、涙しました。







ある日ようやく、やがて一つの答えが見つかりました。

埃に塗れた虫食いの紙。

古の国の民の遺した暗号。

行き着いたのは、壁を越えた先、魔物の世界でした。



常識も法則も、理すらも違う魔物の世界。

力を求めて旅をしました。


たくさんの魔物と出会いました。

多くの魔物と話をしました。

あるときは助け、またあるときは助けられ。


誤解や不安もありました。

それでも心は通じます。

手と手を取り合い、背中を預け。

旅の仲間は増えていきました。

それでも願いは消えること無く、そこにあります。




毛むくじゃらは言いました。

君は命の恩人だ


森の中から声がします。

汝が道は我らとともに


蜥蜴の様な奴は誓います。

命の限り共に戦う


見上げる程の巨人は問いました。

我々は仲間であろう


美しい魔物は宣言します。

この命を貴方に捧げる


数多の異形は叫びます。

行こう!!君の望んだ世界のために







その日も世界はいつものように不幸でした。

何食わぬ顔で回っていた世界は、その声を耳にしました。


世界の壁を越え、伝承の彼方に消えた異形たちの雄叫びが鳴り響きました。

大きな国と国との百年続く戦争はパタリと止み、

国の穀潰しはようやく商人に仕事を渡し、

盗賊どもは雇われて戦う傭兵となり、

領主たちは農民を守る砦を築き、

家族の絆は固く結ばれた。


こうして世界は平和になった。


力を求めて異形になって、

魔王と呼ばれるようになってはじめて叶った、世界の平和。


ここで悲劇は花を付けない。

不幸の種が、後悔の芽を出すその前に。

魔王と魔物が刈り取っていってしまうのだから。


平和で平和な魔王の世界。






けれど誰もが悲しい顔をしています。

どんなに平和であったとて、魔王に与えられる平和など、誰も感謝しないのです。

皆口々に言いました。



あぁ。

あぁ、自由が欲しい

何をするにも魔物に見張られ、

好き勝手が出来ないのもうたくさんだ。



何とも醜い願いでした、

それでも願いは願いです。


世界は、そんな願いに応えました。

悲劇の中で何もしなかった世界は、勇者に奇跡を与えてしまいます。


絶望も中で何もしてこなかった英雄は、魔王の平和に牙を剥きます。

魔を滅ぼすため、奇跡を(かざ)して、殺しを重ねていきました。






平和を願って強くなった優しい魔王。

仲間の願いを叶えるために世界を超えた魔物達。

彼らは揺らぐこと無く、悪と断じられました。


魔王が命を救った毛むくじゃらは、

仲間を逃がして、逝きました。


魔王を導いた太古の森は、

正義の炎に燃え尽きました。


魔王が信じた蜥蜴の戦士は、

群れを人質にされて皆殺しになりました。


魔王と長く旅をした巨人は、

人の村を守って殺されました。


そして魔王の愛した魔物は、

散々犯され、壊されました。



ついに魔物は皆、物言わぬ骸と成り果てて、

勇者と魔王は対峙します。


誰もが望む自由のために

己の信じる平和のために


世界に与えられた力に賭けて

仲間と歩んだ願いのために


世界の与えた勇者の剣と

仲間と鍛えた魔王の爪。

両者はぶつかり、やがて勝敗は決します。




魔王は崩れ落ち、勇者は意気揚々と帰途に着きます。


民は皆、大喜びに喜びます。

世界の平和が死んだというのに、悲しむものは皆無でした。




勇者を祀る国は多いに栄え、絶大な権力を握ります。


為政者は国を通る商人達に莫大な税を掛けました。


商人達は人から富を巻き上げるようになっていきます。


何もかもを無くした人は盗賊の道を歩みます。


盗賊を恐れる辺境の領主は自分の館の警護に金をかけます。


課税に喘ぐ領民は自分の子さえ売りに出します。



こうして再び、魔王の止めた負の連鎖は回りだします。

























勇者は正義で、魔王は悪


民は守るべきもので、魔物は滅ぼすべき敵


自由は希望で、支配は絶望



よく覚えていてください。

忘れないで、いてください。

貴方の信じる常識は、モノの見方一つで容易く裏返るということを。





悲劇は、この世の常ならん。





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― 新着の感想 ―
[良い点]  鳥肌が立ちました……! 読み終わったとき、鳥肌が立ちました! ああ、すごく考えさせられます……。ああ、もうなんていったらいいでしょうか……。  とにかく私はこの話が好きです。大好きです…
2013/03/17 08:23 退会済み
管理
[一言] 今後書く自分の作品に参考していこうと思いました。 異形だから、人間より強いから、支配するから 敵、悪と決める。視点が違えば、考えも違う 自国を守るために戦場で多くの敵国の人間を屠った正義…
[良い点] 男の一徹に願い思い戦う姿が綺麗に浮かんできて、とても素敵だなぁと思いました。 [気になる点] 酷く自己中心的なお話だと私は思いました。 人間の不幸があたかも世界の悲劇かのように描かれていま…
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