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不思議な人。  作者: 薄桜
8/20

人の好みも考え方も十人十色って事だよね

8話目です。

・・・ではどうぞ


金曜の夕方、時刻は18時半過ぎ。

葵、和歌奈、私の3人は『Le sucurie』の前まで来た。

母からは「遅れる」という旨のメールをもらった。

ベルを鳴らして扉を開けると、

熱烈歓迎といった感じの、サンタ帽を被った文紘さんに迎えられた。

「美晴ちゃんいらしゃい、お客さん大歓迎だよ!」

結構似合っている。

「こんばんは、約束通り友達も連れてきましたよ。母は仕事終わったら来るそうです。」

「うん、俺もメールもらった。」

・・・母さん。いつの間に?

「ありがたいなぁ、さあお嬢様方どうぞ。」

ビシッとポーズを決めて言う。

「やっぱり執事カフェ狙ってんじゃないですか?」

思わず笑ってしまった。

「こういうのもなかなかって思わない?」

文紘さんはそう言い、悪戯っぽくウインクをした。


店内がいつもと違う。

アップライトのピアノがある。

艶やかな黒ではなく木目のもので、使い込まれた物に見える。

置くスペースを作るために、色々と移動させたらしく、

違う店に来てしまったかのような錯覚に陥る。

しかし、カウンターにはいつものようにマスターが居て、

そこが間違いでない事に安堵する。

多分、常連は皆こう思うはずだ。

そして、ピアノの前には髪の長い女性がいた。

楽譜を手に、文紘さんと話を始めた。

あの自然な雰囲気は、そうか・・・なるほど。

観察しながら空いた席に座ると、すぐに葵と妹が質問してきた。

「おねぇちゃん、あの人誰?」

「ねぇ、あの格好いい人誰? どういう関係?」

何だ、この反応は?

きらきらと、そしてニヤニヤとした目で私を見ている。

何か気に入らない。

「あの人は、この店のマスターのお孫さんで、押しかけ店員の北川文紘さん。

 関係は客と店員。以上。」

「えーそれだけ?」

不満気な声が上がる。

まったく、何を期待しているんだ。

期待しているような事は、何も無いっての。

「それだけ。」

きっぱりと言い放つ。

「・・・つまんなーい。」

つまらなくない。

何で頭の中がピンク色の発想しか出てこないんだ?

溜息が出る。

「あのね、今のところ私に色恋沙汰はないから、変な期待をするな。

 で、たぶん彼女はあの人。」

そう言ってピアノの女性を示す。

「当たり。」

水の入ったグラスをとおしぼりをトレイに乗せた文紘さんが、すぐ側で答える。

しっかり聞かれていたようだ。

「美晴ちゃんの観察力はすごいな。そんなに分かり易い?」

「さぁ? 何となく二人の雰囲気ですよ。何かすごく自然だったから。」

水をテーブルに置きながら、

「感服です。」

と笑った。

「さ、お嬢様方ご注文は何がよろしいですか?」


葵はカフェオレとチーズケーキ、和歌奈はカルピスとチョコレートケーキ。

そして私は、美晴スペシャルのミルクセーキとミルフィーユ。

このケーキは今日のイベント用の外注らしい。

余るともったいないから是非に・・・と薦められた。

「何かさ、美晴とミルクセーキが繋がらない気がするんだけど、

 こう思うの私だけかな?」

チーズケーキにフォークを入れた葵が、微妙な顔をした。

「そうかな? おねぇちゃん昔からこれだからわかんないや。」

ストローから口を離した妹が言う。

「これはもう、注文しなくても出てくるんだよ?」

笑って言いミルクセーキを口に運ぶと、葵が叫んだ。

「美晴、熱くないの!?」

「・・・ちょうどいい温度で出てくるの。」

驚き過ぎだ。

「あーなるほど特注なのね、納得。ところで美晴? どんなタイプなら良いの?」

何がところでだ?

ミルフィーユがフォークから皿に落ちた。

「・・・また蒸し返すのか?」

「だって、美晴の好きになりそうな人って想像つかないし。」

カフェオレに砂糖を追加し、興味津々の様子だ。

「私もおねぇちゃんの好み知りたい。」

妹まで嬉々として参戦してきた。

「和歌奈まで? そんなに気にする事なのか?」

不機嫌に言うが、二人は縦に首を振る。

「だって、妙な人がお義兄さんになったら私困るもん!」

それはお互い様だ。

大きく息を吸い込んで吐き、もう一度吸い込む。

「外見は悪いより良い方がいい、背も高い方が好ましい、

 頭の回転が速い人がいい。」

そこまで一気に言うと、二人は呆気に取られた顔をしていた。

「何だよ?」

「・・・意外と普通。」

「一般的な意見で驚いた。おねぇちゃんからそんなの出てくると思ってなかった。」

彼女達の中での、私という人物の認識を一度聞いてみたいと思った。

でもこれだけじゃない。

「で、これが一番大事。私の好奇心を刺激してくれる人。」

たぶんこれが無いと、好きになる事はない。

・・・と、思う。

「あー、それなら納得。」

葵の顔に笑顔が戻った。

「そっか納得はできたけど、私の心は晴れないんだね・・・。」

妹は、落ち込んだ。

「それなら、和歌奈はどうなんだ? 私も困る義弟は嫌だぞ。」

「私? んー私はねー、好きになってくれた人の中から一番良い人を選ぶの。」

とんでもない言葉が、その口から出てきた。

「はい?」

葵も耳を疑ったらしく聞き返している。

「もし誰も告白して来なかったらどうすんの?」

当然の事を聞いてみた。

「おねぇちゃん達失礼だね、私結構モテるんだよ?」

それは初耳だぞ。

「・・・そう、じゃあそれは置いといて、自分から好きになるとか無いの?」

「だ・か・ら、中から選ぶんじゃない。」

さも当然のように言う妹が、別の生き物に思えた。

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