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不思議な人。  作者: 薄桜
7/20

理想と現実と行動には理由がいるという事

7話目です。

・・・ではどうぞ

次の日、玄関の扉を開けると、甘い香りが流れてきた。

足元には、もちろん靴が二足ある。

荷物を置き、着替えてからリビングに行くと、笑顔の二人に迎えられた。

ダイニングテーブルには、少し不恰好な切り分けられたケーキと紅茶が、三人分セッティングされている。

アールグレイの香りが鼻孔をくすぐる。

「ケーキ出来たんだ。」

「ほら、おねぇちゃん座って座って。」

「どうぞこちらへ。」

急かされて席に着くと、早速食べ始める二人。

私が帰るまでおあずけだったのか。

その様子を想像すると、あまりにもおかしくて笑いそうになる。

ごてごてのクリームにフォークを入れ一口分すくう。

口に入れると、ぬるく甘くないクリームと大量のチョコスプレーが不思議な味を作り出している。

次にスポンジ部分にフォークを立てる。

こちらは少々甘めだが、まずまずの出来栄えだ。

前に座る二人は微妙な顔をしている。まったくもって面白い。


「美晴さん、ご相談があるんですがいいですか?」

ケーキを紅茶で流し込んだ理沙ちゃんが、やたら丁寧に言う。

「改まってどしたの?」

とても真剣な様子に、思わず身構える。

「うちのお兄ちゃんが情けなさ過ぎるんですが、どうにかなりませんか?」

それは、彼女が常日頃言っている事だった。

「どうにかって言われても、一般的によくできた方だと思うけどな。」

運動はまずまずだが、学業は優秀でなかなかの努力家。少々人が良過ぎな所があるが、

優しげで人当たりが良い。そして何より、金になる外見だ。この上何を求めると言うのか・・・。

「でも、気が弱いっていうか、押しが弱いっていうか、はっきりしなくて、

 もっとしっかりして欲しいんですよ。何か弱そうだし。」

長所もひっくり返せば短所。

求める方向が違うと、どうにもならないな・・・でも無いものねだりだと思う。

「えー聡太くんカッコイイと思うよ。でないと写真売れてないって、

 まぁ私のタイプじゃないんだけどさ。」

和歌奈、それ同感だけど全くフォローになってないから。

「理沙ちゃんの理想の兄像は、もっと強そうで、はっきり物を言って

 ・・・つまり、とっとと告白してしまえって感じね?」

「そうなんですよ、いつまでうじうじしてんだって話ですよ。」

言葉はきついが、これも兄を思う形だろう。

「外野は結果が分かってるのに、本人達がわかんないのはどうしてなんだろうね?」

「和歌ちゃん、そうなの。だから見ててイライラするの!!」

いくら外野が騒いでも、本人が頑張るしかない事もあるんだよ。

「きっと当事者だからだよ。自分がどう思われてるかってのと、

 どう思われたいかっていう間にいるから、客観的な見方ができないんだよ。」

まぁ過分に性格もある。動くやつは後先考えずに動く。例え結果がどうあろうともだ。

「聡太くんが頑張るまで、見守るでいいんじゃない?」

理沙ちゃんは不服そうだが、今は手を出す気が起きない。

紅茶に手を伸ばし、口に運ぶ。

・・・牛乳欲しかったな。


「葵、次の金曜日泊まりにこれる?」

文紘さんの集客作戦の日が近付き、教室を出てすぐ葵に声をかけた。

さすがに夜に出て来いというのは、親への体裁が悪いので、

うちに泊まってもらうという手段を使う。

「たぶん大丈夫だけど、何があるの?」

これまでに何度か使った手なので、彼女も何かを期待しているようだ。

連絡通路を通って、特別教室が集まる3号棟に向かう。

「母さんのなじみの喫茶店で生演奏するんだって、

 クリスマスコンサートって感じでさ。で、その呼び込み。」

「ふーん、何やるの?」

さて、そういえば教えてもらっていない。

しかし、予習させられたくらいなのだからクラシックだろう。

「音大生の演奏だって言ってたけど、多分クラシックやると思う。

 曲目とかは聞いてないけどさ。」

階段を下りて一階に向かう。

「んー、それ夜だよね?」

葵は念を押すように聞いてくる。

「うん、そうだけど。」

「じゃあ行く。」

そう簡潔に答えた。

そっか、夜出られたら何でもいいんだ。

笑い出しそうな気分で、理科室の扉をくぐった。

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