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不思議な人。  作者: 薄桜
6/20

努力の全てが報われるわけでは無い

6話目です。

・・・ではどうぞ

学校から帰ると。妹とは別の靴が揃えられていた。

おそらく理佐ちゃんの物だろう。

玄関脇の自分の部屋に入り、荷物を置いて着替えを済ます。

現像室に向かう途中にキッチンを覗くと、理佐ちゃんと妹は小麦粉にまみれていた。

「・・・いらっしゃい。」

「えへへ・・・お帰りなさい。」

気まずそうな笑みを貼りつけた、真っ白な二人。そして、作業台の上には、ボール、

計量器、電動の泡立て器、ケーキ型、口の開いた小麦粉の袋、マーガリン、

砂糖とそれに刺さった軽量スプーン、卵の殻に、牛乳パック。

「何でケーキなの?」

「おーっ!」

まったく仲がいいな、息がぴったりだ。

「何で分かるんですか?」

何故か目を輝かせながら、理沙ちゃんが聞いてきた。

「・・・いや、そこ見れば一目瞭然だと思う。」

「えーとね、クリスマス近いからケーキ作りの練習しようかって話になったの。」

妹が先程の問いに答えてくれた。

「今年のケーキは手作りなの?」

「んー別にそんなつもりは・・・」

「お店の方が美味しいと思うし・・・」

二人とも目を逸らし、それぞれ歯切れの悪い事を言っている。

まったく、一体何のための練習なんだか。

「じゃぁ私はどうした方が良い?

 1.手伝うっていうか私が作る。

 2.放っとくから自分達で頑張る。」

「『3.もうやめる』ってのは無いですか?」

おそらく面倒になった理沙ちゃんが、選択肢を増やす。

「じゃぁ、『4.自分達できれいに片付けて終わる。』でもいいよ。」

もう一つ選択肢を増やしてみた。

二人で協議した結果は、

「1でお願いします。」

そうですか、

「じゃぁ、ベランダで粉払っておいで、二人共真っ白だよ。」


二人を追い払いキッチンに入ると、そこは思ったより酷い事になっていた。

あーこれはもったいないな。

しかし、これはこれで仕方が無いと割り切る事にしよう。

彼女達も頑張ってたんだ。

・・・途中までは。

これがレシピか。印刷された紙に目を通し、書かれた手順から効率の良い方法を構築していく。

洗い物は少ない方が良い。

・・・といっても、今日は手遅れか。

途中まで行われたそれに、手を加えていく。

金網製のざるで小麦粉を振るっている所に、二人が戻ってきた。

「さすがおねぇちゃん、もうここまで。」

「美晴さん早い!」

いやいや、君達がベランダで遊んでいただけだよ。と、内心思うものの、

「慣れだよ。」

と答えた。

言いながらゴムベラで小麦粉をさっくりと混ぜ合わせ、

クッキングシートが貼りつけてある型に、混ぜ合わせたものを流し込む。

貼りつける作業は面倒だから、これがやってあるのはありがたい。

予熱しておいたオーブンに入れ、スタートボタンを押す。

オーブンっていうか、電子レンジのオーブン機能なんだけど。

後は25分後に呼ばれるのを待つだけだ。

さて、その間に片付けよう。

この間二人はカウンターの向こうからじっと見ていた。改めて気付くと非常に気になる。

「・・・洗い物くらいする?」

「はい・・・」

弱々しい返事が返ってきた。

表情がころころと変わるこの素直さがあまりにも微笑ましい。

洗う物をシンクに置いて、粉だらけの作業台を拭き、場を譲る。

「さぁ洗え。」

声を合図に二人がキッチンに駆け込む。

さて私は・・・晩御飯どうしようかな?

とりあえずソファに陣取りテレビを点ける。

特に目的は無いので、ローカルのニュースを選ぶ。

水族館に新しい仲間が増えただとか、街のイルミネーションだとか、豪華おせちの中身に、

デパートの中身丸見えの福袋、既にクリスマスを飛ばして、正月の話題だ。

おせちなんかより今晩のご飯の方が重要な問題だ。

キッチンでは楽しそうに洗っている。

甘い香りが漂いだしてからさらにテンションを上げている。

ぼんやりとテレビを見つめ、頭の中では冷蔵庫の中身を思い浮かべる。


ピーッピーッピーッ

何も決まらないうちにレンジに呼ばれた。

キッチンでは歓声が上がっている。

溜息と共に勢いをつけて立ち上がり、キッチンに向かう。

二人を避けて奥に入りレンジの扉を開けると、後ろから再び歓声が上がる。

まだ焼けてるかどうか分からないんだけどな。

ミトンを使って取り出し、箸立てにあった竹串を型の中で膨らむスポンジケーキに突き立てる。

引き抜くと何もついてはいない。

「うん、焼けてるみたい。」

三度目の歓声が上がった。元気だなこいつら。

「ところでこれからどうすんの? クリーム塗ったりとかすんの?」

二人は顔を見合わせ、首をかしげる。

「えーと、どうやったらおいしいかな?」

「クリームもいいけど、チョコもいいよね?」

ここまで勢いだったのか・・・。少し、いやかなり呆れて言葉を失いかける。

「どっちにしても、今日は無理。まだ熱いからどうにもできないし、クリームやチョコもないぞ。」

もちろん買いに行く時間も無い。

二人ともショックだったらしく、意気消沈ぶりが見事だ。

「明日材料買ってきて、続きやればいいじゃないか。」

「そっか、そうだね。」

「じゃぁ帰りにスーパー寄ろう。」

まったく、機嫌直るの早いな。


明日の予定が決まると、理沙ちゃんはパタパタと帰っていった。

さて、いつもより取りかかりが遅くなったが、ご飯はどうしよう?

結局何も決まってない。

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