少しは俺にも語らせろ
エピローグです。
・・・ではどうぞ
長葉堂で松花堂弁当を買って、桜の舞う土手に戻ってきた。
「じゃ、その辺でいいよな?」
芝生の斜面に並んで座る。
弁当は、花見に合わせて色とりどりで、
美味そうだとは思うんだが、人参は無理だな。
里芋も別にいらない、葉っぱの飾り切りが見事な南瓜も・・・
「よしあき・・・ひょっとして好き嫌い?」
気付かれた。
「好き嫌いせずに食べようよ、もったない。」
「別に食べなくても、困らないし・・・。」
「あ、椎茸も食べてない。」
「・・・。」
手にしていた弁当を美晴に取り上げられた。
お茶も蓋をして少し離れた場所に置かれる。
そして、人参を箸で突き刺すと、
「実力行使!」
と、飛び込んできた。
押し倒されて、乗っかられ、首根っこを掴まれ・・・
「口開けろー!」
「嫌だ。」
しばし攻防を繰り広げるが、どちらも引かない。
さすがにしつこいな・・・。
面倒になった俺は、箸を持つ腕を掴んで引っ張る。
美晴は転がり空を仰ぎ、俺は、その勢いで起き上がる。
「・・・形勢逆転。」
「なっ!」
組み敷かれた形の美晴の顔が、段々赤く染まっていく。
しばらく固まっていたが、不意に顔を逸らし、
「・・・何で、こんなに好き嫌いが多いくせに、でかいんだ?」
と、悪態をつく。
本当に、こいつは負けず嫌いだ。
「知るか、もっとでかいやつ他にいるだろ?」
相変わらずの態度に苦笑し、腕を引っ張って起こしてやる。
「どんだけあんの?」
「あ? 身長?」
「うん、」
まじまじとこちらを見ている。
皮肉でも、嫌味でもなく、・・・ただの好奇心の目だ。
「・・・たぶん、182。」
「ふーん、やっぱ越えてんだ。」
何か納得出来たらしい。
「じゃぁ、部活は? そんだけあると、誘われたでしょ?」
「高2まではバスケやってたな、そっからは勉強漬け。」
しんどかったけど、今思えば楽しかった部活。
しかし、それを途中で辞め、その時間は家庭教師がついての
勉強の時間に代わった。正直あまり良い思い出ではない。
「医者の道はどうすんの?」
・・・真剣な顔になってる。
「本当に、色々聞いてんだな・・・。」
人が寝てる間に勝手に動いていた姉を思い出し、溜息が出た。
「向こうが喋ったとも言うね、」
美晴も溜息を吐いてる。
「はははっ、何か分かる。」
退けられたお茶に手を伸ばす。
美晴も、弁当を手にする。
美晴にはっきりと言われ、そこしか相談する場所を思いつかなかった。
結果、手玉に取られた。
昔からの癖で、姉に頼った俺も俺って事だろうな、
「別に、医者になりたくないわけじゃないんだ。」
ペットボトルを傾け、お茶を流し込む。
聞き役に徹する気なのか、特に返事はない。
意識をこちらに向けたまま、箸を動かしている。
「・・・ただ、あまりにも母親が押し付けがましかったから、嫌だったというか、」
「へ? それだけ?」
どこか、がっかりした顔をしている。
「たぶん。」
そんな顔されても、その時は嫌だったんだ。
でも今なら笑い話にできる。
「よしあきも、天邪鬼だな。」
何が『も』なのかは、聞くまでもない。
「どっかの誰かを見てたら、人のためになる事するのも、悪くないなって、」
手を伸ばして、美晴の頭を撫でる。
「・・・そう、思うようになった。」
赤く染まる顔に、『止めろ』書いてあるような気がするが、止めてやらない。
「もともとは、父親の事尊敬してたんだ。子供の頃は父親みたいになりたかった
・・・ハズなんだがなー、途中で軌道を外れたけどさ、」
そう言って、転がった。
「脱線じゃなくて、ポイントが切り替わってたんだろ?
今度のポイントで戻れるみたいじゃないか。」
弁当を食べながら、さらりと言ってのける。
そんな台詞が自然に出てくる。面白いやつだ。
起き上がって、美晴を見る。
「たぶん、その路線にある駅で乗車するやつがいるんだよ。」
そう言うと意識して、不自然にこっちを見ない。
だから、こっちはじっと見てみてやった。
「あんまり見るな!」
「何で?」
「・・・何か、恥ずかしい。」
「だって、赤くなっててかわいい。」
「!?」
「はははははっ、」
あーおもしれー。
向こうからはガンガン寄って来るくせに、こっちから行くと、
途端に固まる。
「また弁当作って?」
「は?」
「美晴の飯好きだ。」
「・・・い、良いけど・・・。」
ほら、また照れた。
「あ、そうだ、」
何かがスイッチを押したらしく、息を吹き返した。
「作ったお弁当は? 嫌いな物どうしてたの?」
疑問にぶつかると途端に元気になる、
「あれは食った。」
「・・・本当に?」
疑惑の目をぶつけてくる。
「美晴が作ったものは平気。」
微笑んで返すと、また目が泳き始めた。
「だから、また作って。」
「・・・わかった。」
弁当を食べ終わって、ゴミを袋にまとめ、
一息つく。
上着のポケットから、一枚の紙を引っ張り出した。
「美晴、これ俺の携帯とメアド。」
そう、笑顔で渡した。
美晴は受け取ると、ざっと目を通して。
「あ、きれいな字・・・でも、誕生日と血液型足らないよ?」
そう言って、つき返してきた。
・・・さすが、美晴だ。
「茜さんから貰ってんでしょ?」
「ったく、全部お見通しだな。」
俺が美晴の、誕生日と血液型を知っている事は、想定内らしい。
別に教えてもらったわけではなく、勝手に登録されてたというのが本当の所だ。
苦笑しながら、ほらと、別の紙を出す。
「なんだ準備してあるんじゃないか、出し惜しみ?」
紙に目をやり、動きが止まる。
そこに書いた日付は、『4月9日』
美晴と、1日違いの誕生日。
「俺も驚いた。運命的だろ?」
「・・・何が?」
「365日もあるのに1日しか違わないって、何かすごくないか?」
「…芳彰、やっぱり性格変わった?」
照れ隠しなのか、訝しげに見てくる。
「迷いが晴れて、素になったかな?」
「はい?」
そして、ぼそりと呟く。
「後、落とす気満々…」
「何?」
「いや独り言。」
こんなに面白くて、つつき甲斐があって、俺に本気で突っかかって来て、
つまんなかった毎日を変えてくれるようなやつ、捕まえておかないでどうする?
「それより、明日俺の誕生日祝わない?」
「・・・私のは?」
声のトーンが低くなった。
「んー、この弁当?」
「・・・だったら。もっと高い物言えばよかった。」
しっかり聞こえる大きさで、ブツブツと文句を言う。
「何か欲しい物あるのか?」
そう言うと腕を組んで本気で考え始めた。
・・・が、
「・・・特に無い。」
「何だよそれ。」
結局思いつかなかったらしく、小声になっている。
あまりの欲の無さに笑ってしまった。
「・・・急に言われても思いつかないよ。」
笑われたのが悔しいのだろう、憮然としている。
「じゃぁ、明日は二人のお祝いにしよう。」
「・・・どこで?」
さあ、どこがいいかな?
「考えとく。」
最後まで読んで頂いて、ありがとうございます。
できれば今後とも、よろしくお願いいたします。
<後書きという名の一人反省会>
不思議な人は、美晴と芳彰と文紘、ついでに和歌奈にかかってます。
自分の恋愛には関心が無い人に、興味を抱かせ、
好きな人ができるとこまでを、じっくりと書いてみたかったので、
じっくり書いてみたら、こんなのになりました。
文紘は憩いの場として喫茶店欲しかったので、後で付け加えて練り直した結果
生まれたキャラなのですが、面白い人物になりました。
前半で出し切っちゃったので、後半出番が無くなりましたが…
つーか、そもそも人に悩み相談しない美晴が悪いんだ。(2部を含む愚痴)
彼女の美智留は、今後使えるようにと思ったのですが、今回キャラが掴めず。
理佐ちゃんもいまいち掴めてません。和歌奈とセット扱いなのが悪かったか、
和歌奈はちゃっかり、でもちょっと姉にコンプレックスって感じです。
茜はとにかく最強です。
母は2部で頑張ります。
Le sucrierはサブタイトルとお話の通り。そんなお店でありたいという感じのネーミング。
この話から、「求める者。」に繋がります。
番犬のお礼に、二人をくっつけるためにちょっかいを出すのです。