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不思議な人。  作者: 薄桜
2/20

彼の見ている世界はどんなものだろう

2話目です。

・・・ではどうぞ。


学校からの帰り道、(あおい)とよくある他愛の無い話をしながら歩いていた。

6時限まであったものの、二人ともクラブには所属していないので、

時間は早くまだ明るい。

「この間さ、聡太(そうた)が女の子と一緒にいたの見かけたんだけど、彼女出来たのかな?」

他愛の無い話とは恋愛話。

葵の無自覚なままの恋愛相談・・・というか、聡太くんの話ばかり聞かされている。

聡太くんというのは、葵の弟の同級生で仲が良い、よって葵とも幼馴染だ。

この二人は、どう見たってお互いを想い合っているとしか思えないのだが、

本人達には分からないらしく、どちらも全く動かない。

早くくっ付いてしまえ・・・と、周囲の者は皆そう思っている。

そういえば、今回の件はあれだ。携帯を開きメールを探す。

『理沙ちゃん』というフォルダに仕分けられている一件のメールを表示する。

石川朋花(いしかわともか)、聡太くんと同じクラスで、二学期のはじめに転校してきた子らしいよ。」

葵が呆れた顔をして私を見ている。

「いつもながら詳しいわね。」

別に、この理沙ちゃんという情報提供者に頼んで送ってもらったものではない。

「黙ってても、情報の方からやってくるのさ。」

「立派な諜報員がいるもんね。」

今、葵がどんな顔をしてそう言ったのかは分からない。

声の調子からすると呆れているのかもしれないが、私は別の人物を見ていた。

「その子は彼女じゃないよ。今の狙いは聡太くんじゃなくて、葵の弟くんだってさ。」

この間の邪魔だった男が第二公園にいた。

「・・・本当に詳しい事で、って(わたる)!?」

鉄棒の向こうの半分埋まったタイヤに座り、石碑の方を向いている。

こちらからは背中しか見えない。

あの石碑は地元出身の画家を称えたもので、亡くなってから建てられたと聞いた事がある。

その画家について詳しい事は知らないが、明治の生まれの日本画家らしい。

大きな岩を割り、磨いた切断面に一本の木と一遍の言葉、そして花押が刻み込まれている。

「美晴?」

石碑の上には数羽の小さな鳥、あの方向にある物はそのぐらいだ。

「みーはーるー?」

気になる。一体彼は何をしているんだろう?

「あの人ならこの間も見かけたよ。美晴そんなに気になるの?」

急に後ろから葵に抱きつかれ、ビクりとする。

「・・・びっくりするじゃないか、」

すぐ横の顔を見ると、楽しそうだ。

「だって、立ち止まっちゃうし、呼んでも気付かないんだもの。」

意識が完全に件の人物に行っていたようで、自分が立ち止まっている事にも気付かなかった。

「ねぇ、何でそんなにあの人見てたの?」

何故だろう?

「・・・気になるから? うん、そうだな。妙なやつで何かすごく気になる。」

何をしているのか分からないのが気になるんだ。

「うわ、美晴の好奇心出た。」

「うん、私のセンサーに引っかかる感じ?」

「その不適な笑み、ちょっと怖いよ?」

背中に張り付いたままだった葵は、そう言って離れた。


彼は、いつも何かをじっと見つめている。私はまだそれ以外の彼の姿を見ていない。

神社の下の池や、河川敷の岩、公園の木、港の側で海を眺めている事もあった。

ずっと同じものを見続けているのだろうか? 何のために見ているのだろうか?

何を考えているのだろうか?

その姿を見かける度に私は気になって気になってイライラする。

そのくせ、どこに行っても彼がいないかと目で探してしまう。

私の好奇心が満たされないのが原因なのだろう。

だから、答えを求めて声をかけてみた。

彼は、うちのマンションから程近い川土手にいた。

登下校時にいつも通る道で、等間隔に桜が植えてあり、春には見事に咲き誇る。

しかし今は、赤く染まる葉を少しだけ残した、どこかもの悲しい姿を晒している。

その一本に寄りかかり、どんよりと曇る空を眺めている彼の側で止まる。

「ねぇ、何見てんの?」

彼はこちらを一瞥し、再び空に視線を戻した。どうやら無視する気のようだ。

「無視しない。この間から、ずーっと何やってんのか気になって気になってしょうがないの。」

寒いはずなのに、握った手のひらに汗がにじむ。

「だから、何やってんのか教えてよ。」

じっと彼を見据える。

彼は目だけでこちらを見ると、溜息を一つ吐き

「空。」

と答えた。

「空なのは見れば分かる。そうやってずーっと見て、何が見たいの? 何考えてんの?」

年下だと思ってバカにするな、きっと今の私は彼を睨み付けていると思う。

もう一度溜息をついて答える。

「・・・目に見えるものと、目に見えないもの。」

それは禅問答か? そっちがやる気なら、とことん付き合ってやる。

妙な闘志が湧いてきた。

「目に見えないものって何?」

「さあ? まだ見えないからわからない。」

彼はこちらを見ようともしない。

「どれだけ見れば、見えるようになるの?」

「さあ、どのくらいだろうな? 俺も知りたい。」

そう言って薄く笑う。自嘲か、それとも少しはこちらに興味を示してくれたのか?

質問の種類を変えてみた。

「そんな格好で寒くないの?」

急に話題が換わり気が抜けたのか、片方の膝が抜け少し体がずり落ちた。

体勢を立て直して不機嫌な声で言う。

「寒い。冬は寒いのが当たり前だ。」

黒いTシャツの上に、茶系のチェックのネルシャツ。

先日よりマシではあるが、まだ見てる方が寒い格好だ。

寒いからこそ、暖かい格好をするものだと思う。

だから私はコートを着て、マフラーを巻いて、手はポケットの中だ。

まったく面白いやつだ。思わず頬が緩む。

訳分かんなくって最高に面白い。

新しい玩具を手に入れた子供のようにわくわくする。

目に見えて不機嫌な彼が見上げる空を、私も見上げてみる。

一面に雲が広がり、太陽は薄い光の輪郭を見せるだけだ。

彼の言う『目に見えないもの』とは何だろう?

この雲が晴れて青い空が見えれば、せめて雲の切れ目からその青が覗けば

何かが見えるのだろうか? 彼の目は空に向けられたままだ。

「私は大垣美晴(おおがきみはる)。覚えといて。」

そう言い残し、家に向かって走った。返事なんか期待してないから待たない。

家に帰れば色々とやる事がある、私は忙しいんだ。

今年の11月は暖かかったので、この文章悩みました。

「寒い」でいいのかと。

でも私は寒がりなので、そのままにしました。

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