刺激のある会話は楽しいけど結構疲れる
18話目です。
・・・ではどうぞ
二杯目のコーヒーを一口含み、茜さんが質問する。
「ねぇ、なんで芳彰に付きまとってたの? あー、この表現は芳彰だから。」
慌てて付け加える様子に、思わず笑ってしまった。
「そうですね。確かにぴったりな表現ですね、」
また一口チャイを飲む。
「いい男じゃないわよ?」
さすがこの姉、容赦ない。
「そうですね、・・・最初は邪魔だったんですよ。」
「邪魔?」
「はい、マンションの出入口のど真ん中に突っ立って、非常識極まりなくて。」
「あーそれは、邪魔ね。」
「ずーっと何か見てるんですよ。それが何してるのか分からなくって、
気になって気になって。・・・それが動機ですね。」
「・・・美晴ちゃん天邪鬼なタイプでしょ?」
ちょっと呆れ気味のようだ。
「自分でも、そう思ってます。」
きっぱりとそう返す。
「もー、おねぇさん、こういう子大好き~。」
抱きつかんばかりの勢いだったが、テーブルに隔てられているので、両手を取られブンブン振られた。
あの、ちょっと痛いです。
「あ、あと写真て何?」
そこも知ってるんだな。
「えーとですね、もともと彼が、私の絵を描いたんですよ。」
「えー、どんなの?」
「人物画じゃなくて、私のイメージらしいんですけど、城に咲いてる黄色い花で、
・・・なんか色々言い当てられて悔しかったんで、仕返しに写真取りまくってやったんです。」
「何で写真なの?」
「うちの母がカメラマンで、その影響で私もずっとやってて、私の表現方法だからって。」
「あぁ、そうだったわね、なるほど。」
納得がいった顔で、コーヒーを啜った。
やっぱりうちの事知ってるんだな。
「そっか・・・そういうの弱いのよね、」
「はい?」
「ううん、こっちの事。で?」
「えーと、観察したり、写真から見えてきた事を思いっきり言ってやったんですよ。」
「それが、言いたい事は言え・・・ね、」
「はい。」
「ふふっ、よく見てるんだ。」
「よく見るというか、色々考えました。」
「考える?」
「はい、なんか中途半端だったんですよ。で、反抗期っぽいなって、」
「あははははははっ、そうねこれからよね、本当。」
笑い声に他の客の注目を浴びる。時間が時間なので、さほど多くはないが。
「・・・茜さん、正直な人ですよね。」
「うん。仕事は正直なだけじゃやってらんないから、普段はこんな感じが良いのよ。」
「そうですか・・・そうですよね、弁護士ですもんね、」
仕事の内容までは分からないが、イメージは腹の探りあいだ。
裏表の無い人間には向かないだろうな、
茜さんは、コーヒーを飲み終えると、伝票を取って言った。
「ねぇ、また是非お話ししましょ?」
「・・・はい。」
そうして私達は、アドレスの交換をした。
一緒に帰ろうという茜さんの誘いを断り、一人でブラブラ歩いた。
自然と川土手に足が向く。
このまま帰っても、どうせ妹にあれこれ聞かれる。
今それに答える気力は無い。
とりあえず、何も考えずに桜を眺めたかった。
有意義な話だったとは思うが、茜さんのパワーに中てられて、
なんだか物凄く疲れた。
少しリフレッシュしよう。
そうしたら、ちゃんと動けるはずだ。
朝は冷え込んだが、10時も半ばを過ぎると随分と暖かい。
今日はとても良く晴れている。
芝生に寝転び、薄いピンクの小さな花の集まりを眺める。
水色の空との対比が、とてもきれいだ・・・
ポケットの中のデジカメで、今年の桜を取るのもいいかも知れない。
ぼんやりと、それを眺めていたはずだった。
「あ、起きた。」
あれ、寝てたのか?
声のした方を向くと、聡太くんが座っていた。
「美晴さん、無防備過ぎ。」
彼は少し呆れた笑いを浮かべているようだ。
「どしたの、聡太くん?」
「どしたのじゃなくて・・・こんなとこで昼寝してる方が、どしたのですよ?
だから理佐に番犬してろって、呼び出されたんですからね。」
番犬か・・・言い得て妙だな。
「そっか、それは悪かったね、ありがと。」
忠犬を思い浮かべて笑ってしまう。
「あ、いや別にいいんですけどね、それより、」
何故か彼は、赤い顔をしてそっぽを向いた。
「うん?」
「日向ぼっこはいいですけど、風邪ひきますよ?」
「そうだね、」
なんかまだ頭が回ってないや。
「そういえば、その理佐ちゃんは?」
「コンビニ行ってます。」
こっちを見ずにそう答える。
「ふーん、って、聡太くんの家から一番近いコンビには
ここを通らないと思うんだけど?」
「セブン限定のデザートが欲しいからって、川向こうまで行ってますよ。」
橋を指差して言う。
「そっか、」
なるほどと納得し、体を起こし背伸びをした。
「じゃ、私たちも行こうか? 迷惑かけたお詫びに何かおごるよ?」
「別にいいですよ。」
「まー遠慮しない、私も喉がカラカラだからさ。」
勢いをつけて立ち上がった。
「そういう事なら、遠慮なく。」
そう言って、彼も立ち上がる。
その時、ちらりと腕時計が覗いた。
「ところで、今何時?」
彼は、左手の時計を確認して、答えてくれた。
「えーと、12時57分。」
うわ、2時間近く寝てたのか・・・
春眠暁を覚えず?・・・いや、ちょっと違うな。
ぼんやりと考えながら、上流方向に歩き出す。
目的のコンビには高校の側で、この道は通学路でもある。
私服で学校に向かうような変な気分だ。
「大丈夫ですか? なんかフラフラしてません?」
「うん、そうだね。」
フラフラするのは自覚している。
「それに何か、いつもと感じが違いますよ?」
「そう? 何かまだ眠くてさ、寝起きはどうも調子が悪くて。」
首を動かすと、余計にフラフラした。
「・・・低血圧ですか?」
「さぁ、知らない。」
聡太くんと、理沙ちゃんに借りができたな。
「ねぇ、いつもとどう感じが違う?」
聡太くんの様子が変なので、聞いてみたくなった。
「んー、美晴さんっぽく無いんですよ。そんな顔で普通の返事が返ってきて、」
彼は困った顔で、引っかかる事を言う。
「そんな顔って何?」
「・・・目が、」
目?
「目が、変に色っぽいんですよ。」
「そうなの? 自分じゃわかんないや。」
だから顔が赤かったのか。
「ほら、もうその反応が違うし、僕の知ってる美晴さんは
そんな顔して笑いませんよ?」
「そうかもね、」
「・・・本当に大丈夫ですか?」
どう思われてるんだ?
「じゃぁ、珍しいものが見れたって事でいいんじゃない?」
「そうですね、」
聡太くんがやっと笑った。
「そうだ、前から聞いてみたかったんですけど、
僕の写真でいくら稼いでるんですか?」
「さぁ? 計算してないから知らない。でも毎回肖像権料くらいは
渡してるよ? 理沙ちゃんから貰ってない?」
彼の眉間に皺ができる。
「は? 貰ってませんよ。」
初めて聞いた事実に驚いているようだ。
「そっか、理沙ちゃんで止まってるんだね。」
言わなければ分からない。
まったく、ちゃっかりしている。
思わず笑ってしまったが、うちの妹も隠れて何かやっているんだろうか?
少し不安になった。