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不思議な人。  作者: 薄桜
17/20

いくつになっても姉弟は姉弟だ

17話目です。

・・・ではどうぞ

4月の初めでも、朝は寒い。

冷えた体を温めるためにチャイを頼む。

外に出るのにパーカーは、薄かったかもしれない。

朝食がまだだと言う茜さんは、モーニングセットを頼み、

そして、それが揃った頃に本題に入った。

「情けない弟を、叱ってくれてありがとうね、」

サラダを突付きながら、言われた。

「・・・はぁ、」

礼を言われるとは思ってなかった。

「上に兄が居て、私が居て、一番下で、年も少し離れてるから、」

うん、その話は以前どこかで聞いた事がある。

宮原の兄弟は出来がいいと、そう噂に聞いた。

「・・・私にとってはいいオモチャでね、」

「は?」

「ちっちゃい時は、後ろをずーっと付いて来てさ可愛かったのよ。」

「はぁ、」

「だから、可愛がり過ぎて、手を出し過ぎちゃったのね。」

ポタージュスープをスプーンでかき混ぜて、口に運ぶ。

「あー」

なるほど、過保護にしたのは、この人か。

「おかげで、自立どころか、反抗期も半端で、今に至る・・・って感じ?」

「・・・そうなんですか。」

パンをちぎりながら、ふふっと笑う。

「でも、美晴ちゃんに言われた事が効いたみたいで、足掻く気になったみたいよ。」

・・・そうだ、気になってたんだ。

この人はどこまで知っているんだろう?

ひょっとして全てだろうか?

「あの、何でそんなに知ってるんですか? その・・・話の事とか、名前とか?」

「あー、ごめんなさいね、昨夜酔わせて全部聞き出しちゃった。芳彰お酒弱いのよねー、」

オムレツをグサグサ刺しながら、さらりと言ってのける。

・・・強い。

これは、全部知ってると思った方がいいな、

「まぁ、もともと隠し事は得意じゃないっていうか、私には意味無いんだけど、」

「はぁ、」

そりゃ、敵わないだろう。

「芯の強そうな、かわいい娘で良かった。」

「はい?」

「こっちの話。…ところで、飲まないの? 冷めちゃうわよ?」

「冷ましてるんです、猫舌なんで、」

「そっかー、で、芳彰の話よね?」

とりあえず、言いたい事が終わったのか、こちらにバトンが回ってきた。

「はい、何でこんな近い場所で、一人暮らしなんかしてるんですか?」

「そうよねー、本当に近いのにねー。

 うちは病院やってるから、兄が内科医で、私は医者向きじゃないなって、

 自分で思ったから弁護士選んで。ほら、何かあっても大丈夫って感じ?

 芳彰も医者にする気満々だったのよ、母は。

 でも、本人は絵描きになりたいって喧嘩して、1年間の猶予を貰ったの。」

そう言ってコーヒーを口に運んだ。

確か以前『母の希望の大学に入った』と言っていた。

「医者にって事は、医大行ってたんですよね?

 えーと、1年って事は休学中って事ですか?」

「正解。」

「それで、結果を出せって言うんですか? 結構、無茶な話ですね、」

才能があれば可能かもしれないが、世の中そんな人間ばかりでは無い。

努力すれば必ず報われると言うわけでも無い。

だが多くの画家が、認められるまでに長い時間を要しているのも事実だ。

「そう、無茶な話。でも本人は諦めるか、続けるかの時間を稼げたのよね、

 母はそれで諦めるだろうって、高をくくってるの。」

そう言って、ベーコンを口に運ぶ。

・・・それは、少し腹が立つ話だな。

「家に居ると落ち着かないからって、うちが所有してるあのマンションに出たの。

 普段は人に貸してるんだけと、ちょうど空いてたのよね。」

「それは、確かに自立でも何でも無いですね、」

脱力感に襲われ、背もたれに身を預けた。

だから、広い部屋の一部だけ使うような生活をしているのか。

その部分は納得がいった。

「・・・そうなのよ、とりあえず逃げちゃったって感じよねー。」

情けなさそうな顔をして、コーヒーを啜った。

「これじゃ、お母さんの思う壷ですね。」

程よく冷めたチャイを手に取り、口に運びかけると、じっと見つめられていた。

「・・・そうだったんだけどね、思わぬファクターで先が分からなくなったのよ。」

「私・・・ですか?」

「うん。あ、コーヒーのお替り下さい。」

コーヒーサーバーを手に通りがかったウェイターを呼び止めた。

その様子を眺めながらようやく口にしたチャイは、予想より甘かった。

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