終わり良ければ全て良しってのは本当だと思う
12話目です。
・・・ではどうぞ
絵を見せてもらってから一週間が過ぎ、
ある決意を持って史稀の部屋の前にいた。
学校から帰ると、急いで着替え台所に立つ。
いつもより早いが、夕食の支度を始める。
米を1合多めに研いで、炊飯器に仕掛ける。
次に、鳥のもも肉を一口大に切り、塩コショウ、小瓶のハーブを三種類、酒、
醤油で味を付けて置く。
ほうれん草と油揚げを切って小鍋に放り込み、水を入れて火にかける。
大根と人参、蓮根を皮を剥いて切り、鍋に入れ、
砂糖、酒、みりん、醤油で味を付けて火にかける。後はしばらく煮ればいい。
煮立った小鍋にだしを入れ、味噌を溶けば味噌汁の完成。
味を付けたもも肉をフライパンで焼く。
途中からスライスしたエリンギを追加、仕上げに少しレモン汁を垂らせば完成。
炒めたそれらを皿に乗せ、フライパンは流しに置く。
そして四角いフライパンで卵焼きを作り、
炊けたご飯をおにぎりにして、海苔を巻く。
どうせ私は世話好きですよ。
だったら、とことん世話焼いてやろうじゃないか、
ろくなもの食ってなさそうなのが、気になるんだよ!
心の中で愚痴りながら、おにぎりといつもより多めに作ったおかずをタッパーに詰め込んだ。
深呼吸をして、気合を入れる。
そして、とてつもない勇気をもってチャイムを押した。
ピンポーン
返事は無い。
もう1度押す。
ピンポーン
やはり、返事は無い。
扉に耳を当ててみるが、物音はしない。
玄関の扉も開かない。
間違いなく、留守のようだ。
空振りだ。
膝から崩れ落ちそうな気分だ。
気合を入れていた分、ダメージも大きい。
溜息をついて、ペーパーバックの中の弁当を見下ろす。
これ、どうしようかな?
ここに置いて行く訳にもいかないし、また後で出直すべきだろうか?
しかし、このやり場の無い何かを抱えたまま、家に帰る気になれるか?
・・・いや、無理だ!
向きを変え、エレベーターに向かう。
ボタンを押し、肩にかけたカメラをかけ直した。
さあ、被写体を探そう。
空や、町並みの写真も良いけど、こんな時は彼に限る。
この時間なら、公園で張ってればいいだろう。
住宅地にある第一公園に向かった。
公園の入り口すぐの花壇の縁に座り、彼の到来を待つ。
今年受験の彼は、現在塾に通っていて、このくらいの時間に行くと聞いている。
ここはその通り道だ。
志望校は私の通う学校。
近いからとも言えるが、葵を追っかけての事だろう。
さあ、カメラを手にして、準備万端。
・・・ほら来た。
余分なのが2人いるが、彼だけを狙いピントを合わせる。
タイミングを計り、パシャパシャとシャッターを切る。
現像が楽しみだ。
いい出来ならば、また妹達に捌いてもらおう。
スッキリした帰り道。
日が傾き薄暗くなってしまったが、街灯のおかげで歩くには困らない。
全く便利な世の中だ。
マンションの来客用駐車場に、青いBMWが停まっていた。
高そうなやつだなと、見ていると。
ピッという音と共に黄色いランプが点滅した。リモコンで開錠したのだろう。
少し離れ、興味本位で持ち主を待つ。
門から出てきたのは、ダークグレーのスーツをピシッと着こなす、ショートボブの女性だった。
かなりの美人で、自信と誇りにあふれた、強そうな印象を受ける。
そして、その後ろに史稀が続く。
女性は車に乗り込むとエンジンをかけ、窓を開けて史稀に向かって投げキッスを飛ばした。
「じゃぁね、芳彰また来るわね。」
しかし史稀の反応は悪い。
「忙しいんなら、わざわざ来んな。」
ぶっきらぼうに返すも、笑顔の女性は一向に気にする様子もない。
「あなたに会うためなら、忙しさなんて何のその。」
「・・・早く帰れ。」
「もー、つれないんだから。」
「うるさい。」
「じゃぁね~」
女性の笑い声が、閉まる窓に消えていき、車が動いた。
車が角を曲がって見えなくなる頃、史記が呟いた。
「・・・ありがとな。」
まったく、素直じゃない男だな。
前回の仕返しに、あえて言ってやる。
背後に近付き、カメラを構える。
「よしあきく~ん、本人に聞こえるように言わないと意味無いよ~。」
彼の肩がビクッと震えた。
「・・・見てたのか?」
パシャ
こちらを向く瞬間を狙い、シャッターを切った。
きっといい表情を捉えたはずだ。
「眩しい・・・それは何の真似だ?」
眉根が寄り、不機嫌な表情を作る。
一方私の口は弧を描く。
「よしあきくんは、私をモデルにして絵を描いた。だから私はあんたの写真を撮る。」
「なんで?」
「これが私の表現方法だから。」
今の私は、自信満々な顔をしているはずだ。
嘘は言っていない。
さぁ、もう一押し。
「うちの母親カメラマンやってんの、だから私も小さい頃から写真やっててさ、
…だから、イーブンでしょ?」
彼は仕方が無いって、そう顔に出ている。
「・・・好きにしろ。」
「もちろん、好きにしますよ。」
よし、勝った!
「でもな・・・」
「何?」
「芳彰くんはやめてくれ・・・。」
『くん』の部分が強調されている。
私は、意地悪く笑って言った。
「じゃぁ、さっきの人が誰なのか、教えてくれたら止めてあげる。」
「・・・お前、いい性格してるよな。」
そう言って歩き出す。
「よく言われます。で、どうするの、よしあきくん?」
もちろんついて歩く。
「・・・姉だよ。」
エントランスに入ると、真っ直ぐ階段に向かう。
彼はいつもエレベーターを使わないのだろうか?
負けてられるかと、私も階段に向かった。