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第三章 「Intermezzo」

眞也が小高い丘の上にあるノクトレーン城に着いたのは、黄昏時であった。

ハリウッド映画に出てくるような高い塔が何棟も(そび)え立つ要塞を想像し胸を踊らせていた彼は、

目の前のそれに拍子抜けした。


水の張っていない一重の掘。

苔や蔦で覆われ、辛うじて石造りとわかる城壁。

精々三階建て程度の、のっぺりとした建物は城というよりは砦という表現が相応(ふさわ)しい。


跳ね橋には腕を軽く組んだフィオナが立っていた。

亜麻色の髪、

オレンジのワンピース、いや、彼女の存在全てを夕日が祝福しているような錯覚すら起こる。


しかし、

城壁に浮かぶ彼女の影は、

荒ぶる尻尾をより大胆に表現していた。


だからであろうか、二つの影はそれを隠そうと延びていった。


「どこをお散歩していたのかな~?」

優しい口調、でも笑ってない。

「ま、待ったぁ?」

「うんっ、とっても~」

そう言い、彼女はジャンの嘴を掴んだ。


(やば、嵐がくる。ジャンも言い訳すればいいのに。いや、どっちみちもう喋れないか)

そう思った眞也はフィオナに、村が襲われてたこと、敵を撃退したことを話した。


怒りのぶつけ先を失ったフィオナはまだ何か言いたそうであったが、

嘴を掴んでいた右手で亜麻色の髪を軽くかきあげた。

自分を落ち着かせるような、というよりは場を落ち着かせるような仕草だった。


「とりあえず、伯はさっき外出して、

戻るの時間かかりそうだから、先にご飯でも食べよっか」

と眞也達の同意を見ずに城の中に入っていく。

彼等は急いで彼女の後を追った。



とはいえ、夕食までもまだ少々時間があったので、

眞也は二人に軽く城を案内してもらった。

「眞也さ、泊まるとこないんでしょ? 伯が『自由に使っていい』って」

と案内された個室。

ベッドと燭台だけの殺風景な狭い部屋であったが、

寝泊まりすることなどまったく考えて無かった眞也には有難い申し出だった。



やがて大きな鐘の音が鳴り、三人は食堂へ向かった。

伯の部下は一同に介して食事を取る決まりらしく、中は雑騒で賑わっていた。


眞也達が座ったテーブルの右隣にはつぶらな瞳をしたミノタウルスが二人、左隣には猫族の亜人二人と人間一人と、様々な種族が見てとれる。

中には貴方何系ですか?ご趣味は何ですか?

と聞きたくなるような何かもいた。



眞也は食にありつけた喜びも取り敢えず措き、

お預けされていた質問を次々に投げ掛けた。


何故かフィオナの口振りが重かったので、ほとんどジャンが答えてくれることとなった。



旧レインホールド王国の『旧』の意味は、

王国は一年ほど前に王都をアマデウス帝国軍に占領され滅亡した、

ということであった。

前々から争ってきた帝国軍の侵略をよく防いでいたが、

国王の急逝後、唯一の血族の王女の下で、

亡国の途を辿った。


国王の死後、臣下諸侯は日和見的に傍観するものが増えたが、

中には積極的に帝国側に参戦するものも現れ、

戦力の被我の差は余りに大きかったそうだ。


ちなみに国王の死の直前に王女の姉君も亡くなっており、

二人とも急逝したので、謀殺されたとの噂が絶えないらしい。


「今日、村を襲った奴等いたじゃん。

彼奴(あいつ)等は真っ先に帝国に寝返りやがった」

「ということは、伯は王国側ってこと?」

「もちろんそうだ。

伯も俺達と同じ亜人で元々貴族じゃなかったんだ。

俺達が帝国軍の奴等を何度も追い返して、その功績で伯が爵位を得たんだ。

何気に亜人が爵位を貰うのって初めてで、お陰で俺達は堂々としてられたんだぜ。

つー訳で、恩があったから、王国に味方し続けたんだ。」

「じゃあ、王国なくなって今ヤバくない?」

「そうだな……。俺達も帝国に囚われた王女を救って、王国を復興させようって頑張ってはいるんだけどな……」


実際、伯と同じく帝国に従わない諸侯は力強く、時には懐柔で減ってるようであり、

状況はあまり芳しくないようだ。

(伯爵って聞いたから、華やかで上品な人とか城とか想像してたけど、

どっちかと言うとレジスタンスみたいな雰囲気だな。

僕を助けてくれたのも少しでも人手が欲しかったということか?

食事とか寝床とか善意で用意してくれるってのも甘い話だよなぁ、

常識的に考えて。

でも涼兄ならともかく、僕が戦力になれるかどうか解らんけど)


眞也がそう考えてると、

ジャンが村に残した兵士の一人が報告の為帰還したので、

「わりぃ、俺ちと抜けるわ」

と彼は席を立ち、眞也の二つ右隣のテーブルへ移ってしまった。


後に残された眞也とフィオナ。

(このあと伯に会うんだし、話を聞かずにあれこれ考えてもしょうがないか)

と眞也は目の前のやたら固い黒パンを片付けることにした。

ジャンが話す間、殆ど料理に手をつけていなかったフィオナは、

彼がいなくなると思い出したかのように眞也に話しかけ、料理を口にした。


「ジャンいいやつだよね」

「でもアイツはロリ……子供大好きだけど。

でもアイツからかうと直ぐキレるから、気を付けたほうが良いわよ」

(フィオナ、無理矢理ジャンの悪口言ってるような、なにより人のこと全然言えないんじゃ……)

「そうなんだ。ジャンめっちゃ強いし、気をつけるよ」

「うーん、まぁアイツも一騎討ちとかはそこそこ強いかな」

「じゃあ集団戦とかが苦手ってこと?」

「んー、というより持久力があんまりないの。

なのになぜか全力で飛ばすから、すぐ息切れするというか……」

「今日十人くらいあっと言う間に倒してたんだけど……すぐってどれくらい?」

「そうねぇ、頑張って三分くらいかなぁ」

「三分!」

(三分かぁ……おいしいというか、狙いすぎというか)

「うん、その後は抜け殻みたいになってるよ」

フィオナは抜け殻な彼を思い浮かべたようで笑いだした。




隣のミノタウルスの会話が聞こえてくる。

「お前んとこ、居候がまた増えたんだって?」

「そうそう、廊下で寝出す奴までいるんだぜ。参るって」




その後、食堂にモォ~という可哀想な鳴き声が響き渡った。

時間の概念は現代の地球の概念と同じだとご了承下さいませ。


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