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第二章 「Sky High」

「うわぁ、すっげー!」

生まれて初めて空を翔んだ眞也は、心までも舞い上がっていた。


終わりがない見渡す限りの大パノラマ。

見下ろすと視界の大半を占める緑はあまりに鮮やかで、木々の息吹が感じられるようだ。

風はどこまでも清々しく、浴びせたものを爽やかな気持ちで満たす。

元の世界の風と同じものとは到底思えないほど、意思が感じられる。


時折、雄大な(わし)とすれ違い、駒鳥の群と交わる。

躍動した生命(いのち)は、地から見る彼等の姿は仮初(かりそめ)に過ぎないと物語っていた。



ジャンの温かい背中の上で眞也はただただ感動していた。

翼を初めて見た時の驚愕は、羨望へと変貌していった。


ジャンはのんびり空を翔ぶ。

(ジャンは会ったばかりの僕に、この景色を存分に楽しませてくれてるのかな?

だからフィオナもジャンに僕を乗せるようにしてくれたかも。

二人とも見た目ちょっと普通とは言い難いけど、優しいんだな)

眞也は自分の住む世界とは違う世界を、

出会ったばかりの二人を、

もっともっと知りたいと思った。



眞也の嬉々とした思いが伝わったのだろうか。

「ちょっと遠回りしようか」

(おもむろ)に、今まで左側に見えていた太陽の方に向かった。


やがて、緑を分断する青いラインが現れた。

近づくにつれ、水鳥が増えていく。

「クラリス河と言ってな。

旧レインホールド王国とアルスティーン公国の境界になってるんだ」

そう言うとジャンはゆっくりと下降を始め、

大木と同じ位の高さ迄、近づいた。


クラリス河は、少なくとも幅五十メートルはありそうな大河であった。

水は透き通り、穏やかな流れはさらさらと静かに奏でる。

流れに沿って泳ぐ無数の魚の影も見て取れた。

自然が在るがままに残っている、そう感じさせた。



そのまま河の流れに逆流していると、

右手―旧レインホールド王国側で煙が上がっていることに眞也は気付いた。

今まで空から楽しんだ風景とは決して相容れてはならないような、灰色の柱。


「ジャン、あの煙は何?」

ジャンは何か心当たりが有ったのだろうか、急に顔を険しくさせる。

「しっかり掴まってろよ」

とだけ言い、突き刺す風で痛みを感じるほど加速して、柱に向かった。





その頃、村では、鎧兜を纏った十人ほどの屈強な男達が暴虐の限りを尽くしていた。


家は焼かれ、僅かな家財は全て略奪された。

村人達は殆んどの者が捕まり、錆びて赤黒くなった鉄格子の檻に囚われた。


「へっへっへ。あらかた奪っちまったな。あとは孤児院だけだぜ」

「子供は高く売れるからな。絶対殺すなよ」

「しかし、しけた村だ。若い女がいないとこっちは楽しめないってのによぉ」

「なんでも孤児院には世話係の若い女がいるそうだ。羊の亜人らしいがな」

「羊? 俺は別に羊でもいいぜ、ぶちこめればなぁ。ははははは」


「お、またガキを捕まえてきたか」

仲間の一人が、幼い娘に後ろから剣を突き付け、檻へ歩かせていた。

少女は放心し、足取りは辿々(たどたど)しい。

男は怒気を含んだ声で「早く歩け!」と少女の腕を剣でつついた。

少女の肌には紅い線が走る。



その時であった。

空を切ってジャンが現れ、真横から男を蹴り飛ばした。

男は重い鎖帷子と兜を纏っていたとは思えないほど吹っ飛び、家の壁に叩きつけられ崩れ落ちた。

重い金属音が辺りに響きわたる。


ジャンは必死に背中にしがみついていた眞也を

「この()を頼む」と降ろした。

眞也はジャンの真剣な眼差しに気圧され、頷くのがやっとであった。



「き、き貴様はジャン・グリエール!」

男達の大将らしき、唯一馬に跨がっていた男が叫んだ。


「……お前には見覚えあるぞ。

アマデウス帝国に尻尾を振ったアブァロン子爵の側近だな。

奴隷商人の真似事をする程、落ちぶれたか。

……覚悟は出来てるんだろうな?」

ジャンは再び羽ばたき、ゆっくりと浮かび上がった。

風が彼を基に円状に幾重にも拡がる。


「だ、黙れ黙れっ。

敵は鎧も剣も帯びておらぬ。

皆で一斉にかかれっ!」

「うおおおぉぉ」

側近の声を合図に部下達は剣を振り上げ、盾を構えながらジャンに突進した。


やがてジャンを捉え、先頭の男達が剣を降り降ろした刹那。

ジャンは消え、集団の横から急襲した。

ジャンが蹴った男は隣の男達を巻き込みながら吹っ飛ぶ。

一蹴りで半数近い男が動けなくなった。


ジャンはそのまま空を飛び残った男達に襲い掛かった。

男達は半狂乱になって剣を振るうが、全て虚しく空を斬った。

剣を避けるジャンは舞のように優雅であり、

旋回する度に一人、また一人と男達は減っていった。


眞也はジャンの流れるような美しい動きに目を奪われていた。

その時、恐怖の余り我を失った最後の男が眞也達を襲おうと剣を振り(かざ)した。

咄嗟に少女を庇って抱き、しゃがみこむ眞也。

やられる、―そう悟ったが剣は落ちてはこなかった。



部下達が瞬く間に倒され、慌てて逃げようとする側近。

しかしジャンはそれを遮ぎり立ちはだかった。

驚いた馬は(いなな)き、

主人を振り落とした。


「もう一度聞くが、覚悟は出来たか?」

何も答えられず、震える側近をやがてジャンは蹴飛ばした。



あらかた終わり、ジャンは口笛を吹く仕草をした。

眞也は一瞬耳が痛くなったが、

それはすぐ止んだ。なんだったんだろ、と思う間もなく、眞也が庇っていた少女がジャンに向かって走り出した。


顔が涙で濡れている彼女は、勢いよくジャンに抱きついた。

「じゃ…ん、こわ、こわかったの」

ジャンはそっと少女を抱きしめる。

さきほどまでの険しい表情が消え、とても穏やかな表情だった。

彼の翼は少女の嗚咽を優しく包みこんでいた。



やがて孤児院の扉が開き、子供達は一斉にジャンの元へ駆け寄っていった。

二十人ほどを数える孤児達には、しっぽやつのを持つ子供もちらほらいる。


育て親と(おぼ)しき、柔らかい綿のような毛が体を包んだ美しい女性が子供達の後ろから現れ、鉄格子の(かんぬき)を開け村人達を解放した。


そして眞也も手伝い、歓喜する村人達と燃え残る火を消しとめた。


村に安堵が(ようや)く訪れたのであった。



子供達はジャンの周りを取り巻き、

「マリーばっか、ずるーい」

(はや)したてていた。羽に包まれ泣いていた少女は

「えへへ」

と涙は止まったが、

林檎のように紅い頬を未だ濡らしたまま、可愛いらしい笑みを浮かべていた。


その後、子供達から散々抱きつかれたジャンの下へ、三名の鳥族兵士が降り立った。

先程の口笛は彼等を呼んだのだろうか。

「ジャン様、遅くなり申し訳ありません」

壊された村の惨状に畏まる。

「気にするな。それよりその辺で寝てる男達をアブァロンに引き渡して、

慰謝料をたっぷり請求しておけ。

その金を村の復旧資金に充てるように」

「はっ」

「俺はこれから伯にお会いしなければならないから行くが、お前等は残って村人達を手伝え」

御意、と兵士は命に従った。



ジャンはなかなか離れたがらない子供達を

「また明日来るから」

とようやく引き離して、

二人は村を後にした。



ジャンの頭には子供達から貰った花の冠がある。

赤青黄、色とりどりの花が黒い頭の上で咲き誇る。


「ねぇ、ジャン。その冠とっても似合っているよ」

「……うっせ」



今まで見たどんなアクセサリーより綺麗だと、眞也は思った。


この話ではいろいろと固有名詞を登場させました。

今後に必要だから出したものもありますが

村名のように省きたかったが、かえってわかりづらいかなと思い出したものもあります。


でわ、ご覧頂きありがとうございました_(._.)_

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