眞也編 プロローグ
この物語は筆者の処女作です。
もしも頂けるのであれば、
厳しいご意見ほど歓迎致します。
不定期更新ですが完結目指していきたいです。
宜しくお願いします。
※手直し等無断で行う場合があります。ご了承下さい。
勿論、物語に重大な影響を与える改変の場合は、前書きに明記致します。
古ぼけたペンチに少年が座っていた。
明かりが遠い所為で背景に溶け込んでしまったかにみえる。
彼は組んでいた指をゆっくりほどくと、ふと空を見上げた。
一寸前迄まだ見えなかったベガが目に飛び込んでくる。
一際耀く星を暫く眺めるとふぅと息を洩らし、俯きまた指を組み直した。
遠くから丸い光が射し込み、釣られて遮断機が乾いた音を鳴らした。
光は膨らみながら、焦らすかのようにゆらゆらと近づき、
軋みながら彼を僅かに追い越して止まった。
二両編成の先頭の扉から青年がゆっくりと現れると、急くかのように光は遠ざかり、再び闇が訪れた。
「涼兄、お帰りなさい」少年はペンチから離れ青年に向かって歩いていく。
「ただいま。わざわざ学校帰りに迎えに来なくて良かったんだぞ」
涼兄と呼ばれた青年は答えた。もしも昼間なら、優しい微笑みが見えただろう。
「母さんが、『お兄ちゃんは東京から帰ってくるんだし、半年ぶりだから荷物持ってあげなさい』って五月蝿いんだよ」
五回も同じことを言われたら、うんざりするのも当然かも知れない。
青年が右手に持っていたボストンバックをさっと奪うと少年は並んで歩き出した。
「元気だったか? 眞也」
うん―少しだけ間を空け、
「でも涼兄帰ってきたら賑やかにやるね」
夜が幸いしたであろう。
少年、眞也の表情を闇が隠した。
「会いたかったよ。久しぶりに」
青年は肩に背負った細長いバッグを握り直した。
辺りには梟と蛙の協奏曲が木霊していた。
若干十九歳で既に古武道の師範格で将来を担う若手と称され、両立しながら最高学府と呼ばれる大学に入学、おまけに名前の如く切れ長な涼しい目の美青年という涼一。
そんな兄の後に生まれてきたばっかりに、理想と比べられ減点法で評価される責務を嫌が応にも負わされた眞也。
彼は決して愚鈍ではなかった。
容姿、勉学、運動神経、その他殆んどの能力で中の上から上の下といった位置には到達出来てはいた。
だが、
だが――
それでは周りから認めて貰えない。やんわりと巧妙に否定されるという現実を常に突き付けられた。
期末試験で必死に勉強し学年三番に入った時の両親のあまりに薄い反応は辛かったであろう。その記憶は度々、彼を襲った。
クラスの女子は決まって兄のことを聞きたがった。うんざりして異性から自然に避けるようになった。
何時しか興味を覚えた書籍、特に歴史小説が提示する雄大な世界観に惹かれ、図書館に入り浸るようになった。
換わりに兄に倣うかのように通った道場からは遠退いた。
両親からも、武道師範からも強い引き留めはなかった。
たった一人、兄を除いては。
五ヶ月前、涼一と離れて暮らすようになってから、劣等感からの解放という平穏と果てしなく巨大な壁が姿を消した寂寥が押し寄せた。
等価な感情なんて存在するのだろうか。
軽い無気力状態に陥った彼はリハビリを終え、人並みな恋もする多感な高校二年生として日常を送るようになった。
東京の話、最近の夫婦喧嘩のきっかけ、眞也の身長が伸びたこと、
など取り留めのない話をする内に、二人は並んで歩くには狭い小路に差し掛かった。
眞也は後ろから付いて行く。
路の両側には樹木が犇めき、夏とは思えないほどひんやりした風が二人を出迎えた。
兄の背中を追っていた頃の記憶が嫌でも思い出され、眞也は口をつむんだ。
ひょっとしたら涼一も同じ思いが頭を過ったかもしれない。
沈黙が二人を支配した。
いつの間にかBGMも止んでおり、耳に痛いほどの静寂が二人を包む。
思いに耽っていた眞也がふと我に帰ると、
足元を純白の霧が流れていた。
はっと顔を上げると、今まで在った兄の背が見えず、足元だけだと思った霧が辺り一面を覆っていることに驚愕し、思わず声を絞り上げて叫んだ。
「涼兄! どこにいるの? 涼兄!」
霧は包帯のように彼を巻き、優しく隠そうとするかのようだった。
彼は冷や汗が頬を伝うのを感じた。
「大丈夫か眞也? 何処だ?」
予想以上に小さな小さな声が返ってきた。
――しかし、
もはや眞也はその呼び掛けに応えることは出来なかった。
身体は重く、意識は遠くなり、
ゆっくりと倒れた。
彼は更に奥底に誘おうとする地の意外な柔らかさと暖かさにかすかに驚き、
そして意識を閉じた。
天にはベガが目映く輝いていた。
この話は最強モノでもハーレムモノでもありません
需要少ないでしょうが
(ノ_<。)