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異種族でもラブコメはできますか?  作者: 藍家アオ


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4/2 Splash!その3

 猿田先輩は、もはや決定事項かのように俺の背を押しながら歩いた。その力は強い。中学の時から変わらない。にっこりと笑って、人を引っ張り巻き込む力がある。


 ところで、他の人からの視線がすごい。なんだこいつ、という感じだ。そりゃそうだろう。見たところ、僕と同じ中学の先輩は猿田先輩以外にはいない。


「五人でやってんだけどさあ、奇数だからちょい難しくてよ。まあ、二人分くらい強いやついるけど……」


「ゴウ、知り合いか?」


 一歩前に出てきたのは、長身の男だった。癖っ毛の茶髪で、なんとなく優しそうな眼をしている。この人達は先輩の友人だろうか。


「おう。ちょうどいいし紹介しとくか。こいつ、俺の後輩の三日月昂輝。おんなじ中学でバスケやってた。ポジションは……なんか、いろんなとこたらい回しにされてたよな?三年の時どこやってた?」


「ガードっす」


「ああ、いいじゃん。俺らの時も、お前にガードやらせたかったわーまじで。あ、こいつら俺の同級生。全員バスケ部な」


 俺の背中を片手で押し続けて四人の元まで導いた猿田先輩は、それぞれの顔を見回して、それから一番手前に来ていた茶髪の男性を指さして言った。


「ユウ、チーム分けしてくれ。さっきのバカが決めたやつは、バランス悪すぎだ」


「はは、まあ確かにそうだったね。じゃあ……身長的に僕とコタは別れるとして……ゴウ。昂輝君は、どれぐらいやるのかな?」


「ん?そんな上手くない」


「ちょっと!先輩?」


 まあ別に自分がバスケ上手だとは思ってませんけどね?足が速いわけでも、ドリブルとかシュートが上手いというわけでもないけど、もうちょっと言い方があるというか。そう、発展途上。発展途上と表現してほしいです。


「あはは。じゃあ、りーと昂輝君分けようか。で、ゴウとつむが別、と。よし、じゃあ組み合わせは……」


「ゴウと後輩君は一緒のチームがいいんじゃない?知ってる人がいる方が良いでしょ?」


「りー、お前……つむと組みたいだけだろ」


「あは、ばれた?」


 卑怯な奴だと非難されているのは、栗毛色の髪をした女性だ。この中では一番背が低い。おそらく、俺と分けられた人だろう。りーと呼ばれていたその人は、隣の黒髪の女性に抱き着いた。黒髪の人は、表情を変えずこくりと首を傾げた。


「じゃあ、コタこっち来い」


「えー、俺もつむのチームが良いんだけど」


「なぁにぃ!?いーや、お前も道連れだ!どうやっても俺はつむの敵側だしな!」


 俺と猿田先輩の方に、コタと呼ばれた黒髪でポニーテールの男の先輩が歩いてきた。残った茶髪の先輩が、女子二人の方へ。三人のチームが二つ出来上がった。向かい合って並び立つ。


「どうする?十分くらいやるか?それとも三十点とった方の勝ちにする?」


「点数で良いんじゃない?ちゃんとカウントしようね」


「毎回なあなあになるからな。ちゃんとやるために、ジュースでも賭けるか?負けた方のおごりってことで」


「おっ、いいじゃん。やる気出たわ」


 ポニーテールの先輩は、指をぽきぽきと鳴らした。この人も、茶髪の先輩と同じくらい背が高い。俺と猿田先輩は180cmない程度と、バスケをやるには少し背が低い。つむと呼ばれたあの黒髪の人は背が高めだ。170cm近くはありそうだ。


「せっかくだしオールコートでやるか。あー、作戦会議したいな」


「ええ?じゃ、五分ね」


「よし。昂輝、あっち行くぞ!」


 猿田先輩は、ここから見て右のハーフコートに走っていった。その後をポニテの先輩と追いかける。あっちのチームは、その反対のハーフコートへ向かった。その足取りはゆったりとしたもので、なんだか雰囲気ものほほんとしていた。


「つむにぎゃふんと言わせてやろうぜ!あと、ついでに取り巻き二人にも」


「ちょっと、聞こえてるよ!」


 わざと大声を出し、いたずらっぽく笑った猿田先輩は、次に顔を引き締め声もひそめて話し始めた。なんとなく、体を寄せた。作戦はもちろん聞かれない方が良いに決まっている。俺たちはひそひそと作戦会議を始めた。


「とりあえず、昂輝にボール回し任せるわ。俺らどっちもそういうの苦手だし。ただ、打てるときはバンバン打ってけよ?」


「うっす」


「コタ右行って、俺左で」


「了解」


 返事をしてぱしんと手のひらを合わせた先輩は、こちらに目を向けた。


「後輩。俺、馬原小太郎。センターやってるから、たぶんそういう動きが多いと思う。ま、困ったら俺にボールくれ」


「馬原先輩。よろしくお願いします。」


「うーん、かてえなぁ。こいつらみたいに、コタでいいよ」


「コタ先輩」


 コタ先輩がうんうんと頷くと、そのポニーテールも上下に揺れる。なかなかおしゃれな先輩だ。運動着もカラフルで目立つ。


「ディフェンスは誰マークする?流石にコタはユウか?」


「そうなるな。さっきの対面でいいんじゃね?」


「げ、俺つむかよ……」


 先ほどから、先輩たちはつむと呼ばれている、あの人を警戒している様子が伺える。それほど上手い人なのだろう。昨日の夜に話した感じだと、不思議でよくわからない人だと思ったが、確かにダンクもできるほどの身体能力の持ち主だ。テクニックもあるとしたら、相当手強い敵に違いない。猿田先輩、がんばれ。


「よし。ま、オフェンスは昂輝の裁量でやってくれりゃいい。頼んだぞ」


「プレッシャーかけないでください」


「はは。まあ問題はディフェンスだな。ちょろっとあいつらの話しとくか」


 三人同時に、反対のコートにいるもう三人を見やる。彼らは彼らで円陣を組み、真剣に作戦会議をしているようだった。


「左のあいつ、でかいやつな。鹿又優太、とにかくスリー打ってくる。ただゴール下はコタが競り勝てると思うから、いけそうだったらパス通してけ」


 茶髪の鹿又先輩は、あの身長でスリーポイントシューターなのか。まるでプロみたいだ。


「で、真ん中のちっこいやつ。昂輝のマークマンな。栗谷有栖。すばしっこいから抜かれないように。身長差あるからゴール下までついてけばブロックワンチャンできる。あと精神攻撃に弱いぞ」


 栗毛色の髪をした栗谷先輩は、スピードタイプのようだ。精神攻撃はともかく、フットワークはちゃんとしていかないと。カットを狙っていってもいいが、最初はドライブ警戒で様子見が良さそうだ。


「で、最後……紬な。あいつが一番やばい。一年でバスケ始めて、そのままU18の代表になったバケモンだ」


「……え?U18代表!?ガチでやばいじゃないっすか!」


「まじでやべーんだよ!まあ、まだ歴浅いからハンドリングとか立ち回りにはまだ隙があるんだけど、とにかくフィジカルがおかしい。普通に俺ら吹き飛ばされるし、軽く飛んでダンクとかしてるし」


 U18。つまり、日本代表だ。今年は男子も女子も、日本代表が強いという話を聞いたことがあるが、まさかこの高校にそのメンバーがいるとは。しかも、経歴が信じられない。一年からバスケを始めた?それでU18に?マンガやアニメの世界の話としか思えない。俺が中学でバスケを始めたとき、一年の頃なんかドリブルで精いっぱいだったのに。いくらフィジカルが強いとはいえ、それだけで選ばれるほど代表は甘くないはずだ。きっと、血の滲むような練習をしてテクニックを磨いたのだろう。


「対処法は?」


「無い。いや。まあ、強いて言えば、がんばる。」


「無いじゃないすか!」


 猿田先輩とコタ先輩は、揃って苦笑した。ああ、本当に対処法がないんだな。


 相手チームの三人は作戦会議が終了したようで、コートの中央へ集まり始めた。五分経つぞー、と栗谷先輩が両手をメガホンのようにして言った。俺たちも向かう。


「こっちは一枚手の内がばれてない秘密兵器がいると考えると、ちょびっと有利か?」


「つむが二人分の戦力って考えると、ちょっと不利ぐらいだろ。あいつがいる以上、点取り合戦になる。後輩に頑張ってもらわないとかもな」


「う、うす」


 相対する六人。緊張感が高まる。コタ先輩までプレッシャーをかけてくるのは、勘弁してほしい。しかし、こうやって少人数でバスケをするのは久しぶりだ。心臓が熱く鼓動する。この胸の高鳴りは戦いを前にしたわくわくか、それとも恐れか。


「三十点先取で。先攻後攻は……じゃんけんで良い?」


「ああ。よし、昂輝!いっちょかましてこい!」


「俺すか!?」


 とん、とコタ先輩に背中を押され、一歩前に出る。このルールって、先攻が絶対的なアドバンテージを持ってるよな?もしかして、このじゃんけんって、とても大切なんじゃないか?


 向こうのチームは誰がじゃんけんするのだろうと見ていたら、あちらの三人のうち二人が、揃って一人を指さした。その指先は、紬先輩に向けられていた。


「つむ!任せた!」


「おおい、それずるだろ!気を付けろ昂輝!そいつ、相手の出した手を見てから出すっていう荒業で、じゃんけん大会出禁になるくらい無双してるから!」


「ええ!?気を付けろったって、どうすればいいんすか!?」


「さあいくよ!じゃーんけーん……」


 そんなの、勝てるわけがない。しかし有無を言わさず、栗谷先輩が音頭を取った。手を出す前に何回か変えるか?それとも反対側の手で……ああもう無理だ間に合わない!ええいままよ、と思考を放棄して拳を出す。


 ぽん、と紬先輩が小さく呟いた。その手は……。


「え……?」


「嘘、つむが負けた!?」


「お、おお!なんかよく分からんが昂輝が勝ったぞ!?でかした!」


 彼女が出した手は、チョキだった。興奮した猿田先輩にばしばしと背中を叩かれたが、俺はグーを出したまま固まって動けなかった。紬先輩は、見てから手を出せるはずじゃ……ということは、まさか。


 ごめんとチームの二人に謝る紬先輩は、やはり表情を変えない。


 ……わざと負けた?


 困惑は晴れないまま、栗谷先輩からボールが渡される。試合が始まった。

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