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異種族でもラブコメはできますか?  作者: 藍家アオ


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4/2 Splash!その1

 まだ空が少し暗い朝。アラームを止めて窓を開く。爽やかな風が入り込んできた。


「くぅー……はぁ」


 背伸びをして、眠気を覚ます。庭には家庭菜園ができそうな、小さな畑があった。何か育ててもいいかもしれない。春に植えて、夏に収穫できるような野菜が良い。キュウリ、トマト、ナス辺りは定番かな?


「朝食……飛鳥は和食派だっけ?」


 きらきらの金髪、鼻の高く整った西洋人のような顔をしている飛鳥だが、両親ともに日本人であるし、一番の好物がオムライスというだけで和食ももりもり食べる。


 いつもだったら窓を開けて換気をするが、朝の空気は飛鳥には少し寒いだろう。蛇口をひねり水を出す。冷たい。三合の米を洗っているうちに、指先から伝わってくる水流のくすぐったさが目を覚まさせてくれた。ピッという電子音とともに、炊飯器をセットする。


「みそ汁に具をいっぱい入れて、玉子焼きに……肉か魚が欲しいな。ベーコン焼けばいいか……」


 それらを作るのに、そう時間はかからない。スマホを見ると、五時三十三分と表示されていた。三十分ほど外を走ってくるか。ジャージに着替えて、家の外に出る。ぐっぐっと屈伸をして、深呼吸。やはり空気が良い。一歩踏み出す。少し勢いが良すぎるスタートとなってしまった。今日は調子がいいようだ。


「はっ、はっ……」


 ランニングの良さは、身体を整えるだけではない。新しい発見があるのも、なんというか風情がある。この公園も、いつもとは反対側から見るとこのように桜が満開だ。今年は長く続いた冬の寒さもようやく和らぎ、春ののどかな温かさが訪れ始めたように感じる。


「綺麗だなあ」


 もうあと一週間もしたら、雨のように降り落ちてしまうのだろうか。


 借家に戻ると、ちょうど炊飯器が電子音を奏でた。時計を見ると、もう四十分経っていた。時間が流れるのは早い。手を洗って、朝食の料理を始める。玉ねぎを切り、鍋に火をつけて、玉子をといてフライパンに油をひいて……。せわしなく台所で動き回っていると、背後からふすまの開く音が聞こえた。飛鳥が起きてきたようだ。


「おはよう」


「んぅ、おはよ……」


 ぼさぼさの髪の毛。朝は弱いようだ。目をしぱしぱさせながら、洗面所の方へ歩いて行った。顔を洗っているのだろう、ばしゃばしゃと水音が聞こえてきた。


 朝食の準備はこれ以上なく順調で、特に玉子焼きの出来なんて素晴らしい。みそ汁に木綿豆腐を沈めれば、これで完成だ。


 二人分の料理を並べると、ちょうど飛鳥が戻ってきた。今日は色々とタイミングが良い日だ。飛鳥は先ほどよりもしゃっきりとした目をしていた。


「わー、美味しそう」


「食べるか。飲み物は?」


「野菜ジュース!」


「はいよ」


 冷蔵庫からパックの野菜ジュースを取り出し、ガラスのコップへ注ぐ。自分の分も、ついでに。


「ありがと」


「おう。いただきます」


「いただきます」


 食べる。悪くない出来だった。正面の飛鳥も、もりもりと食べている。それほど量は用意できなかったが、とにかく汁物に野菜やらなにやらを詰め込んだので栄養は十分だろう。


「今日は何時に涼さんが来るの?」


「んー、十時だったかな」


「じゃ、それまでに俺の部屋片づけとかないとな……」


 みそ汁の入ったお椀を片手に、不思議そうに首を傾げる飛鳥。ちょっと前に流行った、シマエナガに似ている。


「そんなに散らかってた?」


「いや、あんまり俺の痕跡があると面倒だろ?」


 飛鳥はもう一度、今度は反対側に首を傾げた。俺も一緒になって首を傾げる。何がわからないのだろうか?


「……ああ、そういうこと?リョウはもう知ってるよ?」


「ええ!?」


 思わず大きな声を出してしまった。ちょっとびっくりしたように、飛鳥の体が震えた。ごめん、と謝りを入れる。昨日の今日で、もう伝わっていたのか。まあ、家に呼ぶくらいだから、そりゃ伝えているか。飛鳥はあんまり嘘をつくタイプでもないし。


「じゃあ、片づけはちょっとでいっか……」


 昨日はエイプリルフールだったが、飛鳥は特に嘘をつこうという素振りはなかった。今までを思い出してみても、確かにエイプリルフールだからどうこうといったことはなかったような気がする。この家に来ると聞いたときは、そりゃ嘘を疑ったが、今日もこうしてここにいる。なんなら、家賃はどうするか、食費、水道代、光熱費は……なんて話すら出てくることからも、彼女の本気具合が伝わってきた。


 エイプリルフールらしさは昨夜に十分量摂取したため、お腹いっぱいだった。あの人も嘘をつくのに慣れていない様子だったし、この世には、意外と純真な人が多いのかもしれない。信じるべきは性善説だったか。


 洗い物を済ませ、歯を磨く。飛鳥は洗濯物を干していた。ちょうどいいので、今日の予定を聞いておこう。


「バイト昼過ぎだから、それまで出かけてくるけど。昼はどうするの?」


「この近くにお店あったっけ?」


「駅のほうまで行かないと無いな」


 この借家から学校までは、歩いて大体二十分ほど。駅は、そこからさらに二十分ほど歩かなければいけない。せっかく遊びに来てくれるのに、往復するだけで四十分はもったいない。


「弁当買ってこようか?」


「やだ」


「やだって、お前……」


 やだやだやだと駄々をこねる子どものように、タオルを振り回す飛鳥。湿ったタオルは当たるとちょっと痛い。べしべしと腹に打ち据えられる攻撃に耐える。駄々っ子をなだめる術は、まだ習得できていないのだ。そもそもなんで急に機嫌を損ねたのかすらわからない。今後このような理不尽に耐えなければいけなくなることが増えるのだろうか。そうだ、グミのストックでも用意しておこう。オムライスはストックできないが、グミならちょっとは日持ちするだろう。


「じゃあ、どうするんだよ」


「……なにか作って食べる」


「……飛鳥が?」


「うん」


 反抗期の子供のような口調で飛鳥は言った。さーっと、顔色が悪くなるのが自分でわかった。飛鳥の料理?駄目だ。何がどうなってもいい未来が見えない。


「やめてくれ。わかった、昼前には帰ってくるから。なんか作るわ」


「ほんと?えへへ、やった」


 けろっと機嫌を直した飛鳥。最初からこれが狙いだったな。彼女の思惑通りになってしまったが、致し方あるまい。涼さんの命を守るためだ。中学時代の林間学校。カレー作りで飛鳥に鍋を任せた際に、新たな種族が誕生しそうになったことを俺は覚えている。容疑者はかき混ぜていただけだと供述していたが、絶対にそんなわけがない。おたまでカレーを混ぜていただけで、あんなどす黒い粘性体が出来上がるわけがないのだから。

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