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異種族でもラブコメはできますか?  作者: 藍家アオ


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4/2 Splash!その6

「すいません……」


「いやぁ、ナイファイ、ナイファイ!惜しかったなー」


「接戦になったなぁ。ボコボコにされると思ってたんだけど」


 敗因は俺だ。決めれば勝ちという場面で、パスカットされて。最後のディフェンスでも、まんまとフェイクに引っかかって。


「ジュース、ジュース!」


「りーお前、一点も決めてないだろ!」


「勝ちは勝ちだもーん!」


 相手の得点は、紬先輩が二十八点、鹿又先輩が三点。圧倒的なスコアラーの個の力に打ちのめされた。


 対する俺は、わずか四得点。この得点力の低さが、俺の致命的な弱点だ。せめてミドルがもっと入れば、という場面が多くあった。それに、打ち気が無いと相手にばれたら、フェイクに引っかからなくなるし、パスも通しづらくなる。


「課題だなぁ……」


「そんな落ち込むなって。というか、お前大活躍だったぞ?やっぱガードは本職にやらせた方が良いな」


「そうそう。後輩君、パスとかフェイクとか上手だったねぇ。ノールックパスばっか!あたし無理だ!ってなって、つむに代わってもらったもん」


 先輩たちは、俺を慰めようと称賛の言葉をかけてくれた。嬉しい、すごく嬉しいが、やっぱり問題はシュートなのだ。コタ先輩みたいに、高い成功率で決められるようになりたい。今は、打っても入らないという負け犬思考が染みついてシュートを躊躇ってしまう。


 先輩にコツを聞きたい。このゲームでは、先輩にすごく助けられた。特に精神面で。この人なら決めてくれる、というような選手がいたら、パスが出しやすい。コタ先輩みたいに……あれ?


「そういえば、コタ先輩、今日一本も外してなくないですか?」


「そういやそうじゃん!覚醒した?」


「ん、まあ、調子良かったな」


 コタ先輩は十七得点。スリーポイントは、三本打って三本とも決めていた。この人も十分、化け物だった。


「活躍してたところ悪いけど、ジュースは奢ってもらうからね。コタ、僕このレモンの」


「よし、ゴウ!あたしこれとこれとこれと……」


「一本だボケ!」


 二つ並んだ自販機へ、駆け寄る四人。残された俺と紬先輩の間に、静寂が走る。ちょっと気まずい。


「先輩は何飲みますか?」


「私、ジュース、飲まないから」


 その言葉を聞いて、飛鳥の友人の涼さんの話を思い出した。徹底した食事管理。U18に選ばれるような人だ。紬先輩も、口にするものには気を遣っているのだろう。


 俺もジュースを飲む気は無くなった。


「じゃあ、スポドリでも……」


「ここ、スポドリない」


「え?あ、本当だ」


 二人で、自販機まで歩く。三列に並ぶ飲み物の中に、スポーツドリンクは見当たらなかった。隣の自販機にもない。


「珍しいですね」


「不便」


 大して気にしていなさそうな顔で、紬先輩は呟いた。


「昂輝、混じってくれた礼にお前の分買ってやるよ。あ、あとつむのも」


「いいんすか?」


「後輩に奢らせるわけにはいかねぇだろ。ほれ、どれがいい?」


 スマホを振りながら、猿田先輩が笑顔を浮かべて言った。この自販機はスマホでも決済ができるタイプのようだ。スポーツ刈りの茶色い頭が太陽の光を浴びて輝く。


 自販機のラインナップを見て、どれがいいか選ぶ。ミネラルとか書いてあるし、これでいいか。


「じゃあ、この麦茶でお願いします。先輩はどうします?」


「……私も……」


「あっ、やべ間違えた」


 ピッと自販機から音が鳴った。ゴトン、と重い音が鳴る。もう一本ゴトンと落ちてきたところで、猿田先輩がマヌケな声を出した。


「間違えてずっと隣のボタン押してたわ」


「なにやってんすか?隣ってことは……」


 650mlの麦茶の隣には、透明のペットボトル。ラベルには、強炭酸と書かれていた。猿田先輩が取り出し口から二本のそれを取り出し両手に持った。


「炭酸水じゃないすか」


「はい、つむ」


「……」


 紬先輩は、つるっとしたペットボトルを不思議そうに眺めたあと、キャップを捻って開けた。力を込めたそぶりも見せず、いとも簡単に。飛鳥は結局開けられなくて縋りついてきたのに、この違いは何なのだろう。種族の違いか?


「初めて」


「あ、飲んだことないんだ?」


 ぱちぱちと弾ける炭酸水を覗き込んでいる。こういった炭酸水は、炭酸がかなり強い印象がある。口を付けて、くいと傾けた。


 一瞬音が止んだ。水を口に含んだまま、紬先輩が固まる。刺激にやられたのか、一口飲んだ紬先輩の目がじわりと潤んだ。


「だ、大丈夫ですか?」


「……」


 先輩の持っているペットボトルから、しゅわしゅわと音が聞こえてくる。彼女は意を決したようにゴクリと飲み込んだ。


「けほっ」


 ボッ!!


 紬先輩が咳き込むと同時に、炎がその口から噴き出した。


 顔を赤く染めて、口を押える紬先輩。


「わお」


「久しぶりに見たな」


 先輩たちは珍しいものを見たかのように眺めているが、驚いた様子はない。普通、突然友達が火を噴いたらびっくりするけどな。


「……あげる」


「え……いや……」


「私、飲めない」


 紬先輩は、この炭酸水をお気に召さなかったのだろう。ぐいと押し付けられた、透明のペットボトル。薄く開いたキャップの隙間から、炭酸の音が漏れ出していた。


 どうすればいいんだ、これ。唖然としていたら、猿田先輩にポンと肩を叩かれた。


「昂輝。明日バスケ部の練習あるけど、来るか?」


「いいんすか?」


「良いに決まってるだろ。そういや、新入生のポイントガードの子も来るって言ってたな。名前なんだっけ?」


「八雲だよ。八雲恭平。雑誌にも載ってたよ、期待の新星って」


 鹿又先輩がレモンティーを飲みながら言った。


「競争になるぞ、昂輝」


 猿田先輩にばしんと背中を叩かれた。痛い。


 競争になるほど張り合えるかどうかわからないぞ。それに、今からポジション争いを意識してもしょうがない。とにかく、自分の課題に取り組むだけだ。


 それにしても、八雲恭平……雑誌に載るような有名な選手が、なんでうちの高校に?


「次は負けない」


「?勝っただろ?」


「後輩君に翻弄されてばっかだったから、そのこと言ってるんでしょ。つむ、負けず嫌いだからねぇ。でも、最後はやり返せたね?」


「ディフェンスは、一勝十二敗」


 談笑しながら公園を後にする先輩たちの背中を見送る。は、そうだ。今何時だ?スマホを見ると、十時四十分になっていた。昼食は間に合いそうだ。


 風が吹く。寒さを感じて、思い出した。ドワーフの爺さんに水をかけられて、水浸しになっていたのだった。いい天気の下で運動したから多少は乾いたが、まだ湿っぽい。


「はくしょん!」


 早く帰ってシャワーを浴びよう。風邪をひいてしまう。






「それにしても、つむ、今日はたくさん喋るね。楽しかった?」


「うん」


「なんだ?昂輝のこと気に入ったか?」






「……前から、お気に入りだよ?」

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