キラキラした氷の上で、またあおうね
4歳のアミちゃんの目に映ったのは、1人の女の人。
アミちゃんは、氷の上で衣装を着て踊る姿に衝撃を受けたのです。
それはまさにキラキラした世界そのもの。
その世界に夢中になってしまいました。
そこでアミちゃんはこう叫んだのでした。
「アミ、ここですべりたい!!」
その言葉にお父さんとお母さんはびっくり。
でも2人は少しだけ悩みながらも笑顔でこう答えてくれました。
「アミ、それなら土曜日にスケート場に行くか」
「うん、すけーとじょうに行く!!」
お父さんが、憧れの場所に連れて行ってくれると言ってくれたので、アミちゃんは大喜び。
その場で回りながらジャンプをしたのでした。
「そういえば、『すけーと』ってなあに?」
「さっき見たスポーツの名前よ。正式にはフィギュアスケートって言うの」
「ふぃぎぃあすけーとっていうんだ。カッコいい!」
「でもまずはスケートしてから考えましょう」
お母さんからフィギュアスケートという言葉を教えてもらったアミちゃんは、その響きの良さにますます興味を持つことになったのでした。
◇◇◇◇◇
そしてスケート場に訪れる日、アミちゃんは新たに目をキラキラとさせることになりました。
そこはまさにテレビで見たスケート場そのものだったからです。
アミちゃんは思わずその場でスケート場に入ろうとしてしまいました。
「アミ、まずはシューズを履かなくちゃダメよ」
お母さんが手を取って引き止めたのでした。
アミちゃんは本当だと驚きながらも、エヘヘと笑って渡されたシューズを履くことに。
しかし、履いたことのないシューズに戸惑い自分で履くことが出来ません。
どうしようどうしようと首を傾げていると、近くにいた女の子が声をかけてくれたのです。
「こうやってむすべばいいんだよ」
その女の子は、隣で靴紐の結び方を見せながら教えてくれたのでした。
それでも紐を結ぶことに難しさを感じながらも、お母さんの手伝いもありながら、シューズを履くことが出来ました。
今までにはない着心地に少しムズムズしましたが、それすら喜びを感じます。
そしてそのまま立ち上がろうとした時、バランスを崩してコケてしまったのでした。
その痛さにアミちゃんの目には少し涙が出てきたのです。
「だいじょうぶ? 立てる?」
そう言って手を出してくれたのは、またしてもさっきの女の子。
その優しさにアミちゃんは大きな声で『ありがとう』とお礼を言って、差し出された手を取って立ち上がったのでした。
その手を握ったまま、アミちゃんは女の子と一緒にスケートリンクまでやってきました。
ようやくこれで自分も踊ることが出来るとまた目をキラキラさせました。
しかし、先程転んだのにここでも転ばないかなという不安が出てきて、目にはその輝きが少し消えてしまいます。
「だいじょうぶだよ、いっしょにすべろう」
女の子はアミちゃんにまたしても手を差し伸べました。
その言葉を聞いたアミちゃんは安心して、笑顔で『わかった』と言って再び手を取りました。
そして女の子と一緒に滑ることになったのです。
「うわ〜きもちいい〜」
女の子が手を引いて滑ってくれることによって、転ぶ心配がなくスイスイと氷の上を滑ることが出来たのです。
それはアミちゃんにとって、今までにはない素晴らしいものでした。
でもアミちゃんがそう感じたのは、氷の上を滑ることが出来た喜びだけではありませんでした。
その隣には、無邪気に滑る女の子の笑顔が何よりも美しく感じたのです。
その姿を見て、あのテレビで見た女の人のようなキラキラしたものを感じ取ったのでした。
「ねぇ、つぎはいつ来るの?」
「あしただよ」
「じゃああしたまた会おうね。いっしょにすべりたい!!」
「うん、じゃあまたね」
女の子と約束をしたアミちゃんは、『またね』大きく両手を振ったのでした。
◇◇◇◇◇
その次の日、アミちゃんは再びお父さんとお母さんと一緒にあのスケート場にやってきました。
お父さんとお母さんに『あしたも来ていい?』確認をしたら、その場で『いいよ』と連れてきてくれたのです。
スケート場に着いたらすぐに、アミちゃんはあの女の子を探します。
するとすぐに見つかりました。
女の子は氷の上で軽やかに滑っていたのです。
アミちゃんは、『またシューズを履き忘れているわよ』とお母さんに注意されながらも、お母さんにも手伝ってもらって、急いでシューズを履いてリンクの上に立ったのでした。
しかし、アミちゃんはこの時初めて自分だけで滑ったので、感覚が分からなくなって思いっきり転んでしまいます。
「だいじょうぶ?」
そう言って手を差し出したのは、あの女の子。
先週と同じように優しい笑顔を向けてくれました。
アミちゃんは、前と変わらない優しさが嬉しくて、笑顔でその手を取って『ありがとう』とお礼を述べます。
そうして、2人はまた手を取り合って一緒に滑ることになったのでした。
そして、アミちゃんは先週と同じ気持ち良さを感じたのです。
だけどアミちゃんは少し気になることがあって、女の子に尋ねてみることにしました。
「どうやったらアミも1人ですべられるようになるのかな?」
「それならいっしょに今からすべってみようよ」
その女の子の頼もしい姿に、アミちゃんは『よろしく』と言って、女の子から滑り方を教わることにしました。
最初は壁を伝って足を少しずつ動かして、何度も転びながらも、女の子の手を借りて立ち上がって、何度も1人で滑る練習をしました。
「やった〜!! アミだけですべられるようになったよ〜」
そして帰る間際には1人で滑ることが出来るようになったのです。
だけど帰る際にアミちゃんは大切なことを聞いていないことに気づき、女の子の手を取って尋ねました。
「そういえばあなたの名前は? 私はアミだよ」
「そっかまだ名前をいっていなかったね。私はモネ。よろしくね、アミちゃん」
「うん、よろしくモネちゃん」
2人は握手をして、それぞれ笑顔でお家に帰ったのでした。
◇◇◇◇◇
それからアミちゃんとモネちゃんは、毎週土曜日と日曜日に一緒にスケート場で滑ることになりました。
その時間は何よりも楽しい時間で、アミちゃんには自然と大きな笑顔が出来ます。
でもそれは、アミちゃんだけでなくモネちゃんも同じことでした。
2人はこの時間を通して一緒に滑ることで、確実にスケートが上手くなり、そして2人の仲は深まっていきました。
そしてそれは彼女達の楽しそうな滑りに、周りにいる人達がみんなで笑顔になるほどの明るさがありました。
お互いに何の助けもなく軽やかに滑ることが出来るようになった頃、アミちゃんはモネちゃんにこう呟きました。
「私たち、すべれるようになったけど、おどることなんてできるのかな?」
しかし、モネちゃんはアミちゃんの言っていることが分からず、首を横に傾げてしまいます。
「おどる? どこで?」
「もちろんここだよ。キレイな服をきて、ジャンプするの」
アミちゃんはその場でジャンプしてみましたが、体勢を崩したことで、久しぶりに思いっきり転んでしまいました。
だけどモネちゃんがすかさずに手を差し伸べて、アミちゃんの身体を起こします。
モネちゃんは、アミちゃんがケロッとしているところを見て不思議に思いながらも、首を横に振って先ほどの話を続けました。
「そんなのムリだよ。そんなことする人見たことないし」
「いるよ、私はテレビで見てここに来たもん。ふぃぎぃあすけーとっていうんだよ」
「ふぃぎぃあすけーと? きいたことないな」
「それならモネちゃん、どうがを見てみてよ。あ、今見せてあげる!!」
アミちゃんは、モネちゃんの手を取り引き連れてお父さんの元に向かうと、お父さんにフィギュアスケートの動画を見せてほしいとせがみました。
するとお父さんは『良いよ』と言って、前に見たものをスマホで見せてあげたのです。
『これが、ふぃぎぃあすけーと……すごい!! こんなセカイがあるんだ』
そこにはアミちゃんだけではなく、モネちゃんの目にも同じキラキラとした世界が映ったのです。
そして、モネちゃんもその場でその世界に憧れを抱くようになりました。
「モネもリンクの上でおどりたいな」
「モネちゃんも!? うれしい!!」
そうやってフィギュアスケートというものがお互いに認識され、魅力された2人は手を取り合って気持ちが1つになったのでした。
しかし、やはりどうすればリンク場で踊ることが出来るようになるかは分かりません。
その悩んでいる2人を見ていたモネちゃんのお母さんが、次のように言ったのです。
「もしフィギュアスケートをしたいなら、まずはスケート教室に通わなくちゃね。モネは通いたいの?」
「かよってみたい」
モネちゃんはお母さんの質問に大きく返事を出しました。
その返事にはとても力が入っていることが、アミちゃんにも伝わってきたのです。
そのモネちゃんの言葉に、アミちゃんはお父さんとお母さんにお願いをしました。
「アミもかよいたい!!」
お母さんは『アミならそういうと思ってた』と言い、お父さんは『分かった』と笑顔で受け入れると、アミちゃんは大喜びでその場でジャンプをしながら氷の上を滑ったのでした。
この時はコケることなく、アミちゃんは滑ることが出来たのです。
◇◇◇◇◇
次の週、アミちゃんは初めて近くにあるスケート教室にやってきました。
そこには今まで通っていたスケート場とは異なるピリついた空気に、アミちゃんは少し怖さを感じてしまったのです。
しかし、そこで後ろから声をかけられました。
「アミちゃん、モネといっしょだったんだね」
そう、そこにいたのはモネちゃんでした。
アミちゃんは、またモネちゃんと会うことが出来て大喜び。
『いっしょにたのしもうね』と言って、お互いに笑顔になったのでした。
そしていざレッスンが始まると、2人には初めて行うことばかりで、戸惑いも多くありました。
しかし、2人にとってはそれすら楽しさに変える意気込みがあったのです。
そんな2人は始めたばかりだと言うのに、のめり込んでいき、次々とジャンプやスピンが上手くなっていったのでした。
その早さに周りの人達もびっくり。
なんと2人はたったの3ヶ月で教室を卒業することになったのです。
「モネちゃんやったね、私たちもうここまでおどることができたよ」
「うん、うれしい。だけどあのえんぎをするにはまだまだだよね……アミちゃん、どうしよう」
2人は成長を感じているものの、あの演技にはまだ届かないのに、レッスンがもう終わることに不安が出てきてしまったのです。
それは真剣に取り込んでいる2人だからこそ、湧き出てきたものでした。
そんな時、先生からこんな話をされたのです。
「アミちゃん、モネちゃん、2人は本当に才能があるわ。もし上を目指したいなら、クラブに入って指導してもらいなさい」
「「くらぶってなあに?」」
クラブという言葉を知らなかった2人に、先生は目を見張りつつも、『もっと多くのことを教えてもらえる教室よ』と答えると、2人は『いきたい』と声を揃えて意気込んだのでした。
◇◇◇◇◇
その2週間後、2人はその地域で1番近くにあるクラブにやってきました。
そこの雰囲気は、スケート教室とは違ったピリついたものがあり、2人は不安を感じてしまいます。
そんな時、後ろから2人の肩が叩かれました。
「初めまして、今日から一緒に練習する仲間だよね。私はカオリよ」
「私はアミ、よろしく」
「カオリお姉ちゃん、モネだよ。よろしくね」
そこで声をかけたのは、2人よりも背の高い先輩のお姉ちゃん。
どうやら2人よりも4歳年上だそうで、大会にも出るほどのとても凄い人です。
2人は彼女が滑っているところを見たいとお願いをすると、彼女は『少しだけなら』と見事な滑りをしてくれたのです。
その美しさに2人は息を呑み、そしてこうなりたい、そして大会にも出たいと強い意志を持つことになりました。
それから2人は、同じコーチから指導を受けながら、カオリお姉ちゃんも一緒に練習をすることになりました。
スケート教室では戸惑いはあったものの、苦しいと感じることはなかったので、2人はまさか苦しいと思う日が来るとは思わなかったのです。
だけど、それ以上に新たなことが出来ることに2人は喜びを感じておりました。
だからこそ、2人は手を取り合って一緒に泣いて笑って共に進むことが出来たのでした。
◇◇◇◇◇
もうここで教えを受けて2年が経ちました。
2人の仲の良さはクラブ内では誰もが認めるほど、仲を深めてきたのです。
しかし、ある日にモネちゃんがアミちゃんにとても悲しそうな顔でこう告げました。
「アミちゃん、私もう来週とおくに行っちゃうの」
「とおくに……モネちゃんとおわかれなの?」
「うん、もうアミちゃんといっしょにすべることができない」
「いやだ、いやだよモネちゃん。ずっといっしょにアミとすべってよ」
アミちゃんはモネちゃんとお別れをしなければならないと聞いた時、これ以上にない悲しみが襲いました。
それゆえに赤ちゃんが泣くかのように大きな声をあげてしまったのです――いやだと。
暫くはその泣き声は止まりませんでしたが、カオリお姉ちゃんがなだめたこともあり、ようやく収まったのでした。
しかし、アミちゃんの心は雨が降ったかのようにドンヨリとしておりました。
それから3日間、アミちゃんはリンクの上で滑るものの、何処かポカンと胸に穴があいたかのような寂しさが残っており、練習に集中できません。
ただそれはアミちゃんだけでなく、モネちゃんも同じ。
そんな2人をコーチとカオリお姉ちゃんは心配せざるをえませんでした。
その夜のことです。
アミちゃんはお父さんとお母さんから呼び出しをされました。
アミちゃんは『なあに』と弱々しく尋ねたのです。
「アミ、そんなにいじけてもモネちゃんは引っ越ししちゃうのよ。最後までそんな姿でいて良いの?」
「でも……もう会えないなんてかなしいの」
「確かに今のようには会えないわね。でもずっと会えないわけじゃないでしょう」
アミちゃんはもうモネちゃんとはこれからもう会えないと思っていたので、お母さんのその言葉には驚かざるを得ませんでした。
そして『どうして?』と尋ねます。
「モネちゃんはスケートを辞めるって言ったのか? もし辞めないなら、これからお互いに大会でも出たらその時に会えるじゃないか」
「大会!! 大会に出たらとおくにいても、モネちゃんに会えるの?」
「会えるさ。アミもモネちゃんも大会に出たいと思っているのだから。それなら絶対に会える。だから別れてもお互いに頑張る約束でもしてきなさい」
お父さんからそう後押しされたアミちゃんの目には、最近消えていたキラキラが目に戻ってきました。
そしてアミちゃんは笑顔を浮かべることが出来たのです。
◇◇◇◇◇
次の日、アミちゃんはモネちゃんに声をかけました。
アミちゃんは笑顔が戻っているのに対して、モネちゃんの表情は相変わらず暗いままで、昨日のアミちゃんのようでした。
そのため、モネちゃんは小さい声で『なあに』と尋ねたのです。
「モネちゃんは、これからもフィギュアスケートをつづけるの?」
「うん、つづけるよ。だってダイスキだから。やめたくない。アミちゃんは?」
「もちろんつづけるよ。私もモネちゃんにまけないぐらいダイスキだもん」
お互いにフィギュアスケートが好きだから辞めるつもりはないと確かめ合っただけですが、そこにはモネちゃんの笑顔が少し戻ってきたのです。
でもモネちゃんはまだ少し暗い顔をしておりました。
「モネちゃん、ぜったい大会に出よう。大会ならはなれていても、また会えるってお父さんとお母さんがいってた」
「大会……そっか大会に出たらまたアミちゃんと会えるんだ!!」
「うん、だからやくそく」
アミちゃんは右手の小指を出します。
そのためモネちゃんもすぐに右手の小指を出して、絡めて『ゆびきりげんまん〜』と歌いながらゆびきりを交わしたのでした。
それは単なる約束ではなく、2人の絆を確かなものにする証ともなったのです。
「でもアミちゃんいいな〜。アミちゃんはカオリお姉ちゃんといっしょにすべれるもの」
「へへ、それはそうだね。でもいつかカオリお姉ちゃんとも大会でいっしょにすべりたいな」
「それはモネもだよ。それもいっしょにやくそくする?」
そんな会話が生まれるほど2人にはもう悲しみは払拭されたのです。
そして、そこにはかつてあった2人の笑顔が戻っておりました。
最後の別れの日、2人はカオリお姉ちゃんも交えて、一緒にリンク場を自由に滑ることにしました。
でもそこではカオリお姉ちゃんが脇役になっちゃうほど、2人の楽しそうな滑りに誰もが圧倒されたのです。
そして2人はこのようにあいさつをして終えたと言います。
「モネちゃん、またね」
「アミちゃん、またね」
そして2人はそれぞれ離れた場所で練習を重ねた結果、その約束は2年後果たされることになるのでした。
おしまい




