第1部 第7話 調香制作開始
あれから、二週間が過ぎた。
師匠は調香室で唇に塗っても安全な香料を調合し、僕は小さなスパチュラでワセリン状のリップベースに、調合した香料を数滴垂らす。
丁寧に混ぜ、唇に試し塗りしながら――そんな試行錯誤の日々が続いていた。
今日も朝早くから、僕と師匠は調香室に籠もっていた。
「う〜ん…これもなんか違うな…」
「リップスティックの調香って、こんなに難しいんですね…」
身体に身にまとう香水と違って、唇に塗る香料だ。
ピンポイントで唇のみとなると、ここまで違うのかと改めて痛感した。
「アイナや爺やにも協力してもらってるが、他にも女性の意見が欲しいところだね…」
「そうですね…」
すると コンコン、と扉が鳴った。
「ご主人様、ジョン、調香室にこもってからだいぶ経ってますけど、大丈夫ですか?」
アイナが心配して様子を見に来てくれたようだ。
「ああ、アイナ。心配をかけたね。…っともうこんな時間になってたのか」
「え? あ、本当だ。もう16時をとっくに過ぎてますね」
「ジョン、すまないが西7番街のベーカリー店で、ライ麦ベーコンサンドを買ってきてくれないかい?君やアイナ、シェーンのぶんも頼むよ」
「相変わらず、あそこのベーカリーのライ麦ベーコンサンドがお好きですねぇ。わかりました。買ってきますよ」
「ありがとう。では、これで買ってきてくれ。ついでに甘いものも頼む」
「了解です」
僕は師匠からお金を預かり、アイナと一緒に調香室を後にした。
すると、アイナが僕に尋ねてきた。
「ねえ、ジョン。今日は満月みたいだけど…その…大丈夫なの?」
「ん?ああ、西7番街のベーカリー店を往復するくらいそんな距離も無いし大丈夫さ」
「今の時期は、夜になるのも早いし、気をつけてね」
「ああ、ありがとう」
僕は屋敷を後にし、西7番街のベーカリー店へ向かうトラムに乗り込んだ。




