第1部 第5話 調香依頼 2
僕は師匠の目配せ合図で、隣の調香室にあるヒヤシンスを持ってきた。
「これは…見事なヒヤシンスね!」
「ええ、めったに手に入らないヒヤシンスみたいで、特別に融通してくれたんです」
「そうなのね、素晴らしいわ!」
「…ところで、ここは香水ショップ…なのかしら?」
女性は、あたりを見渡しながら、興味深そうに尋ねた。
「ええ、工房も兼ねてますが、うちのオリジナル香水を中心に、私と契約しているメーカーのルームフレグランスなども扱ってます」
「どんな香りか試しても良いかしら?」
「ええ、どうぞ」
師匠は、女性を丁寧に案内しながら、香りや素材について説明していた。すると、女性は棚の中のひとつのボトルを手に取り、目を輝かせた。
「これは……ゼラニウムの香り? でも普通のゼラニウムとは違うわ。ローズのようでいて…柑橘のようにフレッシュで、それでいてグリーンな香りがするのね」
すごいなあの女性、師匠の一番得意な、ハーバル系の香りを見抜くなんて。
「ええ、それはこの城郭都市アウラの特殊な環境でしか育たないゼラニウムなんです。私がこの地で工房を始めたのも、そのゼラニウムの主成分で香水を作りたかったからなんですよ」
そう…その香りを放つゼラニウムは、なぜかこの城郭都市でしか育たない。
そして、その香りは癒やしと精神浄化作用をもたらしてくれる
…ゆえに…
「この香り…すばらしいわ!これをひとついただくわ」
「ありがとうございます」
師匠は微笑みながら、丁寧に包を用意した。
「ところで、あなたにひとつ依頼してもいいかしら?」
「依頼…ですか?フランスの方が、いったいどのような依頼を?」
え?フランス?あの女性は、フランス人なのか?
すると、女性はクスクスと笑いながら
「あら?見抜かれていたのね」
「ええ、言葉に少しフランス訛りがあるのと、あなたが纏っている香りは…メゾン・ド・リュミエレル(M・D・R)のフルール・ド・グラース(優雅の花)…ですよね?」
あ!この香りがリュミエレルのフルール・ド・グラースなんだ。
僕は、お金が無いから、ほんの少量でアトマイザーを少しずつ買って試しているが、これはまだ試したことが無かった。
「ふふふ、ご明答!改めまして、私は、メゾン・ド・リュミエレル社のパルファン&ボーテ部門のクリエイティブ・ディレクターをしております、カトリーヌ・ヴェルネと申します」




