第1部 第29話 契約
「…スチュワートくん☆ 国家情報調査—NIA が絡んでいると言う事は、マジ☆ヤバい☆って事だよ☆ 詳しくは言えないが、今は示談という形で収めたほうが安にして全かなっ☆」
弁護士の先生でも言えない何かがあるのか…。
ローデリア社……いったいその闇はなんなんだろう…?
「…おかしいとは思ってたんですよ。この城郭都市アウラは、セキュリティで言うなら、それこそ王都アレクサンドリアより厳しい。それなに、なんで彼は厳しいセキュリティの門を通ったにも関わらず、あんなリスクの高い行動を起こしたのか…。ジュリアンが手引したとはいえ、ずっと引っかかってたんですよ」
あ…!そうだ、いつも何気なく通っている正面門だからすっかり忘れてたけど、確かにこの城郭都市で犯罪を起こす事は、リスキー過ぎる!
「あ~☆ やっぱ気づくよね~☆ そこんとこと☆」
「…つまりそれは、NIA が…」
師匠が言おうとしていると、弁護士の先生は急に真剣な表情をして師匠の言葉を遮った。
「スチュワートくん。これ以上その言葉を口にしないほうがいい!!」
「…!!」
師匠は、ハッとした顔で弁護士の先生と向き合った。
「…わかりました…。示談に応じます…」
「OK ☆ 」
弁護士の先生すら口にすることすら出来ない事…それはつまり、NIA がわざと泳がせていたのか?しかし、それを言葉にする事は今は出来ないって事なのか……。
「それじゃ☆ またねっ☆」
「ええ、兄さんにもよろしく伝えておいて下さい」
「モチッ☆ そしてロンッ☆」
こうして、屋敷を包んだ紫の炎と、盗まれた調香レシピの事件は、ひとまず幕を下ろした。
そして2週間後、フランスからカトリーヌさんが再び姿を現した。
「う~ん、相変わらず素晴らしいハーブティーね。飛行機での長距離移動の疲れが吹っ飛ぶわ~」
「恐れ入ります」
カトリーヌさんは、アイナの淹れたハーブティーを堪能していた。
「カトリーヌさん、我々が作った調香試作品はどうでしたか?」
師匠はカトリーヌさんに尋ねた。
すると、カトリーヌさんは持ってたカップを静かにテーブルに置き、バッグから書類を出した。
「ミスター、スチュワート・クロウ。おめでとう。うちのメイクアップクリエーターのフィリップが絶賛していたわ」
え?って、事は…
「では、あの調香は」
「ええ、改めて…ミスター・スチュワート・クロウ。あなたと契約させた頂きます」
やった…やった、やった、やった!!
あの、世界的超ハイブランドのメゾン・ド・リュミエレル社に師匠が認められたんだ!!
「ありがとうございます」
「では、早速、この契約書にサインをお願い」
師匠は、何枚もある契約書に目を通していた。
「フフフ、ここまでの道のり、相当大変だったみたいね。なんでもあの、ローデリア社に一度、調香レシピを奪われたとか…」
「ええ、それについては本当に面目ないです。あの後、屋敷内を徹底的に防犯カメラやシステムを付けました」
「アウラトル公爵閣下のお膝元であるこの城郭都市で、そんな事件が起こる事自体が稀ではあるけど…まあ、いいわ」
師匠は、契約書に目をすべて通し、サインをした。
「ところで、ミスタースチュワート」
「スチュワートだけで、結構ですよ」
「では、スチュワート。あなた、アリアンブル王国の王家主催の香水品評会を知ってるかしら?」
それ、いつも毎年ニュースでやってるやつだ。
「ええ、毎年一月に開催される王家主催の香水品評会ですよね。今年は確か、エレンダル伯爵邸で開催され、南部の個人調香師が優勝したとか……」
ああ、確か王立植物研究所の近くにあるとかってニュースでやってたな。
「実は、来年開催予定の品評会。私はその特別審査員を担当する事になったの」
え?フランス人のカトリーヌさんが?




