第1部 第19話 もう一度
警察が到着し、街の防犯カメラで確認ができたとのことで、その映像を見ながら僕たちは説明を受けた。
「この防犯カメラの映像から分かる通り、犯人は紫の炎の中、この屋敷の工房に侵入しています。しばらくしてから外へ出ていき、その後、紫の炎は徐々に消えていきました」
僕たちは、唖然としてしまった。
「こんなにも悠々と大胆に侵入されたんですね。しかも、炎の中を堂々と通っていながら、身体が燃えていない。ということは、この人物自身が紫の炎を操っていた……ということでしょうか?」
師匠は、警察の人にそう尋ねた。
「こちらをご覧ください」
警察の人は、持っていたラップトップPCで、犯人と思われる人物の画像を拡大した。そこに映っていたのは、太った禿頭の中年男性だった。
「調べたところ、この人物はローデリア社と契約している調香師です。どうも性格的に、かなり傲慢な人物のようですね。この人物に心当たりはありますか?」
師匠は、ため息をつきながら答えた。
「いいえ、まったく接点はありません。……なぜ、私の調香レシピを盗んだのか……」
「とりあえず、この人物については、これから事情聴取を行います。何か進展があれば、こちらから改めて連絡します」
「よろしくお願いします」
そう言って、警察の人は屋敷を後にした。
「……師匠……せっかく、やっと完成させた調香レシピだったのに……まさか、盗まれるなんて……」
「……コンペまで、もう一週間もないな……しかし、悔しいが……あのレシピは、もう使えないね……」
――クソっ……!!苦労して作った調香レシピだったのに……!!
「とにかく、落ち込んでいても仕方ない。ジョン、一から作り直しだ!最後まで、諦めないぞ……!」
師匠の顔には、諦めという言葉など、微塵も浮かんでいなかった。
「はいっ!」
師匠と僕は、もう一度、新しい調香に取り組んだ。




