第1部 第15話 特異遺伝子
翌日、引き続き警察の事情聴取が行われた。捜査の結果、屋敷を荒らされた痕跡は無し。
ただし、屋敷の調香室にある師匠のデスクから見知らぬ人物の指紋が一つだけ発見されたという。
「指紋照合の結果、この屋敷の関係者の指紋ではありませんでしたね。あと、北10番街のパティスリー・アンの従業員であるジュリアン・レイのものでもありませんでした」
「荒らされた痕跡は無いけど、誰かが私のデスクを触った形跡があるという事は、騒動に紛れて侵入したのですね。しかも……」
師匠は、デスクの中の引き出しを開けて、コンペに使う調香レシピを取り出した。
「まさか、完成したばかりの調香レシピを盗まれるとは…」
「現物がここにあるって事は、スマホのカメラかなにかで撮影して盗んだって事ですか?」
僕はそう師匠と警察の人に尋ねた。すると師匠は…
「そうなるね…。正直うかつだった。屋敷に防犯カメラを設置せねばならないね…」
すると、警察の人が言った。
「ただ、不可解なのが紫の炎ですね」
僕の心臓は、ビクンと跳ねた。まさか、僕の…僕の呪いのせい…?
「恐らく、誰か特異遺伝子を持った人物かもしれませんね」
「特異遺伝子?まさか…でも確かに、あれだけの炎なのに、煙は出なかったし、しかもまったく建物も焼けてなかった…」
師匠はそう言った。
そして、警察の人は特異遺伝子の事を説明した。
「アウラトル公爵閣下が総帥を務める国際特務機関…インターナショナル・スペシャル・エージェンシー、通称 I.S.A の構成員にもこの特異遺伝子を持つ人物もいるみたいですが、特殊な、なんらかしらの能力を持った人物のことですね」
このアリアンブル王国は、他の国と違って、この特異遺伝子を持つ人物は多い。
その歴史は非常に残酷でアウラトル公爵閣下の先祖がそれを良い方向に持っていき、今の世界的国際機関の原点になったという。
「まだ、仮定の話ですが、とりあえず街の防犯カメラを当たってみます。では、これで」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
警察の人は、屋敷を後にした。師匠は、ずっと考え込んでいる。
「あの…師匠…紫の炎なんですが、もしかしたら…僕の…」
そう、僕が言いかけると師匠は
「いや、違う。ジョンの呪いは関係無い。さっき警察の人も言っていたが、特異遺伝子を持つ誰かが意図的に紫の炎を見せたんだろう。その証拠に、メゾン・ド・リュミエル社に提出する調香レシピを誰かに盗まれたのだからね」
!そうだ!M・D・R の新作リップスティックの調香コンペに出すレシピが盗まれるなんて、もう期間だって迫っているというのに!
「師匠!僕に、僕になにか出来る事は無いんですか!?」
僕はいても経ってもいられなかった。すると、店のほうからジュリアンが慌ただしく駆けつけてきた。
「スチュワート様!大変よ!ローデリア社が…!!」




