第1部 第8話 ベーカリー店
トラムに乗り、西7番街のベーカリー店へ向かった。
西7番街は活気のある町並みで、大きな店も多い。
その中でも、とくに人気なのがこの店――リュヌ・エ・ルヴァン。
アウラでも評判の良いベーカリーだ。
店は広く、1階がベーカリー、2階はカフェになっている。
パンはどれも質が良く、師匠のお気に入りでもある。今日も店内は多くの客で賑わっていた。
僕が店へ入ると――
「あら〜? 誰かと思ったら、ジョン・レンフォードじゃなくて?」
「げっ! …あんたは、ジュリアン・レイ!」
「げっ…とは何よ! 相変わらず失礼なやつね!」
ジュリアン・レイ。少し垂れ目で、ゆるくパーマのかかった長い髪。見た目だけなら完全に美人なのだが――中身は……。
「ところでスチュワート様はお元気? この前、香水が切れたから買いに行ったけど、アイナが応対してたの。あ〜あ、スチュワート様のお顔が拝めないなんて、残念すぎるわ!」
「……え? いや、別に会えなくていいんじゃない? 師匠のためにも…」
「きぃ〜〜! 相変わらず生意気ね! ジョンのくせに!だいたい、スチュワート様のおそばにいるってだけでも生意気すぎるのよ!」
……意味がわからない。
「…さてと、ライ麦ベーコンサンドはどこかな…」
「ちょっと! 無視するんじゃないわよ!」
……はぁ、疲れる……
「だいたい、なんでそんなに師匠のことが好きなのさ?」
「イケメンだからに決まってるじゃない!」
………
「その上、あの優しさと気品。そして調香の才能……すべてにおいて完璧なのよ!なのに…なのに……!なんで、あんたはいっつもスチュワート様のお側にいるのよ! 羨ましすぎるわ!」
「……だいたい、あんたは“男”じゃないか…」
「何!?男だからって差別するわけ!? そうよ! 私は男!この美貌で男に生まれるなんて、神様は私に二物を与えてくれなかったの……なんて罪深いのかしら、私……!」
「あ〜…はいはい…僕は師匠に頼まれたライ麦サンドを買わなきゃいけないから。じゃあね」
「待ちなさいよ! スチュワート様は…その……お元気なの?」
ジュリアンは、頬を赤らめてモジモジしながら聞いてきた。
「元気だよ……。ちょっと立て込んでて忙しいから、また後で……?」
…ドクン…ドクン…ドクン…
「? どうしたのよ?」
…ドクン…ドクン…ドクン…
マズい。視界がだんだん赤く染まっていく。
まさか……嘘だろ……
店の窓の外を見ると、夕暮れの空に、すでに大きい満月が顔を出していた――。
マズい……早く買って帰らなきゃ……!
「これと、これと、あとこれを……!」
急いでライ麦サンドと菓子パンを選んでレジへ向かった。幸い、レジは混んでいない。
「ちょっとジョン、あんた顔色悪いけど大丈夫なの?」
ジュリアンが心配そうに覗きこんでくる。
「……ああ。悪いけど……すぐ帰る……」
店を出て、人気の少ない路地へ駆け込む。
まだ夕方だから、さっさと帰れば満月まで間に合うかと思ったら油断した!まさか、夕方からもうあんなに大きい満月が出ているなんて…!!
トラムを待っていては間に合わない……!特に夜の月の光を浴びたら、大変なことになる……!
夕方でも満月が出ている。ならば――力を使うしかない。
僕の満月の呪の力
瞬間移動の力を…!
メゾン・ド・リュミエレル社
通所 M・D・R
フランスの企業で、世界3大超ハイブランド企業のひとつ。
ラグジュアリーファッションでその地位を獲得し、今ではファッション、コスメ。バッグなどを手がける。




