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comming 0001 棘を持つ誓い
生徒会室の机の上に一本の白いバラが置かれていた。茎には鋭い棘があり、葉月はそれを見下ろしながら、淡々と書類の整理をしていた。
「今年も始まるのね・・・"儀式"」
ドアが開いた。強めの足音と共に一人の男子生徒が登場した。
黒髪が乱れていて鋭いまなざしだけが、印象に残る。
「まだこんなバカなことをするのかよっ!!」
龍二はかつて葉月が唯一"真実"を語らなかった相手。葉月は顔を合わせず応えた。
「これは伝統よ、理不尽でも受け継がれるものなのよ」
「それを正すのが生徒会の役目じゃないのか?」
「正すべきものと守るべきものは、対よ」
龍二は一歩近づき、バラの棘に指を伸ばした。がその手を葉月は払いのけた。
「それは触れちゃいけない…棘よ」
「じゃ、誰が触れるんだ? 誰がこの儀式を終わらせる?」
目が合った、そこには怒りだけではなく、悲しみと哀れみの無言の問いかけが、あった。
「僕はあの時のお前を許しちゃいない」
そう言った龍二の声はかすれていた。
葉月は、窓に映る自分の顔をじっと見つめ何も言わず、ただ黙って空気をぼかしていた。