エピローグ
完成した本が届いたのは、あれから一か月と経たないある日のことだった。
丁寧な梱包を解きながら私は息を吐く。あの宇宙人、業者選びから入稿作業まで全部私に押し付けやがって。こっちだってもう学校始まってるって言うのにさ。
しかし出来上がりはなかなかのものだ。どこからどう見ても立派な同人誌。イベントで普通に売れるんじゃなかろうか。
あとはこれをネコパーティーに届けるだけ。学校が始まってからは会う頻度が減ったけど、いつもの空き地にいるはずだ。
……今日でネコパーティーとはしばらくお別れか。
はちゃめちゃ宇宙人が故郷に帰るのは済々するね。やっといつもの日常に戻れる。
そんなことを考えながら本を紙袋に突っ込んでいると、後ろから眠そうな声が聞こえた。
「おはよー……。それ昨日来てた郵便? なに頼んだの?」
目をこすりながら、お母さんはソファに腰かけた。
「友達の代わりに頼んでたやつ。今から届けてくる」
「そっかぁ……気を付けてねぇ」
よほど眠いのか、呂律が回っていない。まあ、昨日も日付変わってから帰って来たし仕方ないか。
「……あのさ、お母さん」
「んー? なあにー?」
私はお母さんに背を向けたまま口を開く。ほんとはこんなの柄じゃないんだけど。でも、詩織も読んだら教えてって言ってたから。
「私は、西園寺くんよりも当て馬の成瀬くんの方が好きだった」
「え? ……あ、もしかして」
眠そうだったはずの声がだんだん大きくなっていったけど、もうこれ以上は知らない。「行ってきます」とだけ言って、私はリビングを飛び出した。
スニーカーを履いて、急いで靴紐を結ぶ。玄関を開けた瞬間、刺すような痛みとともに不気味な声が頭の中で響いた。
『そんな装備で大丈夫か?』
ちょっと前まではうざくてたまらなかったはずなのに、もうすっかり慣れてしまった。
「一番いいのを頼む……なんつって」
ネコパーティーが帰っても、やっぱり今までとは少し違う日常が待っているのかもしれない。
ありがとうございました。