第4章:火薬庫の卒業──再燃なき中東
かつて、
中東という地域は、
世界の不安定の象徴だった。
絶え間ない火種、
繰り返される報復、
血と火薬の匂いに満ちた、
「燃え上がり続ける地図」。
だが──
その光景は、
もはや過去のものとなりつつある。
イラン本国は降伏交渉に入り、
フーシ派も、ヒズボラも、ハマスも、
もはや独自に戦争を起こせる組織力を持たない。
シリアのアサド政権は崩壊し、
ロシアの影響力ラインも断ち切られた。
そして、
かつて火薬を注いでいた国々も、
それどころではなくなった。
ロシアはウクライナ戦争の泥沼で力を失い、
中国は国内疲弊と国際的包囲網に忙殺され、
トルコも、サウジも、
もはや無謀な介入に乗り出す余裕など持ち合わせていない。
燃えるものが燃え尽きたのではない。
燃料そのものが、
世界から失われたのだ。
もちろん、小さな火花は、これからも散るだろう。
局地的なテロ、
限定的な軍事衝突、
報復と対抗措置の応酬──
だが、それらはもはや、
地域秩序を根本から揺るがすような大火にはなり得ない。
火薬庫と呼ばれた中東は、
ここに、
卒業したのである。
それは、劇的なセレモニーではなかった。
誰もが気づかぬうちに、
静かに、静かに、
「燃える理由」そのものが消えていった。
そして、
世界の関心は、
中東という局地の争いから離れ、
より大きな、より切実な課題へと向かい始める。
それは、
地球全体の、
生存をかけた戦い。
──次章では、
この「燃え尽きた後の世界」が、
いかに静かに、しかし確実に整理されていくのかを見ていこう。