第3章:降伏への道──イラン核協議の現実受容
中東の火薬庫を形作っていた代理勢力が、
立て続けに燃え尽きた後、
最後に残されたのは、親玉であるイラン自身だった。
かつてのイランは、
ヒズボラを操り、フーシ派を支援し、ハマスを背後から支え、
中東全域を覆う火薬網の中心だった。
しかし──
その火薬網が消え、
本国の防空網も、ミサイル生産施設も、
悔恨の日々作戦によって打ち砕かれた今、
イランには、
もはや過去の栄光を支える土台すら残されていなかった。
表向き、イラン政府は、強気な声明を繰り返した。
「核開発の権利は譲らない」
「地域の主権は守る」
そう、威勢のいい言葉だけは残されていた。
だが、実態は違った。
フーシ派も、ヒズボラも、ハマスも失い、
シリアのアサド政権も崩壊し、
ロシアも、中国も、
もはや本気でイランを支える余力を持たなかった。
イランは孤立した。
本当に、孤立したのだ。
そんな中で、始まったのが、
オマーンでの高官協議だった。
最初は、互いに外交辞令を並べる場に過ぎなかった。
だが、イラン側は、
あからさまに譲歩を匂わせる発言をするようになった。
そして、ついに──
実務者協議へとフェーズが移行した。
これは単なる交渉の延長ではない。
「主張し合う場」から、「細部を詰める場」への移行。
つまり、
“降伏の条件交渉”に入った
ということだ。
しかも、次回の協議にはIAEA(国際原子力機関)の専門家も加わる可能性が示唆された。
ウラン濃縮、ミサイル開発、軍事転用可能性──
かつてイランが「絶対に干渉させない」としていた核心領域に、
自ら扉を開き始めたのである。
ここに至って、
イランという国家が
「もはや抵抗できない」という現実を、
内心では受け入れていることは、
誰の目にも明らかだった。
大国の威厳を保ったまま交渉するのではない。
条件闘争で譲歩を引き出すのでもない。
ただ、
どう降伏するか。
どのタイミングで、どこまで明け渡すか。
そのための「細かい相談」が始まったにすぎない。
これが、イランの今だった。
表層ではまだ威勢のいい声明が飛び交っている。
だが、
構図の俯瞰者から見れば、
その叫び声は、
もはや誰にも届かない、
燃え尽きた灰の上の、かすれた音に過ぎなかった。
──次章では、
このようにして燃え尽きた中東が、
どのような新しい「静かな時代」へと移行していくのかを見ていく。