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いずれ神話の異世界英雄譚  作者: 那瀬斗 赫
第一章 始まり
6/21

フラグが立った気がするよ〜実戦訓練前夜〜



 【オルフェス大迷宮】


 それは、全百階層からなると言われている大迷宮である。七大迷宮の一つで、階層が深くなるにつれて出現する魔獣も強くなる。それこそ最下層には伝説の魔獣が……なんて言われている。


 にもかかわらず、この迷宮は冒険者や傭兵、新兵の訓練に非常に人気がある。それは、階層による魔獣の強さが分かりやすいからということと、出現する魔獣が地上の魔獣と比べて遥かに良質な魔石を体内に持っているからだ。


 魔石とは、魔獣を魔獣たらしめる力の核の事を言う。強力な魔獣程、良質で大きな核を備えており、この魔石は魔法陣を作る際の原料となる。魔法陣は描くだけでも発動するが、魔石自体に刻んだり、魔石を粉末にして染料として紙に染み込ませるなりした場合と比べると、その効果は三分の一にまで減退する。


 要は、魔石を使用するほうが魔力の通りがよく効率的に魔法を発動できるということだ。その他にも、日常生活用の魔法具の原動力として使われる。魔石は軍関係だけでなく、日常生活にも必要な大変需要の高い代物なのである。


 ちなみに、良質な魔石を持つ魔獣程、強力な固有魔法を使う。固有魔法とは、詠唱や魔法陣が使えないため、魔力があっても多彩な魔法を扱えない魔獣が使用する唯一の魔法だ。一種類しか使えない代わりに、詠唱も魔法陣もなしに放つことができる。魔獣が油断ならない最大の理由だ。


 セト達は、オネス団長率いる騎士団員複数名と共に、【オルフェス大迷宮】へ挑戦する冒険者のための宿場町【ローディン】に到着した。新兵訓練によく使用するようで王国直営の宿屋があり、そこに泊まる。


 久しぶりに普通の部屋を見た気がする、セトと翔一はベッドにダイブし「ふぃ〜」と気を緩めた。全員が最低でも二人部屋の中、セトと翔一が相部屋になった。何かあってもすぐ守れるよう、最弱二人で固めておいたのだろうか?隣の部屋は団長達の部屋だし。

「ケッ、ここじゃ何にも起こらんよーだ。安全でーすよ〜」かわいらしい悪態をつく翔一。偶に男性か女性か、性別を間違えそうになる。彼は男性だ。


 明日から早速、迷宮に潜る。今回は、行っても二十階層までらしく、その辺りまでならセト達のような弱キャラがいても十分カバーできると団長直々に教えられた。


 二人は内心吐血した。(ゴフッ)という声が漏れていたかもしれない。面倒をかけて申し訳ありませんという他ない。むしろ、王都に置いていってくれても良かったのに……とは空気を読んで言えなかった、ヘタレェなお二人である。


 しばらく、借りてきた図鑑を読みながら雑談していた二人だが、少しでも体を休めようと少し早いが眠りに入ることにした。学校生活の中で培われた居眠りのスキルは、異世界でも十全に発揮される。基本的に徹夜がデフォだった翔一とそれに付き合っていたセトは、一瞬で眠り任意の時間に起きることができる。


 しかし、二人がまどろみ始めて意識を落とそうとしたその時、眠りを邪魔するかのように扉をノックする音が響いた。少し早いと言っても、ギアースヘイムでは十分に深夜の時間帯。怪しげな深夜の訪問者に、「なんだ?美馬達か?」と緊張の表情を浮かべる。


 しかし、その心配は続く言葉で杞憂に終わった。


「セトくん、起きてる?福永です。ちょといいですか?」


 ん?聞き間違いか?と一瞬硬直するも、急いで扉に向かう。そして鍵を外して扉を開けると、そこには紅色のネグリジェに白いカーディガンを羽織っただけの雅が立っていた。


「部屋間違えてますよ、それでは」

「えっ?ちょっと待って、顔見えたから!目的の人はここに居るから閉めないでぇ!」


 ある意味、衝撃的な光景に扉を閉めて、絶対に通じない居留守を決め込もうとするセト。雅がキョトンッとした後、ハッとして扉を開けようとする。負けた。


 セトは、気を取り直すと、なるべく雅の方を見ないようにしながら用件を聞く。いくら、女性恐怖症でも、セトは立派な思春期男子。現在の雅の格好は少々刺激が強すぎる。


「あ〜〜いや、ごめん。えっと、それで用件は?何か連絡事項でも?」

「ううん。その、少しセトくんと話したくて………やっぱり迷惑だったかな?」

「……………………………………………………………………………どうぞ」


 最もあり得そうな要件を予想して尋ねるが、雅はそれをバッサリ切り落とし、弾丸を撃ち込んできた。上目使いという炸薬付きで。効果あり。長考の後セトは扉を開け中に招き入れた。


「うん!」


 雅は、なんの警戒心も無く嬉しそうに部屋に入り、窓際のテーブルセットに座った。若干戸惑いながらも、後をついていき向かいの席に座った。


 翔一が紅茶モドキを3人分淹れて持ってきた。話の流れを読んであらかじめ淹れておいたのだ。そして、セトの隣に椅子を移動させて座った。


「ありがとう。」


 嬉しそうに紅茶モドキを受け取り、口を付ける雅。窓から月明かりが差し込み彼女を照らす。黒髪には、エンジェルリングが浮かび、まるでホンモノの天使のようだ。


 話を促す。


「それで、話したいことって何かな?明日のこと?」


 セトの質問に「うん」と頷き、雅は先程までの笑顔が嘘のように張り詰めた表情になった。


 「明日の迷宮なんだけど………二人には町で待っていて欲しいの。教官達やクラスの皆は私が説得する!だから、お願い!」


 話している内に興奮したのか身を乗り出して懇願する雅。僕達が無能だからというにはちょっと必死すぎないか?と困惑する。


「………確かに僕達は足手まといだと思うけど……流石にここまで来てそれは通用しないんじゃ……」

「そうだねぇ、厳しいよ。多分」

「違うの!足手まといとかそういうことじゃなくてっ!」


 雅が、二人の誤解に慌てて弁明する。自分でも性急過ぎたと思ったのか、手を胸に当てて深呼吸する。少し、落ち着いたようで「いきなり、ゴメンね」と謝って静かに話し出した。


「あのね、なんだか凄く嫌な予感がするの。さっき少し眠ったんだけど……夢をみて……セトくんが居たんだけど……声を掛けても全然気がついてくれなくて……走っても全然追いつけなくて……それで最後は……」


 その先を口に出すことを恐れるように押し黙る雅。セトは、落ち着いて続きを聞く。


「最後は……?」


 雅はグッと唇を噛むと泣きそうな表情で顔を上げた。


「……消えてしまうの…………」

「そっか………」

「……」


 しばらく、静寂が場を包む。


 再び俯く雅を見つめる二人。


 確かに、不吉な夢だ。しかし、所詮夢だ。そんな理由で待機が許されるとは思えないし、許された場合はクラスメート達から批難の嵐だろう。いずれにしろ、本格的に居場所を失う。故に、参加しないという選択肢などない。


 セトは、雅を安心させるよう、なるべく優しい声音を心掛けて話し始めた。


「夢は夢だよ、福永さん。今回は、団長率いるベテランの騎士団員ついているし、緋之河みたいに強いやつもたくさんいる。むしろ、皆チートだから敵が可哀想なくらいだよ。僕達は弱いし、実際弱いところをたくさん見せているから、そんな夢を見たんじゃないかな?」


 語りかけるセトの言葉に耳を傾けながら、雅は不安そうな表情でハジメを見つめる。


「うーん。そうだなぁ…それでも不安だというのなら……」

「…………なら?……」


 セトは、若干恥ずかしそうにしながら、しかし真っすぐに雅と目を合わせた。


「守ってくれないかな?」

「え?」

「ブフォッ」


 自分の言っていることが男として、相当恥ずかしいことだと自覚があるのだろう。既にセトの顔は、羞恥で真っ赤になっている。月明かりで室内は明るく、雅からもその様子がよく分かった。翔一が吹いたので肘で小突く。


「福永さんは〝治癒師〟だよね? 治癒系魔法に天性の才を示す天職。何があってもさ……たとえば、僕が大怪我することがあったとしても、福永さんなら治せるよね。その力で守ってもらえないかな? それなら、僕は大丈夫だよ」


 しばらく、雅は、ジーとセトを見つめる。ここは目を逸らしたらいけない場面だと羞恥に身悶えそうになりながらセトは必死に耐える。


 セトは、人が不安を感じる最大の原因は未知であると何かの番組で聞いたことがあった。雅は今、セトを襲うかもしれない未知に不安を感じているのだろう。ならば、気休めかもしれないが、どんな未知が襲い来ても自分には対処する術があるのだと自信を持たせたかった。


 しばらく見つめ合っていた雅とセトだが、沈黙は雅の微笑と共に破られた。


「変わらないね。セトくんは。」

「?」


 雅の言葉にはてなを浮かべるセト。その様子に雅はクスクスと笑う。


「セトくんは、私と出会ったの高校に入学してからだと思ってるよね?でもね、私は中学二年の時から知ってたよ。」


 その意外な告白に目を丸くするセト。必死に記憶を探るが何も思い出せない。


 う〜んと唸るセトに、雅は再びくすりと笑みを浮かべた。


「私が一方的に知ってるだけだよ。……私が最初に見たセトくんは土下座してたから私のことが見えていたわけないしね」

「えっ、土下座!?」

「ブハッ」


 セトは、なんて格好悪い所を見られていたんだ! と今度は違う意味で身悶えしそうになる。翔一はまた吹いた。そして、人目につくところで土下座っていつ、どこで!? と必死に記憶を探る。一人、百面相するセトに雅が話を続ける。


「うん。不良っぽい人達に囲まれて土下座してた。唾吐きかけられても、飲み物かけられても……踏まれても止めなかったね。その内、不良っぽい人達、呆れて帰っちゃった」

「そ、それはまたお見苦しいところを……」


 セトは軽く死にたい気分だ。厨二病重症患者だった時の黒歴史とタメを張るくらい最悪のシーンを見られていたらしい。もう、乾いた笑みしか出てこない。隠しておいたエロ同人誌を母親が綺麗に整理して本棚に並べ直していた時と同じくらい乾いた笑みだ。翔一が笑い転げているので少し黙らせる。


 しかし、雅は優しげな眼差しをしており、その表情には侮蔑も嘲笑もなかった。


「ううん。見苦しくなんてないよ。むしろ、私はあれを見てセトくんのこと凄く強くて優しい人だって思ったもの」

「………は?」


 セトは耳を疑った。そんなシーンを見て抱く感想ではない。もしや、福永には特殊な性癖が!? と途轍もなく失礼なことを想像する。


「だって、セトくん。小さな男の子とおばあさんのために頭を下げてたんだもの」


 その言葉に、セトは、ようやく思い当たった。確かに、中学生の頃、そんなことがあったと思い出す。


 男の子が不良連中にぶつかった際、持っていたタコ焼きをべっとりと付けてしまったのだ。男の子はワンワン泣くし、それにキレた不良がおばあさんにイチャもんつけるし、おばあさんは怯えて縮こまるし、中々カオスな状況だった。


 偶然通りかかったセトもスルーするつもりだったのだが、おばあさんが、おそらくクリーニング代だろう__お札を数枚取り出すも、それを受け取った後、不良達が更に恫喝しながら最終的には財布まで取り上げた時点でつい体が動いてしまったのだ。


 といっても喧嘩など無縁の生活。厨二的な必殺技など家の中でしか出せない。それならば、相手が引くくらいの土下座をしてやればいい。公衆の面前での土下座は、する方は当然だが、される方も意外に恥ずかしい。というか居た堪れない。目論見通り不良は帰っていった。


「強い人が暴力で解決するのは簡単だよね。煌唏くんとかよくトラブルに飛び込んでいって相手の人を倒してるし……でも、弱くても立ち向かえる人や他人のために頭を下げられる人はそんなにいないと思う。……実際、あの時、私は怖くて……自分は望愛ちゃん達みたいに強くないからって言い訳して、誰か助けてあげてって思うばかりで何もしなかった」

「福永さん……」

「だから、私の中で一番強い人はセトくんなんだ。高校に入ってセトくんを見つけたときは嬉しかった。……セトくんみたいになりたくて、もっと知りたくて恥ずかしいけど、偶に話し掛けたりしてたんだよ。でも、セトくん昼休み意外直ぐにどこか行っちゃうけど……」

「……ごめんなさい」


 雅がたまに話しかけてくる理由が分かったセトは、雅の予想外の高評価に恥ずかしいやら照れくさいやらで苦笑いする。


「だからかな、不安になったのかも。迷宮でもセトくんが何か無茶するんじゃないかって。不良に立ち向かった時みたいに……でも、うん」


 雅は決然とした眼差しでセトを見つめた。


「私がセトくんを守るよ」


 セトはその決意を受け取る。真っ直ぐ見返し、そして頷いた。 


「ありがとう」


 それから直ぐセトは苦笑いした。これでは役者が男女あべこべである。今夜のイケメン賞は間違いなく雅だ。だとすれば、さながら自分はヒロインかと、男としてはなんとも納得し難い気持ちに笑うしかなかった。そこに水を差す者一名様ご案内。


「ちょっと水差すね!ねぇ、話の内容聞くにボクは夢に出て来てないよネェ、何でここで待っててって言ったんダヨ!?ついでカ?泣くぞ、ちくせうメ!」


 翔一が雅に噛み付いた。口調がおかしくなっている。雅が弁明しようと口を開く。


「えっ?えっとそういうことじゃなくて……えっと」


 言葉に詰まっている。図星だったのだろうか。とりあえず助け舟を出す。


「まぁ、落ち着け」

「はい」

「感情の落差がすごいな。急にスンッってなるな、怖いから。」


 急に大人しくなる翔一にセトがビビっていると、その様子を見た雅が最悪の予想を立てて口を開いた。


「とりあえず安心して?翔一くんも守るから。それと、ちょっと気になることがあるんだけど、翔一くんってセトくんの言う事すぐ聞くよね。セトくんもそうだけど。もしかして二人ってさ………そういう…?」

「さぁ?どうでしょうねぇ」

「ぐぼぁ」

「セトくん!?」

「その反応はなんだい!セトよボクじゃあダメなのか!?」

「うぼぁ」

「セトくーん!戻ってきてぇ!」


 それからしばらく深夜にしては騒がしい雑談をした後、雅は部屋に帰っていった。


「モテるねぇ〜、ねぇ?セトさんや」

「その口調やめて?」

「ブーブー、ボクというものがありながら他の女に手を出すなんて!」

「人聞き悪いこというなよ!そも、お前男だろ!」

「BLもいいと思いまぁ〜す」

「ふざけんな!ほら、寝るぞ」

「はぁ〜い」


 そんなふざけた会話をして、セトはベッドに横になった。なんとしても自分に出来ることを見つけ出し、無能の汚名を返上しなければならない。いつまでもヒロインポジなど、納得できるものではない。セトは決意を新たにし眠りについた。



~~~~~~~~~~~~~~~~



 深夜、雅がセトと翔一の部屋を出て自室に戻っていくその背中を無言で見つめる者がいた。そのことは、誰も知らない。その者の表情が醜く歪んでいたことも知る者はいない。








タグにある主人公最強化がどれくらい後になるかはわかりません。取り巻きになるメンバー達の最強化の方が先になるかも…私の話を作る計画は脆弱なのです。

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