声が好き
萠は同じ学園に通っている優大を呼び出し、今まさに告るところである。
萠は学園ではモテキャラだが、優大の方はハッキリ云うとジミなモブキャラだ。
そんな真逆なタイプの二人なのに何ゆえ萠が、こんなジミキャラな男子に告ろうとしているかと云うと……。
「優大くんの声に惹かれたから、付き合いたいの」
「僕の……声?
いや、でも、僕はジミな男子だから、モテキャラの萠さんとは釣り合わないよ」
優大は凄く声がイケているからなのだ。
「僕なんかより、萠さんには他にいるイケメンとかがお似合いだよ……」
優大の性分は謙虚なので、容姿よりその辺りでまあまあもてている。
本人は気づいていないのが残念。
「あ、いや……優大くんに対しては、人として好きなの。
付き合いたいのは、声と……って事よ」
「?」
意味がよく理解できない優大の前に、萠が録音技能のある端末を彼の前に差し出した。
「これ、声を回収するボイスピックアップマシーン。
これに向かって、何か喋って!」
「ああ……声を録音するんだね……」
優大の気持ちは重く沈んだ。
(だよねえ……ちょっと、残念……)
「何でも良いから、声をちょうだい」
「ええと、それじゃあ、声を誉めてくれて、ありがとう!」
優大の声が、ボイスピックアップマシーンに吸い込まれ、暫くその中で声が加工(?)されていく。
「そろそらかしら?」
『声を誉めてくれて、ありがとう!』の文字が人の形で現れたかと思うと、それが喋り出した。
『声を誉めてくれて、ありがとう!』
「大成功!
理想の仕上がりだわ。
あ……優大くん、もう行って良いわよ」
「え……?」
(ちょっと待って!
それ何?)
それについてツッコミどころ満載だが、優大は云われるがまま、教室へと戻っていく。
「じゃあ、失礼するよ」
「バイバイ、池募くん今日、どっか遊びいく?
ボウリングとかは?」
『声を誉めてくれて、ありがとう!』
「マジで?
ウチも、そのアイドル好き!
日曜、イベント行こうか?」
『声を誉めてくれて、ありがとう!』
「バッチリ、コーデ決めて会場行くよ!」
『声を誉めてくれて、ありがとう!』
盛り上がる(?)二人の会話が遠ざかり、優大の胸には大きな穴が開いていた。
「帰り、ゲ〇寄ってこ……」